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2022年映画感想

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2022年12月の記事一覧

映画『グリーン・ナイト』感想 世界観を再現するハイレベルな美術

 理解し切れていないところも多いですが、作り込みは素晴らしいものでした。映画『グリーン・ナイト』感想です。  イングランドに伝わる作者不詳の物語『ガウェイン卿と緑の騎士』を原案として、『ア・ゴースト・ストーリー』で知られるデヴィッド・ロウリーが脚本と監督を務めた作品。『ア・ゴースト・ストーリー』の詩的でアンビエント的な映像美は好きでしたし、配給会社はA24ということで、センス間違いなしと感じて観てまいりました。  まず、中世ヨーロッパを再現した美術セットが凄いですね。詳

映画『ある男』感想 拭いきれない過去が浮き彫りにする社会の悪意

 物語の面白さ、社会派作品、芸術性を複合させた傑作。映画『ある男』感想です。  作家・平野啓一郎さんの同名小説を原作にして、『蜜蜂と遠雷』『Arc/アーク』で知られる石川慶監督が実写化した作品。石川監督はまたもや小説作品の映画化作品ですね。  あらすじから見ると、いわゆるサスペンス的な物語になってはいますが、事件の真相だけを追う物語とは違い、そこに至るまでの登場人物の心理描写をドラマに仕立てたものになっています。原作の平野啓一郎さんによる文学性の部分を、石川監督が完全に理

映画『宮松と山下』感想 切なく湿った感情を魅せる、乾いた演出

 過去のしがらみをどうするかというテーマが、意図せず結果として見事にシンクロ。映画『宮松と山下』感想です。  ドラマの演出を手掛ける関友太郎さん、NHKの人気番組『ピタゴラスイッチ』の企画・監修を務める佐藤雅彦さん、メディアデザインの活動をしている平瀬謙太朗さんの3名から成る監督集団「5月」による初長編映画作品。  主演は、映画にドラマに歌舞伎役者と、活躍の場を広げていた香川照之さんなんですが、作品公開も告知し始めた時期に、過去の酒の席での振る舞いを報じられて、世間的な評価

映画『窓辺にて』感想 よそよそしさと距離感は、優しさの表れ

 人間の愚かさ・滑稽さ・哀しさをひっくるめて、美しさとして表現している傑作。映画『窓辺にて』感想です。  『愛がなんだ』『街の上で』などで知られる今泉力哉監督の最新作。恋愛映画でありつつ、恋愛に上手に向き合うことの出来ない人々を滑稽に描くのが特徴ですが、今作もそのスタンダードな今泉作品を、より深化させた作品という印象でした。  今泉監督の作品は、毎回キャスティングが絶妙だと思うんですけど、今作の主人公である茂巳を演じる稲垣吾郎さんも、ドハマりしている演技ですね。主体性が

映画『君だけが知らない』感想 異様に伏線回収巧みなメロドラマサスペンス

 風呂敷の畳み方だけなら、今年イチ。映画『君だけが知らない』感想です。  ソ・ユミンが、監督と脚本を務め、映画デビューとなる作品。たまたま映画館で観た予告編が、見事な出来映えだったので、観てみようとなりました。ありきたりな恋愛メロドラマと思わせる導入から、サスペンスへと転換するのが予告で見事に表現されているんですよね。かなり巧い編集の仕方をしていると思います。  ネタバレ厳禁という感じの物語なので、語ることが難しいのですが、脚本の妙が詰まった映画ですね。韓国映画作品は隙