【短編小説】今も、明け方の川辺を彷徨っている。

こんにちは、深見です。眠いです。

夜更かしをしても、遅くとも8時には目が覚めてしまいます。おかげで睡眠時間はたったの4時間。

そもそも夜更かしをするなという話ではあるんですが、夜しか盛り上がらない気持ちってあるじゃないですか。えっちな話ではないです。

今も、明け方の川辺を彷徨っている。


 夢の中の光景は、いつだって薄暗く薄明るい。きっと明け方なのだな、と分かる。真面目といおうか堅物といおうか、私の夢はたいてい、肉体が存在する世界の時間帯をそのまま反映する。

「朝が来るまでに、向こう岸に行かないとね」

 誰かが私に言った。中学の頃の同級生だったように思う。私は頭の片隅で「懐かしいな」と思いながら、「うん」と頷いた。夢の中では、その子と私はまだ友達だった。大きな川の向こう岸に私たちの家があり、朝までに家に帰らないと、私たちは永遠にこの川辺を彷徨うことになる。

 早く帰りたい、と思った。共に永遠を過ごすには、この子の存在は私の中で曖昧過ぎる。だけど案外、好きでも嫌いでもないこういう子の記憶ほど、死ぬまでずっと心の中に残っているんじゃないかと、そういう気もする。

 川は流れていない。細長く切り取った海のように、波を揺らしながら横たわっている。橋はなく、船もない。水面は穏やかだけれど、一歩でも足を踏み入れれば、たちまち溺れてしまうことを私たちは知っている。

「朝が来るまでに、向こう岸に行かないと」

 この子の心の片隅にも、きっと私がいるのだろう。好きでも嫌いでもなかった、昔の同級生。共に永遠を過ごすには心許ない、だけどきっと永遠に共にいてしまう、在りし日の思い出。

 この夢はどういうふうに終わったのだったか。確か向こう岸には行けなかった。私は目を覚まし、私の意識は現実を継続する。

 けれど恐らく、あの日あの夢を見た私の意識は白玉団子くらいの大きさに引きちぎれて、今もあの川辺を彷徨っている。
 時と共に曖昧になりつつも、しかし決して消えてはくれない記憶と一緒に。もう顔も名前も思い出せない、だけど確かにあの頃、少しだけ仲が良かったはずの、あの子と一緒に。

 私たちは今も、これからも、いつまでも、明け方の川辺を彷徨っている。

おわり

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