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別にメッセージを描くわけじゃない

この記事は、わたしが友人と配信しているポッドキャスト「たるいといつかのとりあえずまあ」内で行っている好きな短歌を紹介し詠み合うコーナーを書き起こし、要約したものです。今回は橋爪志保さんの短歌を取り上げさせていただきました。

「たるいといつかのとりあえずまあ」12月上旬のラジオ「日記祭!本を作ること/日付を入れること」

今回の歌
I am a 大丈夫 ゆえ You are a 大丈夫 too 地上絵あげる
/橋爪志保『地上絵』(書肆侃侃房)


たるい)僕この歌をサイトで帯で見た時になんかすげえと思ってそのまま甲府の本屋さんに電話して取り寄せてくれませんかって言って買ったんだよね

いつか)へ〜、すげえ

たるい)そう。なんか、「I am a 大丈夫 ゆえ You are a 大丈夫 too」っていうのは「わたしは大丈夫 だからあなたも大丈夫」って感じじゃん?日本語で言うと。なんかでも、それって全然通じないんだけど、通じないよね?その、響かない。わたしが大丈夫なんだからあなたも大丈夫でしょ、って夫婦喧嘩が起こりそうな文言とさえ思うけれど、「I am a 大丈夫 ゆえ You are a 大丈夫 too」って言われると、救われた気分になった、なんか。

いつか)わかる

たるい)わかる?これはなんでなんだろう、と思った。あと、tooの後も「地上絵」あげると言われてすごくあったかい気持ちに、と言うか、生きててよかったくらいまで届くものだと思ったんだよ。

いつか)なるほど

たるい)でもなんでか全然わかんなくて、で、ちょっと考えたのが「宇宙人感」だなと思った僕は。宇宙人ていうか「ロボット感」ていうか"非"人間が、これを言っている感じする。「I am a 大丈夫 ゆえ You are a 大丈夫 too」の「a」があるのも文法意味わかんないし。言語を習得しきっていない何か、何かが言っている、というその距離感があるから、「I am a 大丈夫 ゆえ You are a 大丈夫 too」という言い回しが距離を持って届くのかな、と思って。
そう考えた時に「地上絵」っていうのが、いわゆる人間が作ったのかどうかわからないものの最たるものだよなと思った。明らかに人間が作ったと考えるしかないが、それが人間が作ったとどうしても思えないのがナスカの地上絵じゃないですか、なんかあの"半"人間感って言ったらいいのかな、完全なロボットではないが、というか。その混ざり具合がこの歌の優しさみたいなものを作ってるのかなと思って。
つまり「You are a 大丈夫 too」と言った後に「優しさあげる」とかだったら人間すぎてグッと来ないんだよね。ここに「地上絵」っていう距離感のバランス、人間じゃない何かの力みたいなものをすごく感じて。
だからこの歌は何か届く救いの力を持っているのかななどと思ったりしたんだが、どうかね

いつか)やべえ、感想の○がデカすぎて避けれねえ

たるい)どういうこと

いつか)被る。その◯に被る。

たるい)被る?ははは

いつか)宇宙人は確かにな、なるほどな、と思った。それは想像つかなかったけど、その、結局その、すごい無責任な、ほっとかれているというか、ほっとかれてるじゃないな、あの、う〜ん、だから、近くない言葉で、その、俺が阿佐ヶ谷住んだ理由だよな。ほっとかれている街なんだよ阿佐ヶ谷って。快速電車止まらない感じね、休日。気にされすぎてない感じ。推測でその「大丈夫でしょう」っていうその、あるじゃないですか。阿佐ヶ谷はそんな感じで。

たるい)はいはいはい

いつか)地上絵も、完成形を見るのに圧倒的な距離が必要で、距離がないと見れない。距離を推測しながら絵は描くと思うんだよ。描いてる自分も、推測で描いているんだよな。「おそらくこれで成り立っているだろう」っていう推測で地上絵を描いて、それをこう外から見て、自分じゃない人が。それで結果を知るわけだけど。その距離…距離感の話になっちゃうな、どうしても

たるい)確かに地上絵って、そういうものだね

いつか)そう俺はなんか、自分が「あげる」って言ってて描いている方を想像した

たるい)地上絵 made by youね。なるほどね。

いつか)そうそう。描いている自分もわかってないんだよね。

たるい)あ〜おそらくそうだろう、っていうことなんだ

いつか)最初は相手を想像して、「あなたも大丈夫だろう」という自分の推測、相手の状態を推測して、地上絵は今の自分発信なんだけど、自分もすごく曖昧な状態でメッセージを送っている状態。な、こうニュアンスと距離感

たるい)えめっちゃ素敵じゃん。なるほどな。

いつか)なんかそんな感じに見えたな。地上絵はもっと完成されているものなのかもしれないけれど

たるい)そっか。僕の中ではこの「あなたも大丈夫」と伝える相手はすごく目の前にいる気がしたんだけれど、きっとあなたも大丈夫だろう、という感じか。ボールを投げている感じか。

いつか)俺はね。そうそう。

たるい)地上絵っていうモチーフはすごいな。それ。そうか。今自分でやっていることが何かはわからないけれど、引いてみた時にそれが何かになっているだろう、というものか地上絵を描くって。おもれ〜〜

いつか)いいよね。なんか脈絡の一見ないような言葉に見えて。
その「ゆえ」っていうのも面白いよね。日本語の使い方も。その相手の言葉を聞いていないわけじゃん要するに。それだからこそのたわいなさというか、地上絵が意味のないものとしてあるのよ。別にメッセージを描くわけじゃないんだよね。地上絵ってさ、ただの鳥の絵だったりさ

たるい)そうだよねあれなんのために描いたのかってわからないもんね

いつか)そうそうそう。だから相手が大丈夫って言ったわけでも、今大丈夫じゃない相手を勇気づけるわけでもなく、ただ意味のあるのかないのかわからないような地上絵を相手に向けて送るっていう、そういうたわいない方の優しさも、すごいあるよね。

たるい)たわいなく、遠いものなんだ。素敵だ。遠いなあ、確かに

いつか)遠いよね。

たるい)あなたの応答は全くないもんね

いつか)距離感からくる寂しさみたいなものもあるかもしれないし、関わりの薄さがあるのか、優しさもあるのかよくわかんないけどさ。

たるい)地上絵ってそういうものだもんなあ、すげえしっくりきたわ。ありがとうございます。

いつか)短歌、短歌おもしれ〜な〜

たるい)おもしれ〜な〜。ありがとうございました。


今回の歌
I am a 大丈夫 ゆえ You are a 大丈夫 too 地上絵あげる
橋爪志保『地上絵』(書肆侃侃房)


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岡本真帆『水上バス浅草行き』(ナナロク社)


ポッドキャスト「たるいといつかのとりあえずまあ」
作家の垂井真とヴァイオリニストの山本佳輝、同じ年、同じ日に生まれたふたりが、それぞれの活動の近況や文化作品について話してる番組。


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