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女神浪漫紀行外伝 阿波の女神

ここは、古都にある一軒のBAR。
武士が歩いていた時代に作られた人工の川にかかる小さな橋を渡り、細い路地に面した目立たない建物の階段を上がったところ、名刺大の表札の横にある頭を下げないと入れないような小さな扉を開けると、そこにカウンターだけの隠れ家的なBARがひっそりと明かりを灯しているのである。


平日の夜だからか、今夜のお客は、男女の二人のみ。当然のことながら、マスターの手は、さほど動かすほどの仕事もなく、暇を持て余した耳は、お客の会話に傾いていた。といっても、聞き耳を立てるでなく、無視するでもなく、ごく自然な形で、マスターは二人のお客に対峙していた。

この二人のお客は、いわゆる常連客であり、とりわけカップルという関係でもなく、友達とも言えるような関係もないようであるが、この店で顔を合わせた折は、必ず会話に発展する。といっても、殆どは男性客が一方的に女性客にまとわりついているとも見えなくはないが、女性客もそれを迷惑がってる様子もなく、良好な関係であるとマスターの目には映っていた。

この男性客は、ハタといい、旅ガイドのようなルポルタージュを書きながら生計を立てていると聞いている。女性は、ミワちゃんと呼ばれ京都市内で働くOLらしい。ミワは、神社巡りと歴史考察が趣味だそうで、この店でもよくそんな話題を語っている。もう一人、たまに訪れる初老のタケウチと名乗る男が、ミワの話仲間で、滅多に会うこともないのだが、タケウチとミワが席を並べた時は、多量のアルコールを消費しながら延々とそんな話題でも盛り上がるのが常だが、今夜はタケウチはいない。


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