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映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』感想 清原果耶の、等身大の演技に安心する一作


 清原果耶が、いかに素晴らしい演者であるかを証明した作品。映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』感想です。

 14歳の少女つばめ(清原果耶)は、優しい父と母に囲まれ、平凡で幸せな生活を送っているように見える。だが、血の繋がらない母親が妊娠してから、どこか居場所の無い気持ちを抱えていた。噂話好きの同級生と話していても居心地が悪く、拠り所はお隣の大学生・亨(伊藤健太郎)への淡い想いだが、それすらも悩みの一つ。
 つばめは通っている書道教室の後、屋上で一人過ごす時間がお気に入りだったが、そこに派手な服装をした老婆・星ばあ(桃井かおり)が現れる。図々しく、ズケズケとものを言う星ばあにつばめは反発するが、次第に心を通わせるうちに、お互いの事情を打ち明けていく…という物語。


 『新聞記者』で日本アカデミー賞を獲った藤井道人監督の最新作。野中ともその小説を原作とした作品で、原作未読で鑑賞してきました。
 藤井監督作品は、『新聞記者』と『デイアンドナイト』を観たことがあって、現実の問題をテーマにしつつ、それをいかにもフィクションな世界観に仕立て上げている印象でした。『デイアンドナイト』では、貧困格差的な問題を主軸にしつつ、義賊的な車の窃盗団組織は、いかにも現実離れしていたし、政府の現実問題を描いた『新聞記者』は、かなり忠実にドキュメント的再現をしながら、クライマックスで外連味ある方向に急に切り替えてしまい、フィクション感を出しています(正直ここは、イデオロギー関係なしに作品としてはあまり評価できませんでした)。

 そして、今作では今までと違って、家族という小さい視点をテーマにしていると思うんですけど、フィクション的な演出はしっかりとあって、それが星ばあとの交流が描かれる屋上のシーンなんですね。ここだけあえてチープなスタジオセットで撮影されていて、おとぎ話やファンタジーのような非現実感が表現されています。そうすることで、つばめと星ばあがいかに大事な時間を過ごしているか、この2人が、抱えている問題から自分を切り離して避難する場所になっているかを表現しているように思えました。フィクション的な演出は、過去作よりはこちらの表現の方が、しっくりくる感じがありました。

 そして、今作はやっぱり主演の清原果耶ちゃんの演技があっての作品だと思うんですよね。製作意図も、女優清原果耶を魅せるためのものだったんじゃないでしょうか。
 個人的には、満島ひかり・広瀬すず・松岡茉優に続いて、俳優界に名を遺す怪物だと思っているんですけど(しかもまだ10代!)、今作でも真に迫る素晴らしい演技だと思います。

 正直、つばめが抱えている問題って、観客からしたらそんなに共感や同情するようなものでもないと思うんですよ、家族ドラマではわりかし手垢にまみれた悩みではあるし。
 ただそれを、このつばめという少女にとっては、深刻な問題、大きな悲しみであることを、きちんと説得力ある演技で表現してくれているんですよね。

 それと、今まで清原果耶の演技って、ポーカーフェイスで感情を隠しながら、何かを我慢するという表情が多かったんですけど、今作では少女らしい大きなリアクションもしっかりと演じていました。やっぱりこういう等身大の女の子も演じられるんですね。桃井かおりのアドリブっぽい台詞にも瞬時に切り返していて、星ばあとつばめが呼吸の合うバディのような関係になっていくのが、小気味良く表現されていました。
 清原果耶ちゃんのこれまでの出演作って、同じ藤井監督の『デイアンドナイト』でも、昨年の朝ドラ『なつぞら』でもそうだったんですけど、とにかく不幸に耐える役が多くて、いい加減しんどいなと思ってはいたんですよ。まあいかにも「薄幸の佳人」という美少女ではあるので仕方ないんですけど。そういう意味では、今作は複雑な生い立ちを抱えているとはいえ、比較的幸せな思いをする作品だったので、ホッとしました。

 物語自体は、思春期と老年期の交流という定番中の定番ではあるので、大きなインパクトは正直無いんですけど、その分、演技などを落ち着いて楽しむことができるし、リラックスして観ることのできる佳作だと思います。

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