見出し画像

ひきこもり について

昨年の夏、映像制作の仕事で「ひきこもり」の方とそれを支援する人たちを取材した。佛教大学でひきこもる若者の社会的支援策の研究を行っている、山本耕平先生。そして、先生の紹介で取材させていただいた、社会福祉法人一麦会 麦の郷 ハートフルハウス創~Hajime cafe~に通う皆さん。彼らを支援している職員の皆様。お話を伺い、その生活を取材させていただくと、曖昧なイメージしかもっていなかったこの社会問題について考えさせられた。

「ひきこもり」と一言に言っても、抱えている想いや背景は違う。そして、「ひきこもり」という状況と合わせて、鬱や強迫性障害、依存症などを抱えている場合も多くある。取材のとき、当事者の方に「強迫観念に駆られて家から出られない、息が苦しくなって動けなくなる。でも、最近は薬が効いて落ち着いています」という話を聞いた帰り道、クルーのひとりが「薬を飲んで、症状が落ち着くなんて本当に病気なんですね」と言っていた。これは、やはりどこか私たちの気持ちのなかで、「本人の努力でなんとかなること」という意識があったのだと思う。この方は投薬して少なからず治療ができる強迫性障害を抱えていて、ひきこもりという状況にある、というふうには見れていなかったのだ。それが病気だった場合、症状が重い場合もあるし、軽い場合もある。病気の種類も違う。私たちが病気になっても、病院に行くべき時もあれば、ゆっくり休んだら直る場合もあるし、根性で頑張れる程度のこともあるし、入院しなくちゃいけないこともある。そしてそれは、パッとみた第三者には判断できないし、さらに、病気なのか障害なのか個性なのかすらきっとわからない。

今回、この記事を書こうと思ったきっかけは、和歌山県の「ひきこもり支援周知動画」だ。

まったくもって「ひきこもり」の方を支援していない内容。むしろ、家からでられない、今治療している方たちを追い詰める内容。支援している皆さんの努力を無にする内容。ほんの少し、取材しただけの私ですら怒りを覚える内容だった。

これは2021年秋に和歌山県のプロポーザルを経て採択された会社が制作した内容。予算は約330万円。
プロポーザル詳細 https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/040400/d00208625.html
映像の制作費については、例えば1分いくらというような簡単なものではない。15秒の映像に何百万とかけて伝える場合もあるだろう。予算として330万円が高いとか安いとかいうのはナンセンスだ。
でも、この映像に330万円はひどいと思う。これだけの予算があったら、もっと綿密に取材することができたのではないか。もっと、正しく「ひきこもり」の方たちの抱える問題とどう支援したらよいのかを伝えることができたのではないか。これだけの予算を使って、間違った情報をばら撒き、苦しんでいる人たちを追い詰めているのではないか。

同時期に高知県がお笑い芸人の千原ジュニアさんを起用して、ひきこもり支援の動画やリーフレットポスターを制作した。
https://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/060101/2021080100020.html

本来であれば、こういった内容を伝えなくてはならないのではないか。ぜひ、見比べてほしい。

また、手前味噌だが、私が取材に関わった動画がこちら。
シンガポールのドキュメンタリーで、アジアの様々な社会問題について取り上げた番組だ。日本と台湾の「ひきこもり」と呼ばれる人たちをクロスさせながら構成している。日本のパートと台湾のパートが入り交じり、見にくいかもしれないが、見てほしい。

「ひきこもり」の人たちを取材しているというと、「彼らは親がいるうちはいいけど、ひとりになったらどうするのか?」「働かざる者食うべからず」というようなことをよく言われた。でも、例えばがん患者に同じことを言えるだろうか。まずは病気を治そう!と言わないだろうか。
彼らは、親に養ってもらっているかもしれない。生活保護をもらっているかもしれない。そんな彼らが、少しの愉しみにお金を使うことに嫌悪する人が多い。でも、白血病で闘病している人に、働いていないんだから、愉しみにお金を使うなっていえるだろうか?

私がもし、この社会問題についての動画を制作するなら、方向性としては2つある。まずは、「ひきこもり」の当事者の方宛てに、ひとりで苦しまないでほしい。相談する窓口もあるし助けてくれる人もいるよってことを伝えること。アプローチの仕方は違うかもしれないけれど、高知県の支援動画の内容に近いかもしれない。もうひとつは、一般の人たちに向けて、「ひきこもり」という社会問題について、正しい理解を周知する内容。正しい内容が広く知られれば、当事者の方たちが少しでも生きやすい社会になるはず。

ダイバーシティが叫ばれる世の中。様々な立場の人がいることを理解することがはじめの一歩だと思う。自分だって仕事もつらいし、人間関係で悩むこともある。でも、それと他人を比べて、自分が頑張っているのだから他の人も頑張るべき、というのはちょっと違うのでは?その人が抱えるバックグラウンドも違うし、事情も違う。自分の物差しと他人の物差しは違うのだ。彼らも、あなたもそれぞれに頑張っているし、「しあわせだな」と実感できるような社会はどんな社会??ということを考えていきたい。



私の意見ついては、賛否あると思う。そこは違うんじゃないか?という意見もあれば教えてほしい。ただ、和歌山県の動画については一刻も早く削除してほしいのだ。彼らを心から支援している方から、この動画は当事者たちにとって自殺を誘発するほどのものだと憤りの連絡が入った。この深刻な事態を真剣に受け止めてほしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?