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【マッチレビュー】取り戻した強者のメンタリティ ~2022FIFAワールドカップアフリカ最終予選 ナイジェリア-ガーナ~

2022年3月30日(水) 2:00キックオフ ※日本時間
会場:アビオラ・ナショナル・スタジアム(アブジャ)

ナイジェリア 1-1 ガーナ
得点者
ナ:トロースト・エコング(PK)(22分)
ガ:トーマス(10分)

筆者選定マン・オブザ・マッチ 
ジク(ガーナ)

マッチレビュー

 1stレグをスコアレスドローで終えた両国は対象的な人選で運命の2ndレグを迎えた。クマシでの一戦と全く同じ顔ぶれで臨んだアウェーのガーナに対して、ナイジェリアは先発メンバーを5人入れ替えた上で選手の配置を変更。イヘアナチョが1.5列気味に振る舞った4-4-1-1ではなく、エグアボン監督は中盤の厚みを増した4-3-3を採用した。1stレグでは相手センターハーフのクドゥスを捕まえきれず相当な自由を与えてしまった反省から、より中盤の攻防で優位に立とうという狙いが感じられた。

 しかしそのようなナイジェリアの「工夫」を尻目に、アウェーチームが最初のチャンスをモノにする。10分、PA外の左角でパスを受けたトーマスが1タッチ目で中央に持ち込み右足を振り抜く。GKウゾホの守備範囲かと思われたボールは、勢いを落とさず脇の下を抜けネットを揺らしたのだ。アウェーゴールが適用されるレギュレーション上、是が非でも欲しかった先制点がトーマスのミドルシュートから生まれた。

 最低でも2点が必要となったナイジェリアだが、この日アンカーで起用されたエテボとアリボを中心にボールを保持し、じわじわと危険なスペースに入り込む。すると20分、同じくスタメンに抜擢されたルックマンが遅れて対応したオドイにPA内で倒さる。VARの結果ナイジェリアにPKが与えられ、トロースト・エコングが冷静に流し込み追撃の1点を手にした。

 以降圧倒的な存在感を見せつけたのがオシムヘンだ。引くか出るか守備ラインの設定が曖昧なガーナが余計なスペースを与えたとはいえ、楔を引き出すポストプレーとスペースを突くラインブレイクを使い分け、一人で相手守備陣を混乱に陥れた。37分にはラフなロングボールに抜け出し、GKもかわして落ち着いてゴールに流し込むも、今度はVARの結果オフサイドで取り消しに。ガーナとしては完全に命拾いした場面だった。

 後半立ち上がりからアッド監督は守備組織の修正を試みる。優位な立場としては異例の4枚の交代カードを切り、5-3-1-1のような布陣にシフト。ラインを低く設定し、3+1の中盤でハーフスペースをはじめデリケートなスペースを完全に埋める策に出た。すると1st1rレグと同様、ナイジェリアは窮屈なボール回しを繰り返す時間が増大。アリボやオニェカは効果的なポジションで前線をサポートすることができず、中央からコンビネーションを用いた崩しは皆無。結果サイドアタックに依存する悪循環に陥った。しかしガーナは 最終ラインが5枚となり中央のスペースが埋まったことで、両ウイングバックは積極的に相手サイドアタッカーを捕まえにかかる。

 それでも自力で勝るナイジェリアは強引に決定機を作り出す。58分には相手に当たってコースが変わったクロスを、オシムヘンがバイシクル気味に合わせ際どいシュートまで持ち込む。さらにセットプレーから圧をかけ続け、ガーナの決壊も近いように感じられる時間帯もあった。

 この展開で真価を発揮したのが、アマーティとジクだ。クロスには確実に相手より先に触れ、PA内への侵入者には最後まで食らいつきシュートやラストパスのコースを極力限定する。さらに守護神のウォラコットは至近距離からのヘッドを体を張って防ぎ、トーマス、キエレ、オウスの中盤は非保持時も運動量を切らさずボールサイドへのフォローに回る。なによりアッド監督がチームを鼓舞し続け、「1点を確実に守りきる」ミッションをチーム全体で遂行し、ついにガーナに歓喜の瞬間が訪れた。

 この日の彼らのプレーは「弱者のサッカー」そのものに映ったかもしれない。しかし急指揮を任された暫定監督の元できることを忠実に実践し、強豪ナイジェリアを押さえての2大会ぶりの本大会出場をつかみ取り、彼らは「勝者」となった。
 何より、過去に本大会やアフリカネイションズカップで見せ続けた、高い集中力と劣勢を跳ね返す反覆力で接戦をモノにする、「ガーナらしい」姿を垣間見せた一戦だった。
 取り戻した強者のメンタリティを胸に、ブラックスターズがカタールの地に乗り込む。

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