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リスクマネジメント、インテリジェンスと確率思考

前回は、VUCA時代ではリスクマネジメントやインテリジェンスの思考が重要であると述べました。そして、その基本にあるのか「確率思考」です。
確率思考と言うと難しく聞こえるかもしれませんが、要はどれぐらいの確率で起きて欲しいことが起きるだろう、または起きて欲しくないことが起きるだろうと考えることです。

確率の数学的な定義は、起こった事象の数をすべての事象が起こる数で割ったものですが、ビジネスや生活の場では、そのどちらについても正確な数字を手に入れることが極めて難しいといえます。
例えば、ある取引先と間で、これまで10回の納品のうち3回入金遅れがあったとしましょう。この取引先とは今後ともお付き合いを続けていかなければならない。しかし、この取引先からの入金が遅れることは、自社の資金繰りに大きな影響を与える。その場合どの程度の運営資金を引き当てておくかは大きな経営判断になります。
会計的には、売掛金残高のうち回収不能と考えられる割合をかけたものを貸倒引当金として計上することができます。このケースでは結果的に入金されているので貸倒れにはなりませんでしたが、企業経営の立場からは、貸倒れや取引先の倒産などの最悪の事態を想定せざるを得ません。そこで必要なのは、取引先からの入金遅れ(売掛金の回収遅れ)の確率になります。それをどのように計算するかは、主に2つの考え方があります(数学的な厳密性をかなり省略した内容であることはご容赦ください)。

どちらも過去の実績から取引先の入金遅れが発生する確率を推計するものですが、一つは、過去の入金遅れの実績が現れる確率範囲を推定するというものです。原因があった場合に実績が得られる確率であり、統計的検定や頻度論的アプローチとよばれるものですが、ある程度のサンプル数がないと有効な検定結果が得られないという特徴があります。

もう一つは、取引先の入金遅れの確率を、入金が遅れた遅れなかったの実績ごとに計算し直すもので、ベイズ的アプローチといわれます。詳しい説明は以下のリンクをご参考ください。

このアプローチの特徴は、最初は入金遅れの確率について十分な情報がなくても、どの確率も同じぐらいの程度に分布するという仮定(「無情報事前分布」とよばれます)が置けることです。初対面の人に偏見を持たずに接するのと同じ感覚です。そして、入金遅れが発生すると遅れる可能性を高め、遅れが発生しないと確率が下がるような確率計算になります。人間関係でいえば、最初は偏見を持たずに接していても、約束を破ることや嘘が多くなると信用が下がるのと同じ感覚、いわゆる「オオカミ少年」の物語の感覚に一致します。そしてこのアプローチが、起きた結果からその原因の確率を推定するという考えであり、リスクマネジメントやインテリジェンスと極めて相性がいいものなのです。

次回からは、なぜベイズ的アプローチがリスクマネジメントやインテリジェンス思考にとって相性がいいものなのかを説明します。

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