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じきに海が見えてくるわ

いろんな人が優しくしたり褒めたりしてくれて、気分がうわついて、久しぶりのことだったから仕事が手につかなかった。全然もとの途方ない作業に戻る勇気がわかなくなってしまって、たまらず外のみえるフロアまで散歩して、窓際の窪みにからだを丸めて夕暮れを見ていたら、同期が通りがかって、しばらく話をした。
その話がまた良くって、気づけば会社を飛び出して帰り道についているわたしがいた。そういう衝動が自分を結果的に追い詰めてしまう事はよくわかっているのだけれど、それでも今日は居残っていたとしても、仕事が進む気がしなかった。

「あなたは靴を脱ぎ捨てアクセル じきに海が見えて来るわ しあわせ色に 身体がそまる」

どこまでも街の煌めきの中にある、幻みたいに綺麗な愛を歌っている曲。作られたときはこれが肉感的に信じられるほど、世の中は煌めいていたのだろうか。そんなわけもなかろうて。

家に帰って一息つくと、やはり今日のうわついてしまった心が情けなくなってしまって、会社を飛び出してしまったことを後悔することになった。
この社会で生き抜いていくために、感情ではなくシステムで動く術を少しずつ身につけなくてはならない。
毎日、注意深くシステムにリアリティを持たせること。大量消費の大波に流されないように、唖然とするほどの無駄な有象無象と目を合わせないために、眼前の事柄に機械的に立ち向かうメソッドを体内に育てること。

感情ではなくシステムで動く。
変な自己啓発本みたいになっているかもしれないけれど、わたしにとって仕事の中でもっとも学ぶべきことってそれなんだ、たぶん。
わたしがわたしらしくあるために、暗闇の中でも眩しさの中でもしっかりと歩くために、いつかそういう日が来ることを、しっかりと受け入れられる自分であるために、この毎日をすこしでも肯定的に捉えれるように。

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