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2020年映画感想

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記事一覧

2020年の映画作品振り返り

 昨年から始めています、この映画感想書き。2020年は39本の作品を観て感想を書いています。『アンダードッグ』の前編・後編を2本、あるいは『ミッドサマー』通常版・ディレクターズカット版を2本とカウントすれば、ぴったり40本観た計算になります。コロナ禍の緊急事態宣言で空いた時期もありましたが、そこそこ満足しました。  各作品はこちらから。↓  せっかく1年続いた感想書きですので、振り返る意味を込めて、特に印象的だった5本を改めて挙げておきます。ランキング順とかではないので、あ

映画『ミセス・ノイズィ』感想 脚本力の高さが見所だけど

 年が明けてしまいましたが、2020年最後に観た作品となります。映画『ミセス・ノイズィ』感想です。  デビュー作が高評価された小説家の吉岡真紀(篠原ゆき子)は、娘の菜子(新津ちせ)が生まれてからも作品を書き続けているが、新作はなかなか企画が通らず、スランプに陥っていた。引っ越しをして心機一転を図るも、執筆活動と子育ての両立にままならない苛立ちを感じており、そこに輪をかけて、隣室に住む若田美和子(大高洋子)の、早朝から布団を叩く騒音に悩まされ始める。真紀はクレームを入れるが、

映画『私をくいとめて』感想 怒りはあっても、否定ではない肯定の物語

 のん×橋本愛という組み合わせだけでも必見でした。映画『私をくいとめて』感想です。  31歳の独身OL黒田みつ子(のん)は、休日に「おひとりさま」として様々な遊びをこなして満喫している。彼女は脳内に「A」(声:中村倫也)という話相手を創り出し、いつも心の中で相談をしていた。  そんなある日、会社の取引先で、職場に訪れる年下の営業マン、多田くん(林遣都)と自宅近くで偶然出会う。ご近所同士であると知ったみつ子は、料理の苦手な多田くんのために、おかずのお裾分けをするようになる。彼

映画『燃ゆる女の肖像』感想 哀しくも完璧に美しい時間

 芸術的という意味では今年トップクラスの作品です。ただただ、カッコ良かった。映画『燃ゆる女の肖像』感想です。  18世紀のフランス、ブルターニュの孤島に画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)が訪れる。マリアンヌは貴婦人から娘エロイーズ(アデル・エネル)の見合いのための肖像画を依頼されていた。だが、当のエロイーズは自身の結婚話を喜んでおらず、前任の画家もエロイーズに拒否され、絵を完成させることは出来なかった。マリアンヌは画家であることを隠し、エロイーズの話し相手になりながら、彼

映画『アンダードッグ』前編・後編感想 負け様の美学

 実際のボクシング試合を、ドラマ付きで観戦しているかのようでした。映画『アンダードッグ』感想です。  過去に日本チャンピオンのタイトルマッチに挑戦したほどのプロボクサー末永晃(森山未來)。現在も現役を続けるものの、敗け続ける“かませ犬”としてリングに立つだけの日々。妻子にも出ていかれ、デリヘルの送迎をしながらボクシングにしがみ続けていた。  そんな晃に、プロライセンスを受ける若手ボクサーの大村龍太(北村匠海)が、なぜか付きまとい始める。龍太は申し分ない才能と、出産を控えた妻

映画『佐々木、イン、マイマイン』感想 終わる季節と始まる季節【ネタバレあり】

 想いが迸っているので、ネタバレ前提で書いてしまいます。作品を観てない方はぜひ観てから読んでください。というか、多くの人に観てもらいたい作品。『ジョジョ・ラビット』観た時と同じく、思い出しては泣けてきてしまいます。  映画『佐々木、イン、マイマイン』感想です。  東京で役者を目指す石井悠二(藤原季節)は、舞台に立つ事も減り、鬱屈とした日々を過ごしている。同棲しているユキ(萩原みのり)からも既に別れを告げられているが、気持ちの上で受け入れることが出来ず、ズルズルと同居を続けて

映画『詩人の恋』感想 その涙は誰のためか

 単純に「恋」とはいえない複雑な愛情の物語でした。映画『詩人の恋』感想です。  済州島で暮らす詩人のテッキ(ヤン・イクチュン)は、詩作をしながらも、生活は妻のガンスン(チョン・ヘジン)に頼りっぱなし。小学校で子どもたちに詩を教えてはいるが、雀の涙ほどの収入しかなかった。  子どもが欲しいというガンスンにせがまれて妊活を始めるも、テッキは乏精子症と診断される。いたたまれずに落ち込む日々を過ごすテッキを救ったのは、近所に開店したドーナッツ店の味だった。毎日通いつめる内にテッキは

映画『罪の声』感想 群像劇的な魅力あるドラマ

 現実世界に、脇役という人は1人もいないということの表現になっています。映画『罪の声』感想です。  塩田武士のサスペンス小説を原作にして、土井裕泰が監督、野木亜紀子が脚本で製作された映画作品。野木亜紀子さんの脚本作品は、『アンナチュラル』『コタキ兄弟と四苦八苦』『MIU404』などのTVドラマを観ていて、どれも傑作揃いだったため、ここ最近ずっと注目しているお名前でした。  とりあえず原作未読で観てきたわけですけど、物語のつくりとしては、物凄く全うなサスペンスものだったと思

映画『スパイの妻』感想 新しい形の昭和メロドラマ

 蒼井優の演技をたっぷりと堪能できます。映画『スパイの妻』感想です。  戦火が近づく1940年の日本。神戸で貿易会社を営む福原優作(高橋一生)と、その妻である聡子(蒼井優)は、趣味で活動写真の撮影をするなど優雅な暮らしをしている。だが優作の、グローバルに時代の先端を見つめる視点は、憲兵からは睨まれる対象となりつつあった。  優作は、自身の会社で働く甥の竹下文雄(坂東龍汰)と共に、仕事で満州へ渡航する。その先で、2人は日本軍の行っていたある事実を知る事となる。  優作の帰国後

映画『星の子』感想 「家族」という信仰による救い

 芦田愛菜ちゃんの成長っぷり自体は喜ばしいことですが、多くの人間に時間の流れの残酷なまでの速さを自覚させる効果があると思います。それはそうと、映画『星の子』の感想です。  病弱な赤ん坊として生まれたちひろ。父(永瀬正敏)と母(原田知世)は、ちひろの治療法を探す中、宗教団体「ひかりの星」で販売する水を勧められる。すがる想いでその水を購入し、ちひろに飲ませたり体を洗ってあげたりする内に、ちひろは健康に育ち始める。  その後、ちひろ(芦田愛菜)は中学3年生にまで成長。父と母はあれ

映画『望み』感想 サスペンスではなく人間ドラマとして観たかった物語

 えーと、あまり褒められる作品ではありませんでした。映画『望み』の感想です。  一級建築士の石川一登(堤真一)は、妻の貴代美(石田ゆり子)、息子の規士(岡田健史)、娘の雅(清原果耶)と、自身がデザインをした家で幸せな日々を送っている。だが、規士は怪我でサッカー部を退部してから、鬱屈とした日々を過ごしていた。  ある夜遅く、規士は家を出たきり朝になっても戻らず、そのまま連絡が途絶えてしまう。一登と貴代美が心配をしていると、規士の同級生男子が殺害されたというニュースが報じられ、

映画『本気のしるし』感想 4時間を濃密に感じさせる圧倒的な脚本力

 TVドラマの再編集と聞いて油断してたら、とんでもなく傑作でした。映画『本気のしるし』感想です。  玩具業界の営業職を務める辻一路(森崎ウィン)は、几帳面な性格で人当たりも良く、社内外での評判も高い。だが、職場の後輩である藤谷美奈子(福永朱梨)と、先輩の細川尚子(石橋けい)と二股交際をしながら、どちらとも本気にならずに、虚無感を持って日々過ごしていた。  ある夜、辻は車に乗ったまま踏切で立ち往生した女性を助ける。その女性、葉山浮世(土村芳)の、あまりにも隙だらけなだらしなさ

映画『異端の鳥』感想 少年の瞳に込められた世界そのものへの怒り

 この内容を、3時間という長尺で観るのは、ほぼほぼ拷問でした。映画『異端の鳥』感想です。  第二次世界大戦中、東ヨーロッパのとある土地。ナチスのホロコーストを逃れるために疎開した少年(ペトル・コトラール)は、村の子どもたちから迫害されながらも、預かり先の老婆と身を寄せて生活していた。だが、ある日老婆が息を引き取り、それを発見した少年は驚いてランプを落とし、誤って老婆の遺体ごと家を燃やしてしまう。  保護者と住む家を失った少年は、本当の家に帰ろうと彷徨い始める。その過程で、数

映画『ミッドナイトスワン』感想 「彼女」たちは何の犠牲になったのか【ネタバレあり】

 今回は、ネタバレ全開で書きますので、ご了承ください。映画『ミッドナイトスワン』感想です。  新宿のニューハーフショークラブで働くトランスジェンダーの凪沙(草彅剛)。実家にはカミングアウトをしておらず何も知らない母親から、親戚の女の子を一時預かって欲しいと頼まれる。親戚の中学生・一果(服部樹咲)は、母親から虐待を受けて保護されたところだった。凪沙は、養育費が支払われることを条件に、嫌々ながら一果を引き受けることにした。  凪沙と一果は、心を一切通わせることなく共同生活を始め