見出し画像

映画『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』感想 憂鬱な映像美


 ようやく映画館通いも再開し始めました。映画『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』感想です。


 2006年、母親とNYを訪れたルパート・ターナー(ジェイコブ・トレンブレイ)。文通を続けていた人気俳優のジョン・F・ドノヴァン(キット・ハリントン)に会うためだったが、少年を待っていたのはTVニュースで知るジョンの死亡報道だった。
 それから10年後、新進気鋭の俳優として活動するルパート(ベン・シュネッツァー)は、ジョンとの交流を一冊の本に綴り、社会問題に鋭く切り込むジャーナリスト、オードリー・ニューハウス(タンディ・ニュートン)に記事の依頼をしてインタビューを行う。ルパートの口から、自身の少年時代とジョンの人生が語られていく…という物語。

画像1


 監督は、19歳にして『マイ・マザー』で初監督を務め、『たかが世界の終わり』などで知られるグザヴィエ・ドラン。僕は他作品を観ておらず、今回がドラン作品初体験となります。どうでもいいけど、まず、名前の響きがカッコ良すぎですよね。

 ということで、初見の監督作品なので過去作と比較していませんが、かなり作家性の強い監督なんじゃないかという印象を受けました。役者の顔面をアップで撮影して、メランコリックな感情を強調するのが特徴的かなと思います。

 そして物語で描かれるのも、その憂鬱な悲哀の感情なんですね。片方の主人公であるジョンは、セレブなスターとしての道を歩み始めたばかりだけど、スターとして消費されるような視線や、同性愛者という自身のセクシャリティに悩まされ、重圧で潰されそうになるという展開。

 僕は、もちろん同性愛だろうとなんだろうと尊重されるべきという考えですが、正直、またセクシャルマイノリティものかと、いささか食傷気味に感じてしまったことは事実です。
 けれども、他のよくある脚本展開と違うのは、ジョンがセクシャリティで不当な扱いを受けるという展開はさほど出てこない点ですかね。少し醜聞として書かれるくらいです。


 つまりジョンが悩まされているのは、周囲の視線と思い込んだ自分自身の視線なんだと思います。孤独で周囲から受け入れてもらえていないと思っている自分こそが、自身を受け入れることが出来ていないんですね。
マネージャーのバーバラ(キャシー・ベイツ)も、冷徹なビジネスウーマン的な振る舞いで、ジョンを商品のように消費させる存在かと思わせられるんですけど、ミスリードなんですよね。少年との文通を隠して世間に向けた体裁を取り繕うジョンに失望して離れていくバーバラは、ジョンの行動がビジネス面でもマイナスであると共に、人としても間違っていると非難しているように思えました。ここのエピソード好きなんですけど、何か雑な描き方で残念でした。バーバラとの関係性はもう少し掘り下げて欲しかった。

 ジョンと並行して、もう一人の主人公である少年ルパートの人生が描かれるんですけど、こちらも孤独を抱えているという点で共通しているんですね。アメリカからイギリスへと移住して、学校でも馴染めず、子役としての活動もなかなか上手くいかず、母親とも溝が生まれ始めている。この役を、映画『ルーム』でも名演を魅せた子役ジェイコブ君が、またもや名演技を魅せてくれるんですよね。

 この作品は、ジョンがルパートに未来を託す物語だと思うんですよ。同性愛者であるジョンが子孫という形ではなく次世代に「遺す」のが、ルパートの人生なんだと思います。
 そして、ジョンの人生と比較すると、ルパートの人生の方がドラマ的に描かれているように思えます。母親と心が通じ合うシーンは、ちょっとベタ過ぎなくらい感動場面な演出で、しかもバックの音楽がFlorence + The Machineがカバーする「Stand By Me」なんて、過剰な気がしてしまいました。

 その反面、ジョンの人生は下降の一途を辿ってからは、ドラマティックに逆転することはないんですね。気持ちが上向きになっていた矢先での死は、色んな夭折アーティストのドキュメントでも観ているようでリアルな印象でした。
 だから、ルパートのドラマティックな描かれ方は、ジョンが歩むことの出来なかった理想的な人生の在り方なんだと思うんですね。

 「Stand By Me」だけでなく、この作品、音楽にはこだわりがありそうで、結構印象に残る使われ方をしていますね。オープニングは、Adeleの「Rolling in the Deep」で、エンディングはThe Verveの「Bitter Sweet Symphony」と、どちらも好きな曲なので引き込まれました。ドラン監督はAdeleのPVも撮影しているので当然のチョイスのようですね。
 ただ、その他の使用曲は、よく知らないながらも、いかにもロックバンド然とした曲が多く、大多数の人間が盛り上がれる音楽のように感じて、マイノリティの孤独を演出するにはそぐわなかったようにも思えました。

 とにかく、やっぱり全体的にチグハグな印象は拭えない作品でもありました。ジョンとルパートの手紙がほとんど明かされないので、どんなところに惹かれ合ったのかがわかりにくいんですね。本当に文通していたのがジョンかどうかわからないという演出かもしれませんが、状況的にそれはあり得ないし、効果的とも思えないですね。

 それと、少年ルパートがジョンとの文通を誰も信じてもらえず、気にかけてくれる担任教師からも嘘をついていると言われる展開があるんですけど、これ個人的に物語で最も不快なシチュエーションの一つなんですよね。いくら話の展開上、必要なものでも、観てられなくて震えてくるんですよ。嘘でもいいじゃないですか、子どもの言うことくらいとりあえず無条件で信じなさいよ、と思ってしまいました。

 さらに言うと、大人ルパートへのインタビューを、嫌々始めていたオードリーが、段々興味を持っていくという物語にもなっているんですけど、どこに気持ちが変わるポイントがあったのか、よくわからなかったんですよね。というか、そもそも興味持っていない人間にインタビューを無理に頼むなよ。

 色々と言ってしまいましたが、それは脚本部分での不満で、映像美は独特なものがあり、PVを観ているような感覚で、つまらないものを観たという感じはあまりしなかったんですよね。
いずれは、他の作品も観てみようと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?