新しい技術に市場の課題をかけ合わせ、新しい価値を届けたい。ワイヤレス給電技術にかける30歳の挑戦【プロダクトマネージャー 彦坂慎吾】
米・スタンフォード大学発のスタートアップである、エイターリンク株式会社。
現在のIoT(Internet of Things)社会の次は、IoE(Internet of Everything)といわれており、センサーが必要なモノの数は爆発的に増えるはずです。そして来るべきloE社会に欠かせないのがワイヤレス給電技術であり、エイターリンクの持つ技術は、欠かせないインフラになると注目されています。
今回は、2022年3月からエイターリンクに正式ジョインした彦坂慎吾が登場。大手企業を辞めてスタートアップの世界に飛び込んだその思いを中心に、仕事のやりがい、ワイヤレス給電への期待、自信への期待について語ります。
前職のマルチな経験を新天地で活かしたい
―これまでの経歴を聞かせてください
中央大学大学院を修士卒業後、キヤノン株式会社に入社しました。大学では半導体のアナログ回路設計の研究をしていました。カメラが好きなことと身に付けた技術をかけ合わせたモノづくりがしたい思いが就職先を選ぶ基準になりました。ちなみに、エイターリンクでVPoEを務める小舘さんは、大学の一つ先輩にあたります。
キヤノンでは半導体の開発部門に配属されましたが、半導体そのものの回路設計というよりは、それを使った応用技術の開発をしていました。その一方、部門には開発した製品を外販する動きもあったので、セールス寄りのエンジニアリングにも同時に携わり、たとえば、営業担当と一緒にお客さまを訪問して販売後のサポートをしたり、キヤノンの製品を使った開発のアドバイスをしたりもしていました。これらを2年くらい担当したのち、今度は要素開発技術を使用したプロトタイプカメラの開発に携わりました。ここは研究開発の側面もあり、自分で製品化にむけた技術提案をしながらプロトタイプを製品化に結び付けるような取り組みをしていました。
―彦坂さんは開発一辺倒のキャリアではないところが一つ魅力ですね。
そうですね。いわゆる大企業の開発部門に入った人とはちょっと違いますよね。新規事業の部門に配属されたこともあり、いろいろなことを経験させてもらえたところは大きかったです。
―そこからエイターリンクは、どのようにつながるのでしょうか。
小舘さんと再会したことがきっかけになりました。お取引先の方が小舘さんと知り合いということが食事の席で発覚して「じゃあ、ちょっと本人を呼びましょう」と。去年の4月のことです。この時はお互いに仕事の話をして終わったんですが、直後に「一緒に仕事をしてみない?」と誘いを受けました。僕も別の世界を見て勉強するのもいいかな、と軽い気持ちからかかわるようになりました。このときは、つくったものの評価やレポーティング、お客様の問い合わせに対する技術的なサポートを担当していました。まさに前職でやっていた顧客サポートに近いことですね。
―それから1年足らずで、エイターリンクの正式メンバーとなったわけですが、誰もが知る企業を辞めてまで飛び込もうと思った、その理由を教えてください。
前職は前向きに仕事のできる環境でしたが、今後一生勤め上げるということは無いだろうとどこかで感じていました。明確な時期は決めていませんでしたが、いつか文化の違う別の環境で働いてみたいと思っていました。そんなとき、これからまさに会社をつくっていこうとしているエイターリンクに出会いました。「こうしたフェーズの会社にかかわることは、今後もうないかもしれない。千載一遇のチャンスにかけ、新しいチャレンジをしてみるのは良い選択肢になるかもしれない」と思ったことが一つ目の理由です。
二つ目は、「今までにない新しいものを世の中に送り出したい」という思いをずっと持っていたことが挙げられます。技術系スタートアップは研究開発からのスタートです。周りから見ると「本当にできるのかな」って思うところもあると思うのですが、エイターリンクは、技術をあくまでビジネスとして成立させ、世の中に価値を提供することを念頭に置いています。これが実現できると自分も確信を持てたこと、新しい技術を世に出すことで、新しい世界をつくっていこうという意気込みに強く惹かれたことも、入社の決め手になりました。
もう一つ大きかったのは、自分で製品のディレクションがしたいと思っていたことです。自分の考え、その決断によって世の中にインパクトを与えられるような、そういうダイレクトな仕事ができる環境にあることも気持ちを後押ししました。
―いつごろから考えていたんですか。
決めたのは昨年の秋ごろだったと思います。というのも、ちょうど30歳の節目で。今後のことを考える良い契機になりました。
下は20歳、上は70歳。バックグラウンドの異なる人と働く面白さ
―現在、担当しているお仕事について聞かせてください。
いまは、FA事業に関連するプロダクトをつくるマネジャーをしています。僕らのつくった技術を、どのようにして製品化するのか、の部分ですね。ここの全体的な統括を担っています。
―前職の仕事内容と比べて、いまのお仕事の大変さややりがいをどのように感じていますか。
前職では既存の技術の差分開発的に製品化を図ることが多かったので、ある程度確実なモノづくりができる感触があったのですが、エイターリンクにあるのはコアな技術だけです。ここから製品化までには大きなギャップがあり、とても難しい挑戦だと思っています。さらには、このコアの技術の改善を図りながら製品開発も並行して進めなければならないところは、普通じゃないと思うんですよね(笑)。普通の会社だと、まずやらないことをやっているところが、いままでの経験にない部分です。それからワイヤレス電力伝送はそれだけでは製品にはならず、ワイヤレスで電力を与えることで動作する「何か」を作ることで初めて製品になります。この「何か」を開発するにはワイヤレス電力伝送とはまた別の技術領域が必要です。広い技術領域を見渡し、性能、コスト、信頼性などのバランスを取りながら1つのプロダクトにするのが大変なところです。といいつつも、こうしたマルチな仕事の仕方は僕の強みでもあると思うので、楽しみながらやっています。
―ところで、今はどういう人たちとお仕事をしているんですか。
上は70歳の業務委託の方から下はインターンの高専生まで、いろいろな人の協力を仰ぎながら仕事をしています。ここまで年代幅のある人のなかに混じってプロジェクトを進めることは、なかなか経験できないことです。高専生はフットワーク軽くモノをつくり上げることに非常に長けていますし、70歳の方はさまざまなバックグラウンドをお持ちなので、堅実性や安定感は抜群です。このようにそれぞれの特性や得意分野を見極めながら仕事を進めていますが、それぞれのパーソナリティに触れられることも非常に勉強になるし、この多様性こそがエイターリンクの製品開発の柔軟性を生み出していると思います。
―全員で、「新しい技術を世の中に出していこう。新しい世界をつくろう」といった想いを共有しているという感覚はいかがでしょうか。
それはありますね。実験をしていると難しいことに直面することも多々ありますが、「これはちょっと無理だね」ではなく、「実現できるように頑張ろう」といった言葉が会話の中にもよく出てくるので、そのビジョンは共有できていると思っています。
―ところで、会社の雰囲気はいかがですか。
まずポジティブです。いまは前進あるのみ、みたいな感じで、「とにかくやることをやる」「手段は問わず実現する」というアグレッシブさを感じます。目標に対してストレートに向かっていくところはありますね。あとは、技術から始まった会社なので、社内には研究室っぽい雰囲気があります。パソコンに向かって黙々と仕事をしているというよりも、技術的な課題が出てきたらみんなで集まって議論をするような場面は非常に多いです。仕事でありながらも純粋に好奇心でやっているようなところも強く、「みんな本当に好きなんだなあ」と感じます。非常にタフなチャレンジをしているものの、和気あいあいとしていますね。理系でものづくりが好きな人や研究に取り組んできた人にとってはなじみやすい環境ではないでしょうか。
―「こういう人と働きたい」という人物像はありますか。
いま、僕らは世の中にないものを生み出そうとしているので、そこのビジョンに共感してくれる人に一番に来てほしいです。今までだれも取り組んだことのない領域への挑戦には困難なことはたくさんあると思いますが、僕らはそれが実現できると信じてやり続けているので、そこに共感して一緒に頑張ってくれる人、その夢に向かって一緒に走ってくれる人と働きたいです。
ワイヤレス給電の可能性は無限大。世の中の課題に沿った価値あるものを提供したい
―最後に、彦坂さんが感じているエイターリンクの可能性、その中でのご自身の役割をどのように考えているのか聞かせてください。
エイターリンクは良くも悪くもゼロに近いところからのスタートなので、何もないところからモノづくりをできることは大きな魅力です。既存の技術や価値観にとらわれず、顧客の声を聞きながら自分たちの持つ技術を世の中の役立つものへと変化させていけることも、やりがいの一つと感じています。
ワイヤレス電力伝送の技術は、これから確実に期待される技術であり、今後いろいろなところに広がっていくことでしょう。いまはコアな技術からスタートしていますが、ゆくゆくはたとえばワイヤレス電力伝送で動かした無数のセンサーの情報をクラウドにデータとして蓄積し、提供するソリューションにまで昇華させるなど、あらゆるところに波及できる可能性を秘めています。
そのなかで僕の役割は、田邉さんを筆頭に彼らの作ったコア技術をいかに製品につなげていくのか、世の中の課題をいかに解決できるのか、を考えることだと思っています。そのためには各分野について広く深く理解しながら、いろいろな技術を一つにまとめることで価値あるものをつくりあげていきたい。その方向性を決めることには責任をともないますが、FA(Factory Automation)、ビルマネジメント、バイオメディカルという現在の注力領域だけに固執せず、4番目5番目の事業にも思いを馳せながら、一つひとつ着実に進んでいきたいです。