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短気、コミュ障、パワハラ体質は「個性」じゃない。アニメ『ブルバスター』感想

葬送のフリーレン。進撃の巨人・完結編。鬼太郎誕生。
16bitセンセーション。シャングリラ・フロンティア。

これらのアニメが各種SNSのタイムラインの話題をかっさらう中、その裏でごく小さな賛否両論を呼んだアニメがあった。
その名は『ブルバスター』。

2023秋シーズン、唯一のロボットアニメだった『ブルバスター』は「経済的に正しいロボットヒーロー」を自称し、民間企業の運用するロボットと怪獣の戦いを描く作品である。
”正しい”という、言葉の強さランキングを作ったらベスト3には入りそうな強い言葉をキャッチコピーに掲げ、「今までロボットアニメ界になかった新しい作品!」とでも言いたげに秋シーズンに颯爽登場した本作だが、要するに『無敵ロボ トライダーG7』『機動警察パトレイバー』の系譜にある「お仕事系ロボットアニメ」とでも言うべき作品である。

上記した作品群の盛り上がりに隠れていた本作は、自分の観測した範囲では、小さく賛否両論を呼んでいた。「賛」側の視聴者は「理想と現実の狭間で戦う中小企業の人々を描いたお仕事SFアニメ」と本作を高評価し、逆に「否」側の視聴者は「リアルとは名ばかりの駄作」と辛辣な評価を下していた。
自分は賛否両論の「否」側で、あまり本作に対して高評価ではない。

このnoteでは、なぜ僕がブルバスターを受け容れることができなかったかを記していきたいと思う。本作が気になっている人の参考になれば幸いだ。
逆に、本作を支持している人は気分を害する可能性が高いので、ブラウザバックを推奨する。


◆受け入れにくいストーリーの前提

放映初期に賛否を呼んでいたのが、本作の前提となるストーリーだ。

ブルバスターのあらすじを簡単に説明する。
本作の舞台は北九州にある離島・龍眼島。龍眼島はある日有毒ガスが発生し、同時に重機ほどもある謎の獣「巨獣」が出現。島民は避難を余儀なくされた。
だが、巨獣は龍眼島にしか出現しない上に、人口の少ない離島での事件ゆえに情報も少なかったため、日本政府は巨獣をクマのような害獣としか認識せず、島民を助けることはしなかった。そこで島民は巨獣発生原因の解明と龍眼島奪還のために起ち上げられた害獣駆除会社「波止工業」を頼り、波止は重機を元に造られたロボットを使って巨獣を駆除しながら、巨獣のルーツを探りその根絶を目指す、というのが本作のあらすじだ。

このあらすじを読んでこう思った人もいると思う。
「巨獣の情報を集めて、国に巨獣の危険性を訴えて、自衛隊なり然るべき組織に対処してもらえばいいのでは?」
もちろん、波止がこうしないのには
「政府は巨獣を倒すことはできるかもしれないが、きっと政府は初動も遅いし、事後調査で島に留まり巨獣の調査に何年もかける。その間島は封鎖されて、島民はすぐに龍眼島に帰ることはできないし、復興も遅れる。島民には老人も多く、龍眼島に帰還する前に亡くなってしまうかもしれない。なので、国には巨獣の危険性は内密にして、波止だけで巨獣を根絶し、いち早く島民を島に返したい」
という理由がある…のだが、僕はこの理屈にツッコまざるを得なかった。

いや、政府に対処してもらったほうが絶対速いから。

上記のような島民優先の理屈を掲げる波止だが、彼らは世間に巨獣の実態が知られていないゆえにスポンサーが不在で、市からの助成金と龍眼島島民からの寄付金でなんとか活動できているという万年金欠な零細企業であり、物語開始の時点で保有している戦力は巨獣1体をなんとか倒せる程度のロボット「ブルローバー」「ブルバスター」の2台だけ。
しかも巨獣のルーツ調査は、巨獣の生態調査のために提携している企業「シオタバイオ」が政府と同じく巨獣の危険性を軽んじているせいで全く進展しておらず、どう考えても「政府に巨獣の危険を内密にしながら巨獣を根絶する」というミッションを達成できる状況にはない。
これで「巨獣は波止にしか倒せない」といった設定があればいいものの、巨獣は基本的にミサイルなどの現代的な武装で倒されており(一応「スタンショック」という特殊なミサイルであることは描写されるのだが、どんなふうに特別なのかは特にわからない)、自衛隊でも十分に倒せそうだ。
実際劇中でも、避難している龍眼島の島民からは波止の遅い対応が非難されており、僕は視聴しながら波止の皆さんより島民に同意してしまった。「島民を早く龍眼島に返したい!」という波止工業社長・田島鋼二の志は立派だが、志に実態が伴っていないと言わざるを得ない。
「この窮地から波止がいかに脱するか」というのがブルバスターの物語の要点だと理屈ではわかるのだが、もう少し丁寧に「島民が波止工業にしか頼れない理由」を構築してほしかった。

ちなみに、最終的にこの「政府に巨獣の危険を内密にしながら巨獣を根絶する」という波止の目的は、波止工業の存亡がかかった手段を選べない状況であったとはいえ、志を掲げていた田島自身が「巨獣のデータを世間に公開しよう、そうすれば国が巨獣駆除に動いてくれるかもしれない」と反故にしてしまう(未遂に終わるが)。それでいいのか。

◆問題児だらけの登場人物

上記したストーリー面は、なんだかんだで視聴を続けるうちに気にならなくなった。それよりも問題だったのは、登場人物の殆ど、というかメインの登場人物である波止工業の社員たちを好きになれなかったことだ。視聴する上ではこれが設定面の甘さよりきつかった。

好きになれない登場人物の代表を4人挙げていく。

主人公の沖野鉄郎は、波止に納入された新型ロボット「ブルバスター」の設計者にしてパイロットで、軽いノリの今時の若者といったキャラ造形。
正義感は強く波止の業務にも積極的…なのだが、思慮が浅く、から回って突っ走っては失敗をし、他の社員と揉めたり波止にピンチを招く、という展開が多い。
加えて短気ですぐに感情的になって大声を上げたり、波止の親会社「塩田化学」から出向してきた新人・鉛(詳細は後述)に謎のライバル心を向けて突っかかったりと不愉快な行動を取ることが多く、見ていてキツい。
特に終盤、 塩田化学と波止が対立した際に、感情的に鉛を「お前は塩田の手先なんだろ!?」と糾弾し掴みかかるシーンは見ていられなかった。

この「から回って失敗を続ける」という展開は最終回における盛り上がりの助走になっており、今までの失敗を糧に沖野が心を奮い立たせて戦うという展開そのものはアツいものの、汚名返上までが遅すぎる感は否めない。

波止の経理担当の片岡金太郎は感情的なコストカッターであり、波止の財政を守るため、ブルバスターが出動する度にやれ「撃っていい弾は何発まで!」とか「巨獣一体につきミサイルは一発まで!」とか、パイロットの安全性を無視したコスト面の問題を押し付けてくる。
もちろん、企業は理想では成り立たないわけで彼のようなコストカッターが必要なのはわかる。しかしそれにしても言動に度が過ぎている部分があり、特にある事情から独断かつ単独で龍眼島に渡った二階堂アル美(ブルバスターの二人目のパイロット)が帰還した際に、死地に行っていたアル美を労うことなく叱責し、いつも通りコストの問題を叫ぶシーンはやり過ぎ感が否めない。

また、個人的に許せなかったのが、沖野が波止のイメージを改善するべく、社のロゴマークのリニューアルを依頼したデザイナーに「こんなの絵を書いただけじゃないか!なんで10何万も金を取るんだよ!」と抗議するシーン。これは瞬発的なギャグではなく、この件についてグチグチと田島・沖野とモメる。
私怨と言われればそれまでだが、デザイン業界の実情を少しでも見てきた者としてはデザインを軽視するこの発言はかなりイラついた。

一応彼については擁護の余地はあり、謹慎中だった沖野を社の規定を知りながら巨獣駆除に緊急出動させる懐の広さも見せるほか、終盤では「前職で経営陣のイエスマンに徹し、誤った経営方針に口を出さなかった結果、前職は倒産してしまい、その反省で憎まれる覚悟でコストカッターとなることを決めた」という過去があることが明らかになる。

武藤銀之助は沖野の赴任以前から波止でパイロットをしていた古参社員。
沖野と同じく正義感は強いものの、昭和生まれでいわゆる「企業戦士」的な論理で動く根性論者であり、令和の価値観を持った若者である沖野・鉛と摩擦を起こす展開が悪目立ちする。
特に鉛に対しては「新人」と雑に呼び、強権的に命令に従わせようとするなどパワハラ一歩手前の言動が目立つ。
彼のパワハラ的な行動は制作側からすればギャグのつもりだったのだろうが、社の規定に従って自分の命令を無視した鉛に「やる気がないなら帰れぇ!!」と激昂したり、令和の価値観を説いた沖野に、泥酔していたとはいえ拳を振るいかけるなど、ギャグにしても笑えない(後者は煽った沖野にも非があるとはいえ)。

鉛修一は、 波止の親会社「塩田化学」から出向してきた新人。いわゆる「Z世代」を意識したキャラ造形で、全てにおいて規定を守ることが優先の理屈屋。理論武装も欠かさず、短気で感情的な沖野や根性論者の武藤をバシバシ論破していく。
彼の正体はコミュ障であり、波止への出向もコミュ障が原因での実質的な左遷であることが示唆される。規定の時間を守りつつ誰にも言わずに、資金不足の波止のためにクラウドファンディングに向けて活動していたことが後にわかるのだが、視聴者的には「いいやつなのはわかったけど、勤め人として報・連・相は守りなさいよ」「左遷されたの、絶対に報・連・相ができてなかったせいだろ」とツッコみたくなってしまう。

とはいえ、鉛に関しては、自分もZ世代に近いので規定優先の気持ちもわかるし、終盤の早い段階で、塩田を裏切って波止を助け、波止逆転のキーマンの一人になって汚名返上するため、上記した3人に比べればまだ好感が持てる。

ブルバスターの物語は、ロボットの活躍よりも中盤までは彼らを中心にした問題児たちが価値観の違いで摩擦を起こし、いがみ合うシーンが非常に多く、視聴の上でのストレスになることも少なくなかった。
これを仲裁するようなニュートラルな人間は先述した社長の田島くらいしかいない。波止工業、中庸な人間がいなさすぎる。

もちろん、「欠点がない人間なんていない」という事はわかっている。
問題は、物語が「彼らが自分の抱えた欠点・問題と向き合う」構造になっていないことだ。沖野たちの人格面の問題は各エピソードを構築するネタとして使われた後は無視され、物語は「巨獣を倒す」「巨獣の問題を隠蔽しようとする塩田の陰謀を止める」というクライマックスに突き進んでしまう。
なので、各エピソードが一件落着を迎えても「でもこいつらはダメ人間のままなんだよなぁ」というモヤモヤが残ってしまうし、どうしても登場人物を好きになれない。

◆「ロボットアニメ」なのにロボットは活躍しない

ロボットアニメといえば、当然だがロボットの活躍だ。
しかし、ブルバスターにそれは当てはまらない。このアニメ、ロボットが活躍しない。

単純に、ブルバスターをはじめとするロボットの出番が少ない。
上述した通り、序盤~中盤は波止工業の社員たちが価値観の違いでいがみ合ったりする展開に時間が割かれ、全然ロボットが活躍しない。
特に酷いのが7話で、タイトルには「ブルバスター初の市街地戦!」と銘打っているのに、ブルバスターは巨獣の攻撃で川に押し込まれ浸水して機能停止、結局巨獣にとどめを刺すのは人間…というタイトル詐欺な内容になっている。
終盤になるとさすがにロボットが戦う場面が増えるものの、肝心の最終回まで「ロボットが活躍しない」という問題は引きずられる。
最終回では、波止は物語のラスボスに当たる巨大巨獣(重言になっているが、巨獣には個体名がないので、こう表現するほかない)と戦うことになり、ブルバスターと塩田から納入された新型ロボット「ブルダック」で立ち向かうことになるのだが、その戦闘シーンは

巨大巨獣が出現、ブルバスターとブルダックが対峙する

CMに入る

CMが明けると、画面に映るのは倒れ伏すブルバスターとブルダック

「ブルダックの最新鋭のアンカースタンショットが効かないなんて!」

といった感じで、大胆にカットされてしまっている。

オーディンのファイナルベントじゃないんだから

この後ちゃんとブルバスターとブルダックは再起して、改めて巨大巨獣と戦いとどめを刺す…という流れになるのだが、この雑な戦闘シーンの扱いには不満が残った。

そもそも、ロボット自体が「重機の発展形」という設定を加味してもアクションが地味で惹かれない。
巨獣との格闘戦は基本的に相撲のような掴み合いに終止し、巨獣を倒す切り札は詳細不明のミサイル一発。あまりにも地味だ。
ロボットアクションこそブルバスターと同じように地味であったものの、様々な演出を駆使して現用兵器よりも優れた点を描写し、他のロボットアニメにないいぶし銀のかっこよさを魅せた『ガサラキ』などを見習ってもらいたい。

◆疑問の残る最終盤の展開

終盤、波止はシオタバイオに所属する、巨獣のルーツ解明に私的に協力する研究員・水原の助けを得て、巨獣とガスは龍眼島に設置された塩田化学の海水浄化システムが原因で生まれたことと、巨獣の脳から採れる次世代コンピューターに転用可能な物質を目当てに塩田が巨獣問題を放置していたことを知る。
しかし、これを嗅ぎつけた塩田は「波止と提携し、波止を実質的に塩田の指揮下に置く」「ロボットにプロテクトを施し、波止が自由に使えないようにする」という手段で彼らの口封じを図る。
このピンチを前に波止社員はついに一致団結し、塩田を裏切った鉛、龍眼島の自治会、そして龍眼島に眠る資源を目当てに波止に出資した健康食品会社の助けを得て塩田を離反。「龍眼島から巨獣発生の物証を持ち帰り、世間に発表する」というミッションに挑む。

終盤の展開は、「海水浄化システムに使われているナノマシンが、龍眼島の固有種であるサンゴの放出する物質の影響でバグってしまい、生物を狂わせて巨獣に変えていた」という推理しようのない設定や「実は次世代コンピューターの素材に利用されていた巨獣」という唐突な展開もあったものの、波止社員全員が「塩田の悪事を白日に晒す」という目的のもとに結束することで視聴モチベーションの妨げになっていた「波止社員の諍い」がなくなり、物語を楽しむことができた。
塩田にロボットを奪われてしまった状況で、唯一残った旧式の海中用重機とそれを動かせる武藤が起死回生のきっかけになり、「巨獣退治をネット配信し、市井に巨獣の実情を公表する」という沖野・アル美たち若者のがむしゃらな行動が健康食品会社の社長・宝田の支援に繋がっていくなど、波止逆襲の下地を整える展開は上手で、そこからのクライマックスは爽快で楽しめた。
「実はこっちが主人公なんじゃないか?」と思ってしまうほど、迷いを捨てて波止社員のために戦いの先陣を切って進む田島の勇姿や、汚名返上を待たせすぎな感はあるものの、今まで失敗続きだった沖野が最後の最後で刺し違える覚悟で巨大巨獣を倒し、大金星を上げるシーンは、クライマックスに相応しいものだったと言える。

だが、残念なことにこの終盤の展開にも問題がある。
まず、波止が保有する3機のロボット(ブルローバー、ブルバスター、ブルダック)に施されたプロテクトについて。
このプロテクトは「暗証番号を入力し、塩田の承認を得ないとロボットは動かない」「無理にプロテクトを取り外せば、ロボットはそれに連動して機能停止する」という説明がなされる。
このプロテクトをどうやって突破するかとても気になっていたのだが、このプロテクトは波止が塩田を離反した後はまるで触れられず、最後のミッションでも3機のロボットは平然と動いている。つまり、なかったことになった。
エクスキューズすら提示せずに、その存在をなかったことにするというのは、あまりにも乱暴すぎる。
「提携を蹴られた塩田がプロテクトを取り外したのでは?」と擁護する人もいたものの、塩田の立場としては波止にはこれ以上動いてほしくないわけで、わざわざロボットの制御を返すような真似はしないだろう。

だが、個人的に一番受け入れられなかったのが、ミッション完遂後のあるシーン。
波止は巨大巨獣の内地進出を阻止し、巨獣発生の物証を手に入れる。そこに一足遅く塩田の関係者がやってきて、元々塩田の人間だった田島に怒りをぶつける。
「お前は大企業・塩田化学を敵に回したんだぞ!そんなちっぽけな社員たちと心中するつもりか!」
それに対し田島は、臆することなく言い返す。
「ちっぽけじゃない!みんな我が社の誇れる社員たちだ!」

いや、待て待て待て。

そいつら、自分の短所を短所と気づいてないダメ人間たちだから。

「短所も含めて人間だ!」的な理論でキレイにまとめようとしてるけど、短気、コミュ障、パワハラ体質は「個性」じゃないから!!矯正が必要だから!!!

「登場人物が自分の欠点と向き合っていない」という作劇の欠陥が最も強く表出するラストには、制作陣との価値観の違いを激しく感じてしまい、盛り上がるクライマックスに水をさされた気分だった。

◆総評

まとめると
「波止工業だけで巨獣に立ち向かわなければいけない理由の構築が弱い」
「登場人物には何かしら不愉快な欠点があり、しかも彼らは劇中でその欠点と向き合わない」
「ロボットアニメなのに、ロボットが活躍しない」

という3つのポイント、とくに2番目がネックとなって素直に楽しむことができなかった「not for me」なアニメだった。

だが「じゃあブルバスターってクソアニメなの?」と言われれば一概にそうとも言い切れない。
駄作に片足を突っ込んでいるアニメなのは確かなのだが、先述したように、波止が痛快な大逆襲を仕掛けるクライマックスは(最後の最後以外は)なんだかんだで楽しめたからだ。
クソアニメをいくつか経験したものから言わせてもらうマウンティング と、本当の駄作には「見どころ」なんてないことのほうが多い。楽しめた部分があるだけブルバスターは「一流の駄作」に比べればマシだ。

個人的には「凡作と駄作のあいだ」の引き出しにしまうのが適切なアニメと思ったが、「お仕事アニメが好き!」という人はチャレンジしてみてもいいかもしれない。

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