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【長編小説】 初夏の追想

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30年の時を経てその〝別荘地〟に戻ってきた〝私〟は、その地でともに過ごした美しい少年との思い出を、ほろ苦い改悛にも似た思いで追想する。 少年の滞在する別荘で出会った人々との思い… もっと読む
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【長編小説】 初夏の追想 7

 ――どのくらいそうしていただろうか。多分、一分間ぐらい、いや、わからない――なぜなら、…

【長編小説】 初夏の追想 16

 ――やがて、季節は本格的な夏の到来を迎えた。  毎日蒸せ返るような暑さが続いた。平地と…

【長編小説】 初夏の追想 17

 ――蝉の幼虫が、地中における七年間の精進の末ついに地上に出ることを許され、成虫となって…

【長編小説】 初夏の追想 20

 私は再び犬塚家の別荘に戻った。平生通り、祖父は一切のことに無関心だった。あちらに行くと…

【長編小説】 初夏の追想 24

 その後、私は山を降りた。犬塚家の人々がそれからどうなったのかは知らない。  胃潰瘍の症…

【長編小説】 初夏の追想 26

 月が変わり、東京の美術館で守弥の個展が始まった。  パリを拠点に活躍する新進気鋭の画家…

【長編小説】 初夏の追想 28

 ――守弥はパリで絵を描くうち、あるフランス人の画家から言われたそうである。 「君の絵は、クスノキ画伯の作品を彷彿とさせる」  と。有名な西洋画家であった祖父は、フランスでもよく知られていた。  ひとりだけではなかった。親しくなった日本人留学生の中にも同じことを言う者があったし、パリの画廊の目利きの画商や美術評論家からも何度となくそのようなことを言われるようになった。  守弥は、私に見てもらいたいものがあると言った。私たちは画廊の喫茶室を出て、ギャラリーのほうへ移動した。