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見つからない言葉  山根さんの企画

あの人に手紙を書いている。メールなんだが・・・。
 
残念ながらいくら徒然に書き連ねようと採用できるようなものはない。白馬に跨ったものや、槍で風車に突撃するような、そんなものしか上がってこない。
もどかしさという迷宮の悪魔が、どこからか頭をもたげ机に顔を伏す。
 
いっそ懐古趣味に浸って歌、そう短歌でも詠んでみようか。
待てよ。あの人は読める人だろうか。歌は読める人に贈らなければ、ただの文字の羅列。そうだ。そもそもあの人はどれだけ文意を理解してくれる人なのか。
 もしかしたら白馬に跨ったり、マントを羽織って街を練り歩くくらいでちょうどいいのかもしれない。
 
これは、これまで▢にばかり比重を置いてきたツケに違いない。
もしも上手くあの人を懐柔できて、一緒に暮らすようになったとしたらどうだろう。あの人がいる家に帰れるなんて、それだけで勝ち組だと思っていたが、これが考えを改める契機なのかもしれない。
簡単なゲームばかりをやらされたら、ついにイヤになってしまうだろう。かといって超難解なパズルばかりでも困ったものだが。かのサルトル、ボーヴォワール夫妻は果たしてどんな会話をしていたのだろう。意外と「今日は何喰う?」「知らねぇよ」てな会話ばかりだったりして。
 
思考も思想もその人自身なのだとそろそろ気づいてもいいお歳頃の私ではないのか。その時々、進捗状況やら相手の度量やら好みによって、扱う商品も変わって然るべきだ。それが恋愛百貨店外商の心得というものだ。
 
手紙を認めるのは、もう少しよく咀嚼してからの方がよさそうだ。まだどんな味がするのか、ちっとも知らないのだから。
 
ああそこの君。今、変な想像をしたね。そういう意味ではないからね。こういうことになるから困るんだ。
    723字


山根さん
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