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『夏色セレブレーション』小早川雫香という魔王を巡る物語・蹂躙編

概要

『夏色セレブレーション』とは、1999年にWindows向けに発売された恋愛シミュレーションゲームです。

タイトル画面

その後、SIMPLE1500シリーズ『THE 恋愛シミュレーション 〜夏色セレブレーション〜』としてプレイステーション向けに移植されました。現在はPS3・PSP・PS VITAで利用できるゲームアーカイブスにて300円で入手可能です。
本稿はゲームアーカイブス版のプレイに基づきます。

なぜそんな四半世紀も昔のゲームをこの令和6年に……?
そんな些細なことはどうでもよいではないですか。
重要なのは、本作がこの現代においても輝かしい傑作であるということです。

本稿は、令和6年に平成11年のゲームをプレイして途方もない衝撃的な体験を得たことをみなさまに共有するための記事です。
内容はがっつりネタバレになりますので、ご了承ください。
ネタバレなしの新鮮な体験が得たい方は、今すぐPS3を購入し、本作をゲームアーカイブスから入手しましょう


共通ルートから個別ルートまでの流れ

本作は8月1日から31日までの一か月間、ひと夏の恋を描く作品です。
実家の父親から「21日には必ず帰ってこい」と告げられており、21日がこのゲームにおける一つの節目であることが暗示されます。

ゲーム開始時にランダム生成されるマップ

21日までの前半パート、いわゆる「共通ルート」では毎日の外出先を決めることでヒロインと出会い、どのヒロインに狙いを定めるのかということを選ぶことになります。
この手の恋愛ゲームではよくある構成といえるでしょう。

朝香久美子の初登場シーン

まずは、パッケージイラストにも描かれる幼馴染メインヒロイン・朝香久美子の攻略を目指します。
厳密には「(高校)1年からの腐れ縁」とあるよう、別にいうほど幼馴染ではないのですが、「朝起こしに来てくれる」「ほとんど友達の距離感」「素直じゃない」など魂の形が幼馴染なので、彼女のことは今後とも幼馴染と呼称します。

久美子とは最初からかなり距離感が近いので、互いの電話番号を知っています。夜には「なんか暇だから」とかいって用もなく電話をかけるほどです。
攻略の流れはシンプルで、毎日街へ出る前に電話をかける相手を選び、ヒロインの行先を探ってそこへ行くだけです。
あとは節々に選択肢が出ますので、そこで正解を選べばなおヨシです。

久美子ルートに入るまでの流れはスタンダートなものといえるでしょう。
久美子がイケメンに告白される瞬間を目撃してしまったり、食生活の怪しい主人公のために手料理をつくってくれたりプールに遊びに行ったり、夜の公園で肝試しをしたり、花火大会を見たり……。
友達感覚だった二人が互いを意識しはじめます。

可愛い

本作のまずよいところは、立ち絵の豊富な表情パターンです。
コロコロと表情が変わり、見ていて大変かわいらしいものになっています。服装差分も制服・私服・水着・浴衣など多く、飽きさせません。
悪い点は、せいぜい「各ロードが長い」「マップのランダム性に伴う攻略性」「スチルがやや怪しい」くらいなものです。
肝心要のキャラクター描写シナリオは非常によくできた作品です。

意味深な助言

そして運命の21日が迫ります。
その前日、寮の管理人さんから意味深なアドバイスをもらいました。

なるほど! そういうことか!
このゲームはやはり21日が重大な分岐点であり、この日に誰を誘うかによってルートが分岐することになるのです。
というわけで、もちろん朝香久美子を誘います。

朝香久美子ルートへ突入

めでたくルートに入りました。
二人きりの旅行になると思いきや、なんやかんや友人の日比野誠京野夕凪も誘っての帰省となります。

さて、父親は「21日には必ず帰ってこい」といいつつも、電話ではその理由を一切説明してくれませんでした。
帰省先の実家で、いったいなにが待ち受けているのでしょうか?


小早川雫香、襲来

実家へ帰省すると、父親からとんでもない事実を知らされます。
なんと、主人公には12年前からの許嫁がいたというのです。
9月1日が主人公18歳の誕生日であるため、実際に結婚する一週間前くらいに急に知らされたことになります。
「なんだよ親父! そんなの聞いてねえぞ!」
「親が勝手に決めた運命になんか従ってたまるかよ!」

主人公は当然反発します。そして現れたのは……

小早川雫香、初登場

誰?! 誰なの!? 怖いよぉ!!

幼馴染ルートに入ったと思ったら、突如として無から許嫁が現れました
この時点でかなり驚きましたが、まあ、幼馴染ルートを盛り上げてくれる引き立て役のライバルキャラなのだろうと思いました。
それにしては可愛すぎる気がしますが……。

そのうえ、彼女は12年前から許嫁の件を知らされており、ずっと主人公のことを想い続けてきたというのです。

「そんな親が勝手に決めた運命に従うなんて、嫌じゃないのか?」
主人公は問います。
対し、彼女は答えます。
「そう考えることもありました。ですが、12年間想いを育ててきたのは、私自身なんです」

ロジックとして隙のない先制攻撃をいきなり浴びせてくるのです。

小早川雫香には勝てないのか?

攻勢は止みません。一切の躊躇いなくグイグイ攻めてきます。久美子は押され気味です。
この帰省旅行には二人の友人たちもついてきています。主人公と久美子の関係を察している二人はそれとなく小早川雫香を引き離します。

無駄でした
当たり前のように振り切って、小早川雫香は主人公の元へ現れます。

胎界主』(尾籠憲一)「生体金庫」より

一方、久美子はよわよわへなへなで、小早川雫香が現れるたびにすぐ表情を曇らせて逃げていきます。

幼馴染の脳を破壊する兵器

そして脳破壊攻撃まで受けてしまったのです。

小早川雫香の強さは海水浴イベントでも発揮されます。
個別ルートに入ってから急に現れるヒロインです。おそらく正規のヒロインではないのでしょう。水着差分がありません。しかし。

水着差分がないことすら武器にする女

「主人公以外に肌を見せるのは恥ずかしい」と、水着差分がないことすら武器として活用します。

この女に本当に勝てるのか……?
雲行きが怪しくなりはじめました。
そもそも、黒髪ロングストレート美少女で12年前から一途に慕い続けてきた大和撫子で良妻賢母確定の許嫁を無下にする理由ってなくないですか……?
というか、こんなヒロインがいたら恋愛ゲームってそもそも成立しないんじゃないですか……?

この小早川雫香、本当に「非」の打ちどころがないんです。
ホラー映画だったら、たとえば彼女に隠れた狂暴性があったり、実は怪物だったりといった正体が明らかになって終盤に主人公に襲い掛かってくることでしょう。
そんなことは一切ありません。彼女には一点の曇りもない

仲のよろしいお友達なんですね

こんなことを言ってますが、悪意はまったくありません
ただ眼中にないだけです。
彼女は倫理的にまるで瑕疵のない存在です。ゆえに「強い」


「一週間以内にお前を殺す」

そうはいっても、急に許嫁というのはやはり困ります。
そのうえ朝香久美子という心に決めた相手までいるのです。
正直、この時点でだいぶ揺らいでますが……。

というわけで、両親は「ずっと黙っていたのも悪い」(それはそう)と、「許嫁は保留とし、一週間後に改めて答えを聞く」ということになりました。

私にはこれが死刑宣告に思えてなりませんでした。
「一週間以内にお前を殺す」そう言われているような気がしたのです。

帰省旅行を終え、もといた街へ戻ります。
急に現れた許嫁存在のために朝香久美子との関係はぎくしゃくしはじめました。
「話がしたい」と追いかける主人公。逃げる久美子。

逃げるな

友人らの応援により、二人はバッタリ偶然にも公園で出会うことになります。
「許嫁についてなんか文句あるのか? 恋人同士でもないのに」
素直になれない二人。そして。

人類の反撃は、ここからだ――

ついに、朝香久美子の反撃がはじまります。
「じゃあ、恋人になってあげてもいいわよ」幼馴染キャラらしい、実に決まった告白です。素晴らしい。
そうです、これはあくまで朝香久美子ルート。彼女の物語です。
急に現れた許嫁は二人の関係を掻き乱し、話を盛り上げるための引き立て役に過ぎなかったのです。
おかげで主人公も久美子も、自分の気持ちに気づくことができました。

魔王からは、逃げられない

街へ戻ってきたところで、小早川雫香からは逃げられるはずもありませんでした。
感動的な告白シーンの直後に現れ、朝香久美子を薙ぎ払います。
久美子はまたへなへなになって逃げ出してしまいました。

『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)8巻より

朝香久美子は万が一の勝機を逃したのです。

強さ

一方、小早川雫香は攻勢を休めません。
拒絶されれば、彼女は引きます。しおらしく申し訳なさそうに引くのです。引きながらもダメージを与えてきます。まるでノコギリです。

そして、日を改めてまた来ます
逃れることはできません。真正面から、一直線に、純粋な気持ちをぶつけてくるのです。

あれ? これもう勝負ついてね?
いやいやまさか……最後の最後でどちらかを選ぶ選択肢が出るだろう……。

許嫁の呼吸「選択肢キャンセル」

出ませんでした
ストレートに許嫁ルートに突入しました。
そして主人公と小早川雫香は結ばれることになったのです。
~HAPPY END~

え?


ド級のリトライ、ドリトライ

なにかの間違いかと思いました。
幼馴染ルートをプレイしていたと思ったら、急に無から許嫁が現れ、ルートを乗っ取ってしまったのです。
そのうえ、最後には選択肢すら出ない

正直、仮に出ていたとしても許嫁を選んでしまうくらいにはもう攻略されていましたが……。

『チェンソーマン』(藤本タツキ)5巻より

ジャンルとしては逆NTRですが、小早川雫香にその認識はまったくないというのもおそろしい点の一つです。

とはいえ、これには私に非があったというべきでしょう。
急に現れた許嫁のキャラクター性に圧倒され、「12年も想い続けてきたのにそれをなかったことにされるのはかわいそうだよな……」という心の隙がありました。
そんな隙を見せた時点で、もう終わりだったのです。

「お背中を流しましょう」といわれては断れず、「お部屋に上げてください」といわれれば上げてしまい……そんなズルズル受け入れる態度をとっていれば勝てるはずもなかったのです。
このようなプレイ体験は『ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON』における「そりゃ初見だとレイヴンの火ルート選ぶよ!」というくらいには強烈なものでした。
選択の余地はあったかもしれない、けど心理的に選択は一つに絞られていた。そんな体験です。

作中において、友人キャラである川島武司「誰かを愛するなら、他の誰かを傷つける覚悟を持て」と、どっちつかずで選ばないという態度が一番よくないと諭しました。
これもまた『ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON』と同じテーマ性といえるでしょう。

『嘘喰い』(迫稔雄)35巻より

というわけで、次は覚悟を持って挑みます
小早川雫香の登場する21日のセーブデータからやり直すことにしました。
心を鬼にして、すべての選択肢で彼女を拒絶します

負けました

なんでだよ!!!!!

ただ小早川雫香の強さを確認するだけの二周目になってしまいました。
どれだけ拒絶しても小早川雫香を倒すことはできなかったのです。

数少ない攻略ブログを読むかぎり、どうやら本来(?)ならラストに二人のどちらかを選ぶ選択肢が出るようなのです。
出ませんでした。
というより、仮に出たとしてもおそろしいことが書いてあります。

【雫香エンドについて】
どれだけ雫香に冷たくしても、最後の選択肢(だけ)で雫香とのグッドエンドは迎えられます。

https://maruko30.com/entry/natsuiro_kumiko-01/3
『胎界主』(尾籠憲一)「生体金庫」より

あるいは、21日以前の行動で久美子の好感度が十分ではなかったのがよくなかったのでは?
そのように考えました。
初見プレイでしたので選択を誤ったな、という場面はいくつかありました。

今度はただのリトライではありません。
ド級のリトライ、ドリトライです。
はじめからやり直し、徹底的に久美子の好感度を高めます。
今度こそ小早川雫香を倒すために……!

知らない新事実

おや……? なんだか様子が……?

歴史改変

久美子が……許嫁……!?

小早川雫香がいない世界に突入してしまいました。
こうなれば、文字通り敵はいませんので、「許嫁とか急に言われても困る……」という点を軸に話が進んでいきます。

え?
つまり小早川雫香は出てきた時点でもう「勝てない」ってこと?
小早川雫香を倒すには世界そのものから消滅させるしかないってこと……?

そんなモヤモヤを抱いたまま、朝香久美子と結ばれることになりました。
~HAPPY END~

そんなことある?????


ド級の敗北、ド敗北

いえ、たぶん、おそらくですが、さすがにそんなことはないはずです。
エンディングには「これまでの思い出」といったふうにイベントスチルが流れるのですが、そこに小早川雫香と戦う久美子の勇姿が映っていたからです。
つまりルート次第では小早川雫香に正面から戦って久美子が勝つ世界もあるはずなのです。

実はこのゲーム、フラグ管理などが異常に複雑になっています。
ゲーム開始ごとにマップがランダム生成され、キャラクターもそれぞれに二通りの性格差分というものがあります。
そして、その性格差分によってもルートが分岐するというのです。
よって、上記の攻略ブログは非常にありがたいものなのですが、情報が正確ではない可能性もあります。
実際、攻略ブログの記載を信じるなら小早川雫香が出る方のルートに入っていたはずですが、最終的に出ないルートに入ってしまいました。

もしかしたら、「性格差分」というのが曲者なのではないか?
攻略ブログや、あるいは攻略動画を見るかぎり、このゲームには「弱い久美子」「強い久美子」がいるらしいのです。

小早川雫香には「強い久美子」でなければ勝てないのでは?

そのように考え、リトライしました。ただのリトライではありません。
ですが、何度やっても「強い久美子」は出ませんでした。

そのため、今現在をもってしても、私のプレイでは朝香久美子は小早川雫香を倒せていません

『夏色セレブレーション』には、小早川雫香という魔王が君臨しているのです。

キャラクター相関図
説明書より。心の強ぇ許嫁なのか……!?

討伐編に続く


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