溶射技術の基礎と業界動向
こんにちは。
表面技術2022年5月号の小特集が面白かったので、学びと感じたことを残しておきたいと思います。
この号の小特集は、「粒子積層技術の基礎と最新動向」という内容です。
最初の記事『粒子積層技術の概要と産業動向』ではこの技術の基本的な要素と、業界の動向や今後の市場に関して書かれていてます。
”粒子積層技術”ってなんだ?と思いましたが、溶射による成膜技術のことを指しているようです。
溶射を簡単に言うと、金属などの微粒子を高速でぶつけて膜を作る技術です。
私のイメージでは、泥団子を壁にぶつけると、こべりついて落ちなくなってくるような現象を、精密に制御しているのが溶射です。
詳しいことは、溶射受託加工メーカーのHPを見たほうがいいですね。
成膜技術としての溶射
成膜というと、真空ではスパッタやCVD、蒸着、ウェットではめっきや塗布のイメージがあります。
塗布以外の成膜技術は分子や原子をワークをぶつけて、ワーク表面で金属や酸化膜を形成する技術です。
これに対して溶射は、溶融した微粒子を衝突・積層させて膜を作るという点で大きく異なるようです。
微粒子で膜を作るという点では、金属微粒子の塗布も同じかもしれませんが、「溶融させて高速で衝突」という点でだいぶ異なりますね。
溶射の長所としては、以下のような点です。
・溶射材料も被着材料も選択の幅が広い
・成膜速度が速い
・サイズや場所に制限がない
(電源とガスボンベが在ればどこでもできる)
短所としては、薄膜が難しかったり、小さすぎるワークが苦手だったりするようです。また、積層させているので、厚み方向と面方向で物性に異方性があったり、気孔やクラックが入りやすいという点もデメリットになっているようです。
粒子の溶融の仕方をエネルギー源によって分類しています。
大きく分けて4つ。
・化学エネルギー(燃焼、爆発など)
・放電エネルギー(プラズマ、アークなど)
・運動エネルギー(超音速ガス流などによる衝突)
・光エネルギー(レーザーなど)
求める膜質や溶融材や基材に合わせて、上記エネルギーの中から最適なものを選ぶところにノウハウが必要になってきそうです。
産業用途
では、どのような分野で使用されているかというと、以下のような分野で利用されているようです。
・半導体などの電気電子部品製造装置
(反応性ガスを用いるエッチング用チャンバーの内壁など)
・自動車エンジンのシリンダー摩耗対策
・航空機のジェットエンジンや発電用ガスタービンの遮熱被膜
・製鉄や溶融めっきなどの高温環境での搬送ローラーや槽内壁の遮熱
・高速道路橋などの社会インフラの防錆防食
・金属やセラミックの3Dプリンタ
今後の動向の部分にも書いてありましたが、EV化よってエンジンの需要が減ると溶射の需要も減ってしまうという点があるようです。
溶射膜の東都の多くが高温環境で使用されることを考えると、自動車などこれまで熱エネルギーで動作していたものが電気エネルギーで動くようになると溶射技術のニーズも減ってきてしまうのかもしれません。
他方、社会インフラや半導体などの防錆防食や耐腐食ガス膜としてのニーズは今後も必要になってくると思うので、原則はしてもそれなりに伸び続ける市場であると感じます。
市場規模
市場規模でいうと、2019年時点では約1600億円あるようです。
市場データは毎年調査されているわけではないようなので動きは見えにくいですが、2015年に比べると1.5倍の成長になっているとのことです。
今後の伸びは減速するようですが、上記に書いたように半導体製造装置などの成長産業で必須の技術なので、それほど悲観的な書かれ方はしていません。
企業
溶射技術を利用するのは、受託加工企業とメーカー内部の加工部門です。
受託加工は、トーカロ㈱がほぼ半分のシェアを持っているようです。
トーカロは聞いたことがあったんですが、そんなにシェアが高いとは知りませんでした。
興味本位で調べたらプライム市場で上場しているんですね。
チャートを見ると、コロナ前の2019年を底にして2021年初めのほうまで株価は上がってきていますね。
コロナショックでは殆ど下がらずにコロナバブルで大きく上昇しているんで、ここら辺からも溶射のニーズは底堅いのかなと感じます。
2022年は過去最高益を出しているようなので、これから伸びていきそうな気がしますね。
2位以下の企業はシェア3%以下とかなりばらけているようです。結構外資系の企業名が出てくるので、この分野は日本よりも欧米が強いのかもしれません。
世界的には5%以上で成長するようです?
感じたこと
溶射に関してこれまではほとんど理解していないということが分かりました。
また、今回の記事でざっとですが、溶射の概要を理解できたので、今後新しい技術が出てくれば、ウォッチングしていきたいと思います。
おそらく、この記事を読んで知った以上にいろいろなものに使われているのではないかと感じます。
ローテクなイメージですが、だからこそ強いのかもしれません。
もし仕事で使う機会があれば、詳しい仕組みやメカニズムも理解できるようになりたいと思いました。
以上です。
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