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個性の表現から価値観の表明へ

*このテキストはサブスクリプションサービス「AFFECTUS subscription」加入メンバー限定サービス、メルマガ「LOGICAZINE(ロジカジン)」で2019年4月16日に配信されたタイトルです。

本文は以下から始まります。

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今回は特定のデザイナーやブランドをテーマにした内容ではなく、Instagramの登場によって生じた、ファッションの持つ意味の変化について考えていきたいと思う。

「ファッションは個性を表現する」

これまでファッションの果たす役割は、そう言われることが多かった。

人間の個性を表現する。それがファッションだと。着ている服の外観とその組み合わせで、着用者のセンスが表現されるのは事実であり、その意味では正しいと言える。

時代を遡れば、ファッションは階級を示す意味もあった。それは洋服の源流であるヨーロッパ、とりわけパリでは顕著である。上流階級と労働者階級における服装の違いは、現在よりも大きかった。

第二次世界大戦後、技術革新に伴う大量生産の実現が消費の中心を上流階級から大衆へ移行させ、ファッションが娯楽性を帯びることで、個性を表現する手段として浸透していく。

ファッションは長らく個性を表現する「商品」として消費されていたが、その流れを大きく変革する事象が21世紀になると発生する。SNSの登場である。

SNSの登場から、ファッションを取り巻く状況は激変と言ってもいいほどに変わっていった。

「個性を表現する手段を、SNSがファッションに取って代わった」

そう言われるようになり、実際にファッションへ投資することが「ダサい」というムードを世の中に生んでいく。

だが、そのムードも再び変わることになる。時代のムードを変えたのは、個性を表現する手段をファッションから代替したはずのSNSだった。Instagramの登場である。

新しいファッションの波は、Instagramのメインユーザーである若者たちか起きる。彼ら彼女らは、ロゴやプリントを使用された象徴的デザインの服を着用し、自らを写してInstagramへポストする。

若者たちが着る服には、一目でどのブランドの服か判明するデザインであることが多い(例.ロゴTシャツ)。ブランドを着ていることがバレることに、抵抗がないように見えるその姿からは、若者たちの間でファッションが「個性の表現」から「価値観の表明」へのシフトが起きているように感じられてきた。

ストリートからエレガンスへトレンドが移り変わりつつある現在でも、ブランドが判別しやすい装飾性の高い服へのニーズは高い。では、そのような時代にあってこれからのブランドは、どのような仕掛けを行えばいいのだろうか。

ラグジュアリーブランドはすでにその体勢を整えつつあるように思う。クリスチャン・ディオールやイヴ・サンローランと言ったブランドのオフィシャルサイトには、ブランドの歴史が読めるコンテンツがあり、その価値観を感じられやすくなっている。

とりわけ、私が注目するのはグッチである。数年前からアーティストたちと興味深いプロジェクトを多く実行している。例えば2016年に行われたプロジェクト、塩田千春、真鍋大度、Mr.、トラブル・アンドリューの4人のアーティストたちによる「GUCCI 4 ROOMS」がそれにあたる。

4人のアーティストが自身の感性によってグッチの美学を表現した「4つの部屋」を制作し、その作品をオンラインの特設マイクロサイトと銀座で公開することで、ヴァーチャルとリアルの両方でグッチの美学を体験できるエキシビションである。

他に「グッチ プレイス」と呼ばれるプロジェクトも実行している。

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