今日の茶飯事 五杯目  テトリスみてぇなケーキ達

腹一杯になるまでケーキを頬張ってみたい、だなんて子供っぽいだろうか。
祝い事に専ら引っ張りだこのケーキは小さい頃の「非日常」の代名詞のようなものだった。

家族で囲むホールケーキ。手を叩きながら歌われるバースデーソングは、耳に入っても頭には入ってこない。
蝋燭の火をふぅと吹き消すその瞬間まで、私の期待のエントロピーは増大し続ける。ギザギザの刃のしたナイフで、丁寧に切り分けられるケーキ達は、スイーツ店のショーウィンドウに並んでいるまさにそのショートケーキへと変貌を遂げる。 
そうして取り分けられたケーキの、頂点にあるイチゴを無慈悲にも最初に食べて、程よい酸味が口の中に広がる。すかさず甘ったるい生クリームを含み、そうして一つ歳をとる。

いいね。今思い出しても、実にいい気分だ。


小学生中学生の時は、限りある小遣いの一部を担うまでのケーキに対する欲望みたいなものはなかった気がする。
個人差が顕著に現れると思われるが、私の小遣いは中学生の時で月1000円。
一つ食べるのに500円辺りかかるケーキというのは、中学生にとってほぼフォアグラ、キャビア。
欲しい漫画一冊と天秤に掛けて勝てる算段はなかった。

高校生になると月の小遣いは一気に増え、ケーキに対する意識が大きく変化する。
ケーキの値段が自分の使える金額の何割か。
それが小さくなればなるほど、気軽さが大きくなる。

高校に入って初めてケーキを一人で買った時、異様に興奮していたのを覚えている。
別に普段行かない高級な店に行ったわけではなく
子供の頃からあるチェーンのスイーツ店で、買ったのもショートケーキを一つ。

それでも自分の金でケーキを買った、という事実が胸を躍らせたのだ。



先日、スイーツパラダイスに友人と共に行ってきた。名前の通りで、金を払えばスイーツが時間内食べ放題。まさに夢のような場所だ。

東京都内にあるスイパラでできるだけ早く店に入る。十一時からの開店なのに、既に数人の列ができていた。

二列に分かれた左側はどうやら予約をしていた方達のようで、そうでない当日飛び入りの我々は左の方で駄弁っていた。この友人をTと呼ぶ。

Tとスイパラのどの食べ放題コースを選ぶか決めあぐねていたところ、一際値段の高いものを発見した。


「シャインマスカット食べ放題」……?

今回は選ばなかったが、どうやらこれを選ぶと山盛りのシャインマスカットを使ったスイーツが食べ放題なのだそうだ。

正直魅力的だった。しかしその名に恥じない相応の値段だったので、スイパラ初心者の我々はノーマル食べ放題にすることにした。

食べ放題のスペースは広々としており、丸型のテーブルにファンシーな白い椅子が二人用、四人用と不規則に並んでいる。そのうちのソファー席に二人して座り意気揚々とケーキを取りに行った。

トレーとトングを手にしてビュッフェ方式でケーキを取る。このケーキというのが普通のショートケーキのような三角型ではなく、一口で食べれる立方体型で、キッチリと列をなして並んでいるのである。

4.5種くらいを一気に取って席に戻る。
既に取り終えていたTとケーキを頬張ると、思わずおぉと声が漏れてしまった。

めちゃめちゃ丁度いい。ケーキの大きさも然り、そもそもの味が「丁度いい」のだ。

恐らくこのケーキがもっと美味しい、それこそ高級スイーツ店のようなものばかりだったら、沢山食べることができないと思う。何故ならそれ一個で満足してしまうからだ。

胃の中を満たしていく食べ物の占有率みたいなものがあるとする。テトリスの盤面みたいなものを思い浮かべてほしい。
この盤面に落ちてくる食べ物のブロック数というのが、質量はもちろん、美味さにも比例しているのだ。

スイパラはこのテトリスのブロックの一番いい大きさを提示し続けている感覚。
4ブロックのテトリスがT字やI字に形を変えて永遠に落とされているのだ。多すぎて困らないし、少なすぎて満足しないこともない。


何というか、食べ放題の真髄を見た気がする。

次はシャインマスカットの食べ放題も行ってみたいものだ。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?