楽園は土の下にある!平和主義者は地底に息づく。
そもそも地上で暮らすから困りごとが多いのだ。
寒暖差は激しく、大地震もあれば洪水もある、火山が噴火すればポンペイが如く生物皆熱死。
よしんば生き延びても地上を覆った火山灰が太陽光を阻害し、ミニ氷河期が訪れるかも知れない。これは隕石が衝突しても同じことが起こりうる。実際にむかしあった。そして大絶滅が起きた。
地上環境は不安定でいつだって危うい。
そう、地上で暮らす限り大絶滅という定期イベントは免れない(実際これまでに5回起こり、そのたびに三葉虫センパイや恐竜センパイが根絶やしにされてきた)。
我々地表生物は今まで幾度となく地球の気まぐれにつきあわされ、いつ来るかもわからない環境の大変革に怯え暮らし続けているしこの先もそれが延々と続く。
それにたまたま今現在が緑豊かなパラダイスだからといって、次に地球が気分転換をした後が快適な世界なのかは疑問…。
そのうえ噴火や隕石を待たずともこの地球、4000年続いた温暖期を当に終え、この先は氷河期に向かうのでなんにせよ人類は激減必至だろう。
(ここ毎年夏の気温が上がり続けているのも、じつは氷河期直前に起きる現象だ。)
そんな住環境に不安を抱えた皆々様に最高の場所があるんです!
そこは何億年ものあいだ環境を安定し続けていた唯一の場所で、地球生物の殆どが生活しているまさにこの星のメイン舞台…地底だ。
この記事では地底世界に適応した未来人を便宜上『地底種(アングラー)』と名付け、何故人類が数ある可能性から地下世界を次の楽園に選んだのか?そして地下に沈むとどんな生態を手に入れるのかを解説します。
嘘じゃない地底人
さて、人類がこのさき長い繁栄を確信するために地底世界に住処を移すことは間違いではない。
たしかに地底に人類が繁栄している説など、SFジャンルでは時代遅れもはなはだしいくたびれた話…でもそんな扱いになったのは進化論的な不自然さや地球空洞説(地下には異世界が広がっている、という現代科学で反証された時代遅れの説)との相性の良さ、様々な創作物でよく悪くも便利に使われてきたことが要因である。
しかし技術レベルの向上が著しい現在、地下研究を推し進めることで新たな洞察が生まれ続けている。
たった30年前のこと、「地下生物圏」が発見され地底世界の生命観がガラリと変わってしまったのだ。
そこには全人口の数百倍もの重量の微生物(最大230億トン!)がひしめいており、その捕食者の捕食者の捕食者がおり…とにかく生物の豊かさにおいては地表の比ではない環境を維持している事が判明した。
豊かすぎるほどの水源と居住スペースもあり、季節にかかわらず心地よい一定の温度が保たれる。
ある程度地下開発の技術が進展さえすれば、快適な生活が望めるほど栄養が豊かで過ごしやすい環境なのだ。
そう、人類が想像し続けたユートピアとは、地底世界のことだったことに現生人類は気づきつつある。
その推測はまさに今ホットな「火星移住」にまで飛び、人類が火星に降り立っても結局地球の地下と近い環境らしい火星地下に居を構えることになるのかもしれないのだ。
さて、きたる終末に向けてテクノロジーを積み上げ続けている人類がもし、火星移住や宇宙進出に間に合わなかったら?
もしくは、地球を捨てるまでもなく地下に住む環境を整えることが出来たら?
人類は研鑽された文明を地下に持ち込んで種を存続し、大絶滅を免れるだろう。
しかも、地下世界でも健康を維持できるよう暗い世界に適応して、だ。
地下で暮らすということ
「過酷な環境の地下に人間がいるなんて嘘っぱちだね!それも原始的な生物どころじゃなく、高度な文明をもっているだなんて非現実的だ!」
という通説は覆され、奇しくも我々ホモ・サピエンスがその「ありえない高度文明を持った地底人」になった。
そして地下で暮らして数万年…
巨大な空洞を頑丈で住みやすく開発しコロニーを作り、相変わらず集団生活を送っている。
土壌動物の肉や地下植物の他、イモやキノコを栽培。コウモリやモグラを家畜化し、食用ネズミやゴキブリや魚を養殖するので食性は豊か。
土食文化が根付くのは、ミネラルの確保や腸管内の洗浄・寄生虫駆除のほかに消化機能の一部を土中の微生物に依存するためだ。
狭くて暗い地底では身体は小型化する。
紫外線を防ぐ必要がないので皮膚は退色し真っ白くなる。
粗く硬くなった髪の毛は、褐色や黒、灰色、白と変異に富んだ色を持つ(髪質のせいで変なクセがつきやすくなるが、個性的だ)。
頭髪は触毛としての機能や頭部保護やフェロモンの保持に役立つが、体温調節の役割が無くなったその他の体毛は殆ど消えツルツルになる(衛生維持をしやすくなるメリットもある)。
皮膚はゴム質で分厚く傷つきにくくなり、土や岩肌との接触をものともしない強度になる。発汗機能が多少低下し体温調節機能が弱るものの安定した気候の地下では問題にならず、菌類や微生物が体表で繁殖するのも防止できる。
日光不足でビタミンDやカルシウムを摂取しにくくなった分は土食で大量摂取したミネラルで補う。
食性の副作用で骨は強く柔らかく重く、鉄に似た性質を得て折れにくくなる。また筋繊維も豊富なミネラルによって、重い骨格を動作するのに支障ないほど頑丈になる。
人類史上かつてない防御能力を得ることで、逃げ場の少ない地下で他生物と対峙する時も一定の生存率を担保できるのだ。
土を掘削するため指先と一体化・巨大化した爪は、狩りや移動も便利にする地下生活の必須ツールだ。
この頑丈な爪を用いれば地底人は横移動から解き放たれ、立体移動すら容易く実行できる。
目は退化して無くなるが、視覚に使われていた脳領域を聴覚と嗅覚に充て異常発達させる。
それがエコロケーションを可能にするため、(感度を増した嗅覚と相まって)目玉がなくても立体空間をカンタンに把握できるようになる。
それに伴って耳もコウモリのように尖り、よく動くアンテナとして機能することで立体的な音探知を補助する。
ここでいう聴覚の発達は、犬や猫のように聴力自体が上がるという意味とは異なる(狭い地底世界では集音能力を上げる必要は無いからだ)。
なお現生人類にもエコロケーションを使える個体が少しだけ存在するが、全員が盲目だ。視覚というのはそれだけ、聴覚の発達を邪魔している器官なのだ。
地底人の耳の良さとは音の解析能力が高いことを言う。
これは内耳や聴覚の脳領域が発達したことにより音の感知能力が激増し得たスキルで、挨拶を交わすだけで相手の感情や体調、我々が日々伝達に苦労している言葉の細かいニュアンスまで正確に送受信できる。
可聴域も現生人類の比ではないほど広いので、口話表現の幅は拡大する。
彼らの文化圏では、不完全性の目立つ人類の言語が今よりかは随分とマシなコミュニケーションツールに昇華されるのだ。
地底人が作る平和な社会
地下は生物は豊かだが過酷な環境でもあり、生産活動を分化し助け合うことが不可欠だ。
しかも閉じた地下世界では、争いが起こったときに逃げ場が少ない。喧嘩が全滅の可能性すら招く危険な世界でもあるのだ。
それに大型生物が少ないので生態系の頂点は地底人であり、捕食者に怯える心配はあまりない。
すると人類は生存本能から攻撃衝動を除外せざるをえず、温和で平和主義な気質を育んでいく。
さらに地底人は高度に“音”を操り、現生人類を遥かに凌ぐコミュニケーション能力を獲得すした。
それゆえ高い文化性を持ち、歌や学問を愛するのだ。そんな人々が戦争を嫌うようになるのは、ごく自然な流れである。
彼らは言語を争いではなく問題解決の手段として活用できる最初で最後の人類なのかもしれない。
何故地下世界が楽園なのか?それは豊かな生物圏であるにもかかわらず「人が手を取り合い、争わないことでしか存続していけない極端な世界」だからだ。
きっと地底人の祖先になるのは、調和と平穏を愛し、日陰ぐらしでも楽しみを探索し続けていける文化的な人間にちがいない。
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