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浦島効果 シロクマ文芸部

新しい浦島太郎は新しい服を着て、新しい釣り竿を肩にかけ、新しい亀に乗って地上に帰ってきた。新しい亀?そう、若い亀。
「新しい」も実は新しい。以前はもっぱら「あらたしい」と言っていたものだが、時代は変わるものだ。そういえば、「カッコいい」も最近「カッケー」になったと聞いた。

太郎に竜宮城ってどんなことだったの?と訊ねると、銀色のトンネルで繋がったいくつもの部屋があって、いつも曲がった坂道の弧の一点にいるような感覚だったと言った。それはその通りだろう。無重力の下では遠心力で架空の重力を作らなければならないんだから。

亀から浜に降り立った太郎は、新しいピッカピカの玉手箱を睨みつけた。
さて、どうしたものか。「開けてはならぬ」というのは「開けてみよ」ということだろうか。でなきゃ開けちゃいけないものをわざわざ持たせてはくれないだろう。試されているのか?あの乙姫ちゃんに。

そう言えば、「覗いちゃいやよ」って言われてた老夫婦が、気になって覗いてしまったばっかりに若い子を空に逃しちまったって噂を聞いたことがあるな。どうせお風呂でも覗き見たんだろう。そりゃ逃げられるわ。本当かどうか知らんけど。

そうは言っても好奇心には勝てぬ。それが人というものだ。好奇心を抑えられるようなやつは碌なやつじゃねえ。
新しい太郎は新しい玉手箱の新しい紐を解き、新しい蓋を持ち上げた。
みるみる白い煙が立ち上り、太郎はいっぺんに白髪になった。だんだんと目は落ち窪み、顔も手も皺だらけになっていく。腕もどんどん細くなる。やがて皮膚は骨に張り付き、全身が黒みを帯びてきた。白い髪は抜け落ち、腕が肩から落ちた。萎えた脚はその形を失い、崩れ落ちていく。そして屍となり、ついに一塊のカルシウムの山となった。

これが世に言うウラシマ効果Urashima Effectというものです。みなさんも宇宙旅行の際はご注意を。
       781文字

*お詫び:実際の浦島効果は太郎を傷つけません。太郎は数百年、数千年後の地球に帰ってきていたということもあり得るというものです。事実です。


小牧部長さま
今週もよろしくお願いいたします。



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