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【長編小説】 初夏の追想

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30年の時を経てその〝別荘地〟に戻ってきた〝私〟は、その地でともに過ごした美しい少年との思い出を、ほろ苦い改悛にも似た思いで追想する。 少年の滞在する別荘で出会った人々との思い…
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2024年5月の記事一覧

【長編小説】 初夏の追想 21

 パタン、と、扉が閉まった瞬間から、その部屋には私と守弥の二人きりになった。部屋の中は閉…

【長編小説】 初夏の追想 22

 ――目が醒めたとき、私は床の上に横になっていた。部屋の中に守弥の姿はなく、私の絵画たち…

【長編小説】 初夏の追想 23

 ――祖父の離れに戻った私を犬塚夫人が訪ねて来たのは、その一週間後のことだった。祖父は篠…

【長編小説】 初夏の追想 24

 その後、私は山を降りた。犬塚家の人々がそれからどうなったのかは知らない。  胃潰瘍の症…

【長編小説】 初夏の追想 25

 ――今朝のことである。私はこの屋敷に到着してから初めての来客を迎えた。  昨夜その人の…

【長編小説】 初夏の追想 26

 月が変わり、東京の美術館で守弥の個展が始まった。  パリを拠点に活躍する新進気鋭の画家…

【長編小説】 初夏の追想 27

 守弥がパリへ渡った翌年の、五月の初旬のことだった。犬塚夫人はいつものように休暇を開始するために、あの別荘を訪れていた。裕人も付いて行く予定だったが、仕事の都合で二、三日遅れることになった。  別荘地には誰もいなかった。その近隣では、向かいの建物に私の祖父が絵を描いているくらいだった。  犬塚夫人は別荘に着くと、裕人が到着するまで独りで過ごした。そのあいだ、連絡もなかったけれど、普段と違ったことは何もないと思っていた、と裕人は言った。 「ところが……」  裕人は言いながら気色

【長編小説】 初夏の追想 28

 ――守弥はパリで絵を描くうち、あるフランス人の画家から言われたそうである。 「君の絵は…

【長編小説】 初夏の追想 29 最終回

 ――鑑定の結果が送られてきたあと、守弥は私に電話してきた。  私たちは、時を忘れて語り…