急行:アイアンメイデン

片道二時間、往復四時間弱にも及ぶ伊勢から名古屋までの道のり。
乗車する電車の種類にもよるが、ここいらの一般市民ならば急行に乗る訳だ。通学通勤に毎日特急に乗れるものは少ないため必然的に朝のラッシュが生まれる。
ラッシュとはいえ、それこそ東京のような乗車率100%越えなんてことはなく、どれだけ乗っていても田舎の主要駅の混雑くらいではあるが。

そんな急行だが、(恐らく)どの地域でもよく見るであろう進行方向に対して平行に二列、壁に沿うように延びる席と、特急列車の席を少し狭くし味気なくしたような二列二列の計四列の席がある。

あまり長く乗らない人は気にしてはいないが、始駅から終点までずっと乗りっぱなしなんて人は好んで四列の席を確保しようと躍起する。
平行の席よりも席がパーソナルなものに感じられるし席自体も若干豪華。
二時間も乗るのだ、それくらい求めたっていいだろう。


ただこの四列席、一つデメリットがある。
というのも平行席よりも体の凝りが起こりやすいというところである。

平行席は三人が余裕を持って座れる程のスペースで、四人は絶対に座れない。そのため一度座って仕舞えば基本的に窮屈な思いをしなのだ。少々肩を張っても隣に迷惑をかけることはない。

これが四列席になるとこうはいかない。
先ほども書いた通り、二列二列の縦向きの席は特急の席より一回り小さい。席が小さいだけと思うかもしれないが、これが決定的なのだ。
この小ささというのが上半身全体をガッチガチに固めてしまう。普通に座っていても隣の人と膝がぶつかってしまうのだ。

遠慮がちに座り続けると段々と肩が丸まってきて肋骨がゆっくりと前へ閉じてゆく。
これが二時間だ。うっかりこの状態で寝てしまうと、名古屋駅に着いた時呼吸が浅くなって一瞬死の香りが漂う。かなり危ない。

この状態を俺は「急行アイアンメイデン」と、そう呼んでいる。
そのまんまの名前だ。急行で上半身がアイアンメイデンのように閉じて、鎖で縛られるように凝り固まるからこの名前をつけた。
肋の動きもまさにそれ。死の香りがするのもポイントだ。

症状としては最悪だが、何かしら身分を偽らないといけない時に、「急行アイアンメイデン」が使えると思うと、この苦しさも捨てたもんじゃないなと思った。




いや、やっぱり勘弁願いたい。苦しさの方が勝っているな。




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