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有事のビジネスリスクインテリジェンス 情報の収集と理解(3) 情報収集における「理性」と「感情」

noteを中小企業診断士キャリア上の情報発信手段の一つとするために、実名公開することにしました。発信情報のクレディビリティを担保することを自らの戒めとするためのものです。誤りについてはご指摘いただけますと幸いです。

いつものサボり癖で、次を予告してから一年近くになってしまいました。今回は、ビジネスインテリジェンスにおける「知性」と「感情」について書きたいと思います。

確証バイアスという言葉をお聞きになったことはありますでしょうか。確証バイパスとは、仮説や信念を支える情報ばかり集め、その反証となる情報を収集・処理しないバイアスのことです。よくある例が、野球の3割打者が、3打席凡退の後の4打席目に「ここでヒットを打って逆転サヨナラダだー」という考えでしょう。3割打者は、打席に多く立つと、ヒットを打つ確率のもっともらしさ(尤度)が最大になるのが3割だということです。なので4打席目が内野ゴロでも、ビールや食べ物を投げ込むことはおやめください。

さて、確証バイアスが生まれる背後にあるのは「感情」だと考えています。確証バイアスと感情の関係は、どちらが先でどちらが後かは議論のあるところですが、これまでの経験則と多少の理論から(本来は逆だろというのはさておき)、感情が確証バイアスを引き起こし、それが思いもよらない状況を引き起こした例はあります。その一つが、日露戦争後に発生した「日比谷焼き打ち事件」です。奉天会戦に勝った日本は、戦勝国として有利な条件で日露戦争を終わらせられると思っていました。しかし、実際は日本軍も活動の限界を迎えている中、アメリカの仲裁によって、いわば「引き分け」に近い形での終結であったため日本政府や国民が期待していた賠償金は得られず、その不満が爆発し、焼き討ちにつながったとされています。

事故が発生すると、関係者の家族は当然のこと、組織の皆が無事であってほしいと願いながら救助にあたります。対策本部には良い知らせも悪い知らせも飛び込んできます。事故対応にあたる関係者は、良い知らせに救われた気持ちになりつつも、悪い知らせに緊張感を高めます。このとき、組織の士気(モラール)を維持し、最後まで組織の活動エネルギーを保たせるのは、組織の長の重要な役割です。

一方、事故の後のダメージコントロール、あるいは事故の状況が続いている間のリスクマネジメントは、ネガティブな情報を踏まえ、最悪のケースを想定して対応しなければなりません。そうした活動には、事故原因の究明や、場合によっては組織防衛という目的があるかもしれません。そこでは、いかに感情に左右されることなく、事実(ファクト)と蓋然性(確率)の立場から、客観的に状況を整理し、組織の長が誤った判断を下す確率を極限するかが鍵となります。それを支えるのが、論理面での「理性」と、感情面での「一体感」です。

理性は、分析と助言の正当性に対する自信を与えてくれます。不確実性が高い状況下で、組織の方向性を安定化させる力の一つが信念です。しかし、この信念というのが厄介で、多分に感情の影響を受けるだけでなく、誤った信念で暴走する組織を正すには、信念以上のエネルギーが必要になります。そのような状況に陥らないようにするためには、判断がロジックに基づいたものであるという自信を組織が共有することが大事です。有事であればこそ、そして状況の深刻度や緊急性が高い時こそ、理性に基づく判断が求められます。

とはいえ、有事のリスクマネジメントでは、時に目を背けたくなるような事実を直視しなければならない状況があります。分析内容と報告に対し、組織の内外から厳しい指摘や攻撃を受けることもあります。その時、いかに気持ちを冷静に保てるか、そして、リスクマネジメントに従事する立場から、いかに客観性を保った分析と助言ができるかに集中する必要があります。そのようなメンタリティを保つために、有事のリスク対応では、リスクチームのメンバーを一人にさせない、孤立させないサポート体制も不可欠です。

※この春、リスクマネジメントの基本を解説するオンラインセミナーを開催する予定です。詳細が確定しましたらnote内に掲載します
※本連載は、中小企業診断士たる筆者個人の意見の表明であり、筆者が所属する組織団体その他の公式な見解を示すものではありません

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