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秋のStudyイベントに参戦〜数学デーの話


こちらの企画に参加するのであるが・・・


数理落語家は、文系と理系のどっちに参戦するんだ?ま、理系かな。ということでやはり数学の話をする。


結婚してから、それまで離れていた数学をまたやり始めた。


『数学デー』というイベントが家の近くでやっていて、参加することにしたのである。

どういうイベントかと言うと、なんのことはない、数学を餌に人が集まるだけである。数学的な話題で盛り上がるテーブルがあったり、壁際では圏論という分野の講義が本格的に行われていたり、あるブースでは数学のゲーム(『素数ビンゴ』など)で盛り上がっていたりするのである。

数学がテーマのサロンとかコンベンションとでもいったところだ。


多くは数学科の人々であろう。頼もしい。だがそれだけではない。工学部の学生は教科書片手に、数学科の人に質問をしていた。なるほど、ここにいればたいていの数学的な疑問を誰かが答えてくれるであろう。あと、数学好きの高校生も来ていた。予想通り圧倒的に女性は少ないのであるが、それでも『素数大富豪』をプレイしに来ている女性がいた。気になる。


「療養中の彼女に寄せ書きをしたいので、あなたの好きな数字を書いてください」などと求められる場面もあった。好きな数字?それがすぐ答えられる人は世間では少数派であろう。いや、ここでも皆すぐには答えられない。好きな数字がありすぎて選べないのだ。π ? e ? それとも完全数とか大きな素数?
(ちなみに私はℵ1、すなわち無限大の一種を書いた)


すごいな、と思ったのが、数学とは関係のない生活を送っている青年が、縁あってその場に混じり込んでいたときのことだ。そのテーブルは位相幾何学のちょっとした話題で盛り上がっていた。「ドーナツとコーヒーカップは同じものである」と、ミスドでバイトしていたら絶対に許されないような主張をする、あのトポロジーという学問の話である。

その数学に普段縁のない若い青年は、なんともまあイケメンというか、スポーティーで、いい感じで、にこやかに数学の得意な人々の話にも関心を寄せて、「へえー、そうなんですか」「つまり、○○みたいに」などと、聞いた話を飲み込んでいくのである。質問もまた適切で、その場を最大限に楽しんでいた。こういう人は、どこに行ってもモテるであろう。

もうひとつすごいな、と思ったのは、数学の知識をたっぷり持っているほうの答え方である。

なんの話をしていたか正確には忘れたが、例えば「相同ってのはなんですか?」とそのイケメンくんが質問をしたとしよう。すると、


「うーん、どこまで話そうかなあ」


まず思案したのである。

数学の、とある話をするには、その前提となる数学の話が必要だったりする。また、厳密に話そうとすると難しくなりがちで、わかりやすく話すと多少の正しさを犠牲にすることもある。おそらくそのへんの加減やら、あるいは目の前の数学の知識のない相手の関心がどこまであるのかを図ったのであろう。

得意分野というものは、ついベラベラと語りがちである。うんちく大好きおじさんは、関係ないことまで喋りがちだ。ニーズ以上の商品を提供する押し売り、カラオケでマイクを持ちすぎの状態になりかねない。

それがまったくないのだ。


ヘッセは、「世の中でもっとも美しい関係は、学びたいと思う少女とそれに教える青年の関係である」と言った。おおー!この数学デー、世の中でもっとも美しい空間なのではないか?


本当に深く理解しているがゆえに自信もあるのだろう。知識でのマウント取り、などというものと程遠いのは、数学をする人ならではの話なのか。それともあの空間が特殊であったのか。


「きっとここには真の愛があるのだ。数への愛と、人への愛とが」


数学好きおじさんはホワイトボードに書かれた" i " とという文字に目が留めつつ、感動を深めるのであった。今度は歌会にでも行こーっと。


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