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魔法少女Gオンラインサロン備忘録(その256)


今日はメルマガを読む分科会に参加した。



アタシはある朝目覚めると、魔法少女になっていた。謎生物に無理やり「契約」を結ばされ、自分の身も心も魔法少女になったのである。

「敵」は明らかにいた。悪の怪人組織《アークドイゾン》である。そう。アタシは彼らを倒すために魔法少女になったのだ。たぶん。


…そこが自信がない。自分が魔法少女である自覚は強くある。そういう自覚を持つものらしい。でも、アークドイゾンについては、目覚めた朝に外で悲鳴が聞こえて女性が怪人に襲われていたので、魔法で炎を放ち、追い払ったというだけだ。

人類の数%が魔法少女化したのと、アークドイゾンが出現した時期がほぼ同時であることから、怪人組織を倒すために魔法少女が生まれたのだろうと解釈している。そういう使命感も自然と持つようにできているようだ。


とはいえ、元はおっさんである。妻も娘もいる。このフリフリの服とどう見ても中学生くらいの小さな体、なにより驚いたのは声だ。なんと喋り方までもが少女化されている。


それが決め手となって、そのまま家を出ることにした。ただ、どうしても手放す気にならなかったのはスマホとパソコンだ。それだけ取りに部屋に戻ると、家を後にした。

市街でアークドイゾンの破壊行動を見かけ、戦闘。怪人と言えど殺してはいけない、という少女以前の思想に支配され、追い払うだけにした。公園の遊具がめちゃめちゃになったが、なぜか警察が来ることはなかった。

アタシはネットを見た。ツイッターのトレンドに「魔法少女」が上がっていたことで、自分以外にも魔法少女がいるということに気づいた。その後もネット情報から、魔法少女の存在を確認した。人類の何パーセントかが魔法少女にさせられたようだ。


選ばれし者が怪人と闘うの様子は、戦隊もの?仮面ライダー?八犬伝や西遊記?だが魔法少女は謎生物の寄生により無理やり契約させられてなっている。それが無数にいるのだ。当然最初は組織化もされていない。『寄生獣』とか『亜人』とかの世界観に近い。いちばん似ているのは『GANZ』かもしれないな、と思った。


アタシはとにかくネットで情報を拾いつづけることにした。すると見つけたのが、地球最大の魔法少女オンラインサロン、魔法少女Gの " 魔女とアークドイゾン研究所 " だ。

主催の魔法少女Gは、元有名アーティストとの噂もあったが、このサロンは原則アノニマス、つまり少女になる以前の経歴を互いに明かさないというのがルールになっているので本当のところは不明であった。アタシは早速入会した。すると、会員さんに大家さん(たぶん)がいたらしく、住む場所まで解決してしまった。


以来、サロンの情報に基づいて、分業で怪人退治の仕事をしているわけであるが…


メルマガ内のリーダーGのコラム「なぜ魔法少女か?〜魔女でも魔法使いでもなく〜」の考察には納得させられた。ここで論じられていることは、専門的には『魔法少女デザイン仮説』というものに属するものらしい。最新情報には追いつかなくては。


まずリーダーは、次のようにまとめている。

例によって誰もが噂ばかりに流されやすくなってしまう現状がありますから、「仮説は極力控えるように」という批判もあるかもしれませんが、人類が未だ迎えたことのない状況において、とりあえず何らかの仮説に基づいてまずは動くほうがいいです。
「魔法少女に関する性質やアークドイゾンに関するデータが全て揃うまで行動しない」「エビデンスのないことはするな」「十分なプランを練ろ」これらはすべて、戦闘に加わらないための言い訳です。それでは手遅れになります。
アークドイゾンは、この世のあらゆる不確実なものがそうであるように、今後十中八九戦略を変化させてきます。それでも我々が勝つためには、今ある情報である程度の見切り発車と、そこから集められた情報による速やかな戦略変更が必要です。
くれぐれも言いますが、これまでの戦争における既存の戦略をそっくりそのまま使うことは、大きな失敗に繋がる可能性があるということを肝に命じてください。


その次に、我々が魔法少女になったのは、他の姿よりも利点があるからであるという仮説が述べられていた。

その利点というのを箇条書きに列挙すると

1. 若くて健康であるのは戦闘に都合が良い

2. 健康ではあるが屈強ではないことにより、アークドイゾンとの戦闘では自ずと筋力に頼る戦闘が排除される

3. か弱く守りたい存在に見えることで、死傷者を減らす戦略が取られやすくなる

4. 元の姿が分からないことにより、闘いに参加する者の匿名性が保たれる

5. 魔法少女になれるなら戦闘に加わる、という層を獲得できる(特に知識の豊富なオタクや机上の闘いに強いゲーマーを戦闘に呼び込むには、この姿しかなかったかもしれない)

6. 逆に、戦争についてのステレオタイプな発想を持ち「こんな格好で闘えるか!」とでも言い出すような者(軍人等)を排除することができる

7. 魔法を用いた反社会的行動(特に性的なもの)が、少女の肉体であるときにはなされにくい(その意欲も湧きにくい)

8. なんか楽しい


要するに「魔法少女としてアークゾイドントの闘いに参加するのはまるでオンラインゲームのようだ」などと言われている現状に対し、「それは、それこそが最適解であったからそうなったのではないのか」というリーダーの考察には唸らされる。そこからさらに考えられることは


「つまり魔法少女であることには合理性があります。これを即、「謎生物が人類の味方である証拠だ」と判断してはいけないかもしれません。ただ「魔法少女に変えられたのは企画付きの小説家の空想が現実化したのだ」という説を踏まえたところで何も産まれません。
まずは、人類の一部が魔法少女化されたことに何らかの合理的な知の働きがあったと考え、そこから逆に戦略を考え、その下に動くことにします。


するとまず、戦闘には、魔法少女の腕力は求められていません。ですから、武器の調達や武術にいそしむことは、少なくとも我ら魔法少女が第一にするべきことではありません。魔法による戦闘力を高めることのほうが求められるでしょう。

次に、多くの犠牲を要する戦略は、おそらく間違いだと言えるでしょう。最後まで死者ゼロが達成できるか分かりません。死者を復活させる魔法どころか、ゲームに見られるような傷を充分に治すような魔法さえまだ見つかっていません。ですから安全第一で戦闘をすることが重要で、そのように訓練をし、戦略も立てる必要があります。

とにかく言えるのは、肉弾戦よりも知と情報の戦いです。
無法少女層や他の派閥の様々な考えもありますが、こういった多様性も避けることはできません。
地球規模最大の魔法少女サロン、我らがチームGでは、上記の仮説を元に戦闘をし、さらなる情報収拾をしていくものとします。


ということだ。まったく納得なのであるが、Zoomでいっしょにメルマガの内容を確認し合っていた少女ディオールは納得していない様子であった。


「毎度思うんだけれどさあ、なんでメルマガなの?魔法少女らしくなくない?」


あ、ツッコむのそっちですか…

少女ディオールは、魔法少女の組織についてのデータを収集している。どの程度の規模でならチームとして有効に機能するのか、といったことを研究するチームにおり、密かに政府との交渉役も兼ねているという。これらの点については外部のコンサルタントも入って様々な試みがなされているということだ。

(たしかにデータ収集には魔法は必要ないので、魔法少女だけでやる必要はない)


「テレパシー系の魔法は存在するらしいけれどねえ。ただ、そこは個人情報の問題とかいろいろ出てくるから、本当に極秘の情報伝達をするときだけ利用されるみたいだけれど」


少女ジョニ黒が言った。(どうでもいいけれど、二人とも少女になる以前の姿が透けて見える少女ネームだ)

彼女(たぶん彼)はこう見えて(みんな似たり寄ったりの少女だが)、「管理班」にいる。魔法を適切に(本当に適切であることは誰が決めるのかということはおいといて)使っているかどうかを管理するチームだ。特に、魔法を戦闘のためではなく、私利私欲を含めた別の用途に用いる『無法少女』については、世界各国の政府が問題視している。



「まあ、オンラインサロンで魔法少女同士が戦闘について学ぶなんて時代が来ることを予測できた人はいないよね」


これはアタシが言った。少女ネームは「少女プラチナ」である。


ちなみに私たちのチームはこの後「少女後」を考える勉強会にも参加することになっている。


アークドイゾンとの戦闘が終わった際、少女たちはおそらく元の姿に戻る、という予測がある。これが「少女後」の時代だ。

アークドイゾン退治がほぼ魔法少女のみに託されている現在は、魔法少女が非魔法少女に不当な扱いを受けることはあまりないだろうが、戦闘が終わった後、元魔法少女は迫害を受ける可能性がある、と言う人もいる。

その他にも、美しい少女であったのが元のむさい、社会的役割もないおっさんに戻って自殺する人が現れるんじゃないかという『少女ロス問題』も「少女後」には想定されている。

勉強会ではそれを検証する。



アタシ……すっかりアタシっていうのが板についたな……の担当は魔法開発だ。アタシの場合魔法を手に入れた瞬間から『アイデンディティと戦う期』を素通りして(魔法少女の5%ほどしかいないらしい。でもさらに上がいて、3%は、魔法少女になって喜んだ人たちだということだ)、とにかく新しい魔法を作ることに夢中になった。

最初は戦闘分野での魔法を開発した。

だけど今では、「少女後」に使う魔法について研究している。


これは極秘だが、アークドイゾンがいなくなった後、魔法少女についての人類の記憶はすべて消したほうが良い、とリーダーは考えているのだ。

魔法は人類に、大きくバランスを崩すものだ。怪人出現という限られた非常事態のみに発動されたほうがよい。

仮に「少女後」に魔法の力が消えたとしても、人類は魔法の力を手に入れるべく、あるいはまだ存在する魔法少女を見つけるべく奔走するであろう。

限られた個人だけが魔法を使えることになったら。あるいは特定の国だけが魔法を手にしたら……


アタシはふと思う。もしかして怪人と魔法の登場は、人類が魔法を手に入れたときにどうなるか、を調べるためのテストであるのではないか、と。無法少女と呼ばれる人たちが存在しているのも、人類が魔法を手に入れたときの危険さをすでに物語っていると言える。


怪人との闘いの裏で、アタシたち分科会の裏の闘いがあるわけだ。この件は無法少女たちに知られたら絶対に妨害されるだろう。だから極秘なのだ。


地球で魔法が使われた痕跡をなくし、すべての魔法少女、無法少女たちが元通りの世界の続きの生活を送れるようにする。そのような魔法を発明し、魔法の力が消えてしまう前に発動するようにするまでが、私たちのプロジェクトなのだ。


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などという小説を書いていたのだが、これってもしかしたら、本当にあったことなのかな…



#松之介の勝手に魔法少女

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