第八回阿賀北ロマン賞受賞作①『あやめのハエピン』 阿部 泉咲
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第八回阿賀北ロマン賞受賞作①『あやめのハエピン』 阿部 泉咲

 この記事は新潟県の阿賀北エリアの魅力を小説で伝えてきた阿賀北ロマン賞の受賞作を紹介するものです。以下は阿部 泉咲さんが執筆された第8回阿賀北ロマン賞受賞作です。2020年より阿賀北ロマン賞は阿賀北ノベルジャムにフォーマットを新たにし、再スタートしています。<詳しくはこちら>公式サイト

 小説創作ハッカソン「NovelJam(ノベルジャム)」初の地方開催を企画・運営しています。「阿賀北の小説 チームで創作 敬和学園大が初開催 筆者と編集者、デザイナー募集へ」 (新潟日報)→ https://niigata-nippo.co.jp/news/local/20200708554292.html」

『あやめのハエピン』阿部泉咲

 は高校三年生。でも、高校生でいられるのもあと少しだ。今日は明日の卒業式の予行練習。久しぶりに足を運んだ体育館は、もうすっかりこの前までバレーボールをしていたとは思えないくらい引き締まった空間で、コートの線が消されてしまったと思うくらい別世界だ。紅白幕に身を包んだステージをふと見ると、彩夢の目に、校章旗がとまった。どうみてもハエだよ。彩夢は三年間お世話になった校章に思いをはせた。
校章は、アヤメをモチーフにしたものらしい。だけど、この校章は「ギンバエ」とか「ハエピン」とか、呼ばれていた。バッチとして制服にくっついていると、銀色の小さな校章は、アヤメの花びらと「高」の文字の組み合わせのデザインのおかげで、ハエが羽を広げてとまっているように見えるからだ。
ハエピンには、十年に一度、不思議なものが紛れているという言い伝えもあった。それに当たった人は、高校生活を幸せに送れるといわれていた。彩夢のギンバエは、そんな特別なものではなかったけど、登校のときも、勉強をしているときも、昼食を食べるときもいつだって一緒だったギンバエは、彩夢にとってすごく特別なものだった。彩夢の高校生活を間近で見てきたのは、間違いなくこの胸にとまっている、一匹のハエなのである。
彩夢は大きな姿見に、制服姿の自分を映した。すっかりからだに馴染んだ制服、それからハエピン。
 ハエ。彩夢はギンバエとの思い出を一つ思い出した。それは確か、一年生の衣替えの時期だった。高校生活にも慣れてきて、制服も軽くなった初夏のことだったかな。

衣替えまで着ていた冬の制服は、毎日ハエピンは付けっぱなしでいいのだが、夏服のワイシャツになると、毎日取ったり外したり。部活の朝練があるのに寝坊をして家をとび出した彩夢は、ギンバエをすっかり忘れていた。
「ないないないっ。」
朝練後、ギンバエを付けてこなかったことに気づいて、もう慌てっぱなしだった。
「どうしたんだよ、彩夢。」
「今日くらい、どうってことないよ。」
そうチームメートに励まされたが、やっぱり落ち着かなかった。不安でいっぱいで、気が付いたら保健室のベッドの上だった。
「あなたが倒れてから、顧問の先生が心配して、お家に電話したの。そうしたらこれ、お母さんが届けてくれたよ。洗濯機の中に交じっていたって。」
保健室の先生はそう言ってハエピンを渡してくれた。ギンバエをワイシャツのポケットにつけると、今その瞬間に至るまでの一部始終が、とてつもなく恥ずかしいことに思えた。
「あ、あの、もう元気になったのでっ。」
保健室を飛び出した。たった一日ギンバエをつけて来るのを忘れただけで、こんな風になるなんて本当に信じられなかったから。

教室に戻ると、みんな集まって写真を撮り合っていた。ぼうっと教室を眺めている彩夢のもとに、親友のが駆け寄ってきた。そうして、彩夢に向かってこう言った。
「ずっと、ずっと、言おうと思っていたんだけど…、今日は瑠璃色なんだね。本当にきれい。」
「瑠璃色って、何が…。」
彩夢は親友の言っていることの意味がさっぱり分からなかった。
「何って、それだよ。」
彼女が指さした先にいたのは、彩夢の胸元にとまっているギンバエだった。
「もしかして、気づいてなかったの? クラスのみんな、いや、全校のみんなが気づいていたよ? 彩夢のハエピンは、いつも色が違ってた。体育祭で優勝した時は金色に、数学のテストが帰って来た時は赤色だった。体操着無くして見つかった後は、ピンク色。トイレに駆け込んでいる日は、くすんでた。私はそれを毎日毎日隣で見てきたよ。」
彩夢は胸元のハエピンを見た。瑠璃色? 彩夢には、ギン色にしか見えなかった。
「あー、すっきりした。ねえ、早くうちらも写真撮ろう。」
困惑している彩夢をよそに、そう言って桜良はいきなりシャッターを切った。
「彩夢。」
 どこからか声が聞こえる。今度は桜良ではない。その声が胸元のギンバエからだということに気づくのに、時間はかからなかった。
「これからは自分で、今日はどんな色の日だったか、考えるんだよ。そうすれば、人生はとても色鮮やかだって気づくはず。今日までありがとう。楽しかったよ。」
ギンバエはそう言うと、いっそう輝きを増した。ギンバエからのメッセージを心に刻むと、今度は彩夢にも、その色と輝きが感じられたのだった。        (おわり)

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