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無個性の僕が、勇気を出して、現代アートに挑んでみた件

これまで僕は、美術館に自分から足を運んだことがない。
興味がないわけではないが、フツーの営業マンである僕は、
せっかくの休みぐらい、何も考えずにのんびりしたいからだ。
僕が勤務する「(株)人生は上々だ」というクリエイティブカンパニーは
奇想天外な生き物が集まるサーカス団みたいな会社だから
平日の心の消耗度がえげつないのである。

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しかしある日、代表の村上モリロー氏がポツリと言った。

「Yさんって、いつも心が動いとらんな。うちらの仕事って、人の心を動かす仕事なんやから、まずは自分の心を動かさないと」

弊社の代表は、こういったデリカシーのない発言を平気でする男だ。
モリロー氏は気づいてないかもしれないが、
僕の心だって動くことはある。
車を運転していて青信号が続いたり、
コンビニでお会計が777円になれば、テンションもあがる。

「Yさん、休みの日に、美術館に行ったりせえよ。手当も出るんやから。」

ちなみに弊社には、「芸術鑑賞手当」※補足 というおかしな福利厚生がある。
美術館に行けば、その鑑賞料や入館料の倍額が支給される制度だ。
とはいえ、これもある種のハラスメントではないかとも思う。
もちろんクリエイターにとっては嬉しい制度だろう。
しかし僕は、フツーのサラリーマンだ。
休みの日は、ビール片手にYouTubeで
マイケル・ジョーダンの神技プレー集を楽しみたい。
オフの過ごし方まで指示されるなんて、
これは、クリエイティブハラスメント、略してクリハラだ!

と、思いながらも、僕はやはり小市民である。
元来、僕は買い物でポイントを貯めるのが好きなタイプ。
スーパーの割引セールも大好物だ。
だから、『もらえる手当があるのなら、利用しちゃえよ』と
僕の中の小市民が、僕を誘惑しはじめ、
とうとう自分から美術館の門を叩くことになったのだ。

訪れたのは、香川県丸亀市にある「猪熊弦一郎現代美術館」。

丸亀駅前にドドーンとあるので、分かりやすい。
近づいてみると、何やら壁に絵が描いてあって、
赤や黄色のオブジェがある。これも作品なのだろうか・・・

ちなみに僕は、美術館に来る前に予習をしている。
やはり根っからの営業マン。
なんの予備知識もなく、勝負にのぞむことはしない。
アート初心者の僕が参考にしたのが、これだ。

中田敦彦のYouTube大学


YouTube最高。なんでもあるやん。
あっちゃん、かっこいいー。
予習はPERFECT HUMANのおかげでバッチリである。
あっちゃんいわく、アートは作品という「花」だけを見ても
「なんとなく難しい、分からない」で終わってしまう。
作者の想いや思考という「根っこ」を見ていくと楽しくなる、とのこと。
ふむふむ。

僕は、武勇伝、武勇伝、とつぶやきながら
「猪熊弦一郎現代美術館」の門をまたいだ。
さあ、ここからが勝負である。
でんでんデデンでん。

僕は今回、あっちゃんのアドバイスから、ひとつの秘策を用意した。
猪熊弦一郎先生の「根っこ」を感じるためにはどうしたらいいか。
それが・・・

THE タイトル当てクイズ!

作品を見て、作者の気持ちになり、
そのタイトルを当てる、という荒業である。

そんなわけで僕は、クイズ会場である館内に足を踏み入れた。
よし。
ひときわ目立つ作品があるな。
まずはこれから勝負だ。

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顔だらけ。誰かの似顔絵だろうか。
まさかタイトルが「顔」ではないだろう。
アーティストらしい、ひねりのある名前のはずだ。
よーく見ると、みんな無表情だなぁ。
「憂鬱」
それではストレートすぎるか。
では、
「日曜の午後」
サラリーマン的な発想だが、これでどうだ!

おそるおそる僕は、タイトルを確認した。

正解は・・・

「Faces 80」

「顔」かい!シンプルやな。
いや、この「80」がキモなのかもしれない。
どれどれ、縦9マス・横9マスだから合計81マス。
そのうちの1マスには顔がないから、合計80。
なるほど。猪熊先生は端数がキライなタイプか。

お次は、これ。

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もう、「顔」の例もあるから、
シンプルにいこう。

「女と猫」

どうだ?

正解は・・・

「青い服」

そこかい!服なんや。
女性は? 猫は?
いや、そんな目立つものに引っ張られることが
凡人なのかもしれない。

次は、これだ。

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立体物が来たか。難易度も高そうだ・・・
なんか身の回りのあるもので作ったような作品で、
僕には虫にしか見えない。

うーむ。
ここは発想を変えてみよう。

「無視しないで」

小さい作品だけに。

どうだ?

正解は・・・

「対話彫刻」

こんなん分かるかい。

完敗だった。
僕は結局、ひとつの作品も言い当てることはできなかった。
それも当然だろう。
僕はアーティストとは程遠い、フツーの人間なのだから。

後日、代表のモリロー氏にこの事を報告した。
すると珍しく、お褒めの言葉をいただいた。

「アート初心者のタイトルづけ、めちゃくちゃ面白いやん!」

あ、なんか嬉しい。
ただ、自嘲気味に僕は言った。

「ひとつも当たらなかったですけどね」

「いや、当たる当たらないじゃなくて、Yさんがどうしてそのタイトルを付けたか。他の人だったらどんな名前にしたか。そういう議論をすることで、作品を深堀りすることもできるし、それが記憶に残っていくやん」

「アイデアって記憶の中からしか生まれてこないんやから、すごく大事なことなんやで」

はぁ、そうですか。

「で、Yさんどんなタイトル付けたん? それ、みんなで議論しようや」

しまった・・・
僕は、いつの間にか目的がクイズに正解することになってしまい、
自分がどんなタイトルを付けたか、ほとんど覚えていなかった。

「Yさん、教えてや。Yさん??」

「すんません。覚えてないです」

小さなため息をついたモリロー氏に、
僕は「芸術鑑賞手当」の申請書を提出した。

常設展・入館料300円
つまり、鑑賞手当は600円

予想以上に小さな金額だ。
それでも、僕は満足していた。
現代アートには完敗したけれど、
それでいいじゃないか。
僕は、フツーのサラリーマンなのだから。

I’m not PERFECT HUMAN

※「芸術鑑賞手当」とは
展覧会やアートイベントに行って感想文を提出すると、チケット代金の倍額が手当として支給される人生は上々だ独自の福利厚生制度。
クリエイティブで心を動かす人材になるためには、まず上々の社員自身が日々の日常以外に心を動かす。そして、感じて思考するという体験を増やすべきだ”と考える人生は上々だの信念を形にしたような制度である。

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