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『夏色セレブレーション』小早川雫香という魔王を巡る物語・討伐編

導入

本作の概要と朝香久美子ルートについては前回の記事をご覧ください。

さて、すっかり小早川雫香という女に魂を奪われてしまいましたが、本作のヒロインはなにも彼女だけではありません。
全員で六人のヒロインがいるそうです。

https://www.suruga-ya.jp/product/detail/145003317 より

こちらはPC版のパッケージイラストですが……
うわああ!! 真ん中に小早川雫香がいる!!!!

失礼、取り乱しました。
ご覧のように六人……六人? の攻略対象ヒロインがいます。
「強い久美子」ガチャはなぜか何度やっても引けないため、他のヒロインから攻略してみることにします(正直バグを疑ってます)。


京野夕凪ルートを攻略

京野夕凪、初登場シーン

たとえばこの子、京野夕凪も可愛いですね。
成績優秀で真面目、ですがちょっと抜けていて不思議な側面もある子です。
久美子と同じくクラスメイトですので、最初期から電話番号を入手でき、攻略の容易なキャラです。

シナリオの内容は簡単にいうと、実は彼女は二重人格であり、そのどちらもが主人公に恋をしてしまったせいで破綻しかけている。
ゆえに、どちらかを選ばねばならない……という重い「選択」の物語です。
そのうえ、どちらの人格も非常に魅力的なんです……!

概要だけでもご想像いただけるかと思います。
夕凪ルートも実に満足感の高い上質なシナリオでした。

胎界主』(尾籠憲一)「バンシー牧場」より

この作品はなにも小早川雫香というおそろしい存在がいるというだけではないのです。彼女抜きにも火力の高いストーリーを浴びることができます。
いやホントにすごいな……こんな作品があったとは……。

ちなみに夕凪ルートでの許嫁は久美子でした。負ける気はしません

ん!? あの子は……?

それはそれとして、見覚えのある影が一瞬だけフレームインして来てめちゃくちゃ怖かったです。

夕凪ルートでの彼女の出番はこれだけです(本当にこれだけ)。
「他のルートだとこんな子に会えることもあるよ」という意図の顔見せでしょうか?
ルート分岐によって設定が変わる作品は珍しくありませんが、この世界だと彼女はいったいどういう存在なのでしょう……。
「第三の人格 許嫁の達人・小早川雫香」という形で登場するんじゃないかとビクビクしてました)


小学生、桜咲真歩

とりあえず――と、はじめた幼馴染ルートで予期せぬ許嫁が襲来し、すっかり脳を破壊されてしまいましたが、実はこのゲームには当初から気になっているキャラがいました。

桜咲真歩、小学五年生

このゲームには、桜咲真歩という小学五年生の攻略対象キャラがいるのです。
へ、平成だからって……許されるのか、そんなこと……。

純粋に歴史学的な好奇心で、私は次のターゲットを彼女に定めました。
しかし、相手は幼女です。接点がありません。
このゲームはまず電話番号を入手し、そこから相手の居場所を聞いて接触回数を増やして攻略するという流れになるのですが、幼女の場合は電話番号入手までが大変です。

ではどうするのか?
ノーヒントで居場所を予想して先回りするしかありません。
さすがにゲームとして難しすぎるので、攻略動画を参考にさせていただきました。
「この日は必ずこの場所に行って会わなければならない」
「この日はそもそも会えないのでテキトーでいい」

というのが、本編だけではまったくわかりません
正直なところ、この点は本作における明確に悪い点である、といえます。

というわけで、幼女を攻略するため偶然にも出会っていきます。

女子トイレ前で偶然にも遭遇

そんなことを何度も繰り返すうちに親密になり、ついに電話番号を入手しました。
あとは毎日電話をかけて居場所を特定するだけです。
と、思いきや……。
どうやらこの幼女には誰にも言えない秘密があるらしく……?

新鋭人気アイドル、チェリッシュ・エル

幼女のストーキングを繰り返すうちに、主人公は新鋭人気アイドルのチェリッシュ・エルと頻繁に出会うことになります。
二人は互いに友達とのことです。幼女を通じて彼女ともデートできることになりました。

京野夕凪ルート二重人格の話であったように、そしてOPムービーでも幼女が魔法少女のようにステッキを振っているシーンが映っていたり、この時点でプレイヤーは真相に薄々気づきます。
さすがにそんなことあるはずがないため主人公は気づかなくても仕方ありませんが、幼女の正体は魔法少女で、エルは幼女が変身した姿なのです。
(プレイヤーは理解できるが主人公は理解できないという情報格差が面白いところです)

そのため、プレイヤーは非常に難しい選択を迫られます
幼女はお兄ちゃん(主人公)に恋をしています。
でも、幼女の姿のままでは「妹」のように見てはくれても、「恋人」としては見てはくれません。

ですが、エルの姿なら……?

超難問

難しい問題です。
この選択を誤るとどうやらBAD END確定のようです。
まるで国家試験の禁忌肢のようですね。

BAD END

BAD ENDになると、無から許嫁が現れます。だ、誰なのぉ……?

正しい選択を選べば、あとは同じ流れです。
21日に帰省するので、「『好きな娘』でも誘えば?」と意味深なアドバイスを受けるのです。

意味深な助言

……え!? それで幼女を???

理性

さすがに正気を取り戻しました。
この幼女ルートではこのように正気と狂気の鬩ぎ合いを何度も見せられることになります。

幼女ルート、突入

とはいえ、ルートには入れました。
他のルートだと友人たちを誘っての帰省旅行になるのですが、今回は一人です。これからいったいどんな展開になるのでしょう?

「21日に帰ってこい」という父親の台詞は同じであるため、おそらく許嫁の話なのでしょう。
本作では共通ルートにおいてたびたび久美子が許嫁であることを仄めかす伏線が張られています。
夕凪ルートでも久美子が許嫁だったよう、おそらくこちらの方が「正史」といえるものなのだと思います。
まあ、久美子が相手なら負ける気はしませんが……。


魔王、再臨

小早川雫香と申します
『胎界主』(尾籠憲一)「生体金庫」より

小早川雫香でした。

本当に出るとは思わなかったので心底驚き、恐怖しました。
彼女のことをてっきり幼馴染ルートにだけ出現する幼馴染だけを壊す機械だと思っていたからです。
だって、久美子ルートでないなら許嫁の枠には久美子が収まればいいじゃないですか。
こんなの敵に回したら勝てるわけがないじゃないですか。

散歩中、偶然にも遭遇

幼女ルートに入るためには、いかに「偶然」幼女と出会うかが重要でした。
今度は、主人公がその攻撃を受けます
このルートにおいても、小早川雫香の強さは健在です。

しかし、今回の私には鋼の意思があります。
幼女を攻略するのだという確固たる意志です。
夜の浜辺で偶然にも小早川雫香と出会ったこのシーン。
「押し倒す」というおそろしい選択肢が出現します。

さすがの小早川雫香も、会ったその日にいきなり押し倒してくる獣のような男には幻滅するのではないか……!?
幼女を攻略すると決めているのだから、彼女にはむしろ幻滅してもらわなければならない……!
そう心に決め、「押し倒す」を選びます。

え?

え?

幻術だ

幻術でした。

「押し倒した」と思ったら、「つい押し倒したいと思ってしまうほど見とれていた」ということにされてしまいました。

こんな技まで……使えるのか……。

本作は全体構成もよくできています。
ふつうにプレイしていればまず久美子ルートで小早川雫香の恐ろしさを魂に刻まれ、夕凪ルートでは二重人格が出てくるようなゲームなのだな、と自然に理解できる流れになっているはずです。

たとえ久美子ルートを未履修だったとしても、この一幕だけでこの女には勝てないとプレイヤーの本能には刻まれてしまうことでしょう。

しかも、このルートではまだヒロインであるはずの幼女が登場していない……! 小早川雫香の攻勢は増すばかりです。

もはや人類は小早川雫香には勝てないのか……。
諦めかけたそのとき。

偶然にも帰省先で幼女と出会う

偶然にも、帰省先の浜辺に幼女が現れます。
なんでも、エルがグラビア撮影のためのこの浜辺にやってきたというのです。なぜ幼女も? 妙だな……。

なにはともあれ、反撃開始です。
そして、夏祭りではエルがミニコンサートまで開くというのです。
両親のすすめもあり、許嫁との初デートとして夏祭りへ向かいます。

そこで、主人公はドルオタっぷりをいかんなく発揮。
さらにはライブ中のエルと目が合ったような気がして、「あの子……哀しい目をしている……」と駆け出します。

偶然にも夏祭りで幼女と出会う

そのあとなぜか幼女と出会い、いちゃつきはじめるのです。

冷え冷え

そのありさまを見せられては、さすがの小早川雫香もドン引き
空気が冷えっ冷えになります。
そして……ついに、彼女が身を引いたのです。
「夢を見る時間は、もう終わりにしなければいけませんね」
――と。

小早川雫香に勝つ方法は――実在する!!

さらには、幼女にのみ許されたデリカシーのなさで死体蹴りまで加えます。
あの小早川雫香が!? 幼女に敗北している……!?

そうです、小早川雫香に悪意はありません
久美子ルートで異常な強さを見せていたのは、久美子が煮え切らない態度であったがために二人がほとんど相思相愛で恋人に近い関係であることに気づかなかっただけなのです。
つまり、「好きな人がいる」と熱烈にアピールさえすれば小早川雫香は身を引くことができるのです。

そういうことにしておきましょう。

しかし、その代償は大きく……。

作中ポエム

怪物と戦うものは、自らも怪物とならぬよう心せよ。汝が深淵を覗くとき、深淵もまた汝を覗いているのだ。

『善悪の彼岸』フリードリヒ・ニーチェ


幼女ストーキング、再開

小早川雫香という魔王は倒されました。
ですが、その魔王を倒してしまった新しい魔王の誕生を我々は目撃してしまったのではないか?

人間――理性ある正気の常識人には、魔王を倒すことはできない
ならば、魔王を倒してしまった存在は果たして「人間」といえるのか?
この後のシナリオは、そのようなおそろしい「問い」に向き合うことになります。

田舎から戻ってきたあとも、主人公は幼女のことを想い続け、幼女とデートを重ねます。
そうするうちに、さすがに主人公も気づきはじめるのです。
幼女=エルなのではないか? と。

その証拠を得るため、主人公は小型カメラを持って幼女を追い回すことになります。

よし、尾行しよう
怪物の誕生

新しい怪物が、誕生しました。
小早川雫香に勝つということは、こういうことなのです。

そうするうちに、主人公は自らの本心に気づき、向き合い……
そして盗撮などではなく、正面から幼女の「真実」に迫る決意をします。

自らの心に向き合う主人公
「真実」に挑め

すごい話です。
「小学五年生に恋をするとはどういうことなのか?」という「問い」に真正面から向き合っています。
さらには、「新鋭人気アイドルの正体は幼女が魔法で変身した姿なのではないか?」という正気とは思えない「真実」にも向き合うことになるのです。

このシナリオはとにかく様子がおかしいですが、決して悪ふざけで書かれた話ではありません。大真面目にテーマを扱っています。迫力があります

明かされる真実

幼女の真実――
それは幼女が魔法少女であり、エルは幼女が変身した姿であるということ。
そして、その真実が知られてしまえば二度と変身はできなくなるということ。
しかし、主人公の熱い想いが、そして幼女の決意が、一つの結末へ向かうのです。

~HAPPY END~


まとめ

まさかあの小早川雫香が倒されるとは……。

いえ、未確認ながら久美子ルートで倒せる世界もあるのではないか、とは思っていました。
ただ、小早川雫香はあくまで久美子ルートにのみ登場するエクストラボスのような存在だと思っていたのです。

それが、まさかの、ヒロインとしては三番手か四番手くらいの幼女ルートで再登場。
そのうえ、正面から完膚なきまでに倒してしまうのです。

『胎界主』(尾籠憲一)「生体金庫」より

まさにこんな感じでした。
小早川雫香の耐久性にも限度があったのです。
本稿ではたびたび『胎界主』から引用をしているのですが(なんで?)小早川雫香が倒される瞬間はまさに生体金庫が倒されるときのような感動がありました。
(「生体金庫」というのは要するにゴジラのようなものだと思ってください。異常な耐久力と異常な火力で「これ本当に倒せるの?」と読者を恐怖させた存在です)

桜咲真歩編では、幼女の行動を先読みして完璧なストーキングを決めなければルートに入ることができません。その難易度の高さが、そのまま主人公の「強さ」に直結しているのです。
実に美しいロジックといえるでしょう。

そして、恐怖のラスボスであったはずの小早川雫香が一転して憐みの対象になりました。環境の変動が激しすぎる

しかし、改めて考えてみると久美子ルートで小早川雫香が猛威を振るっていたのは久美子が弱すぎたせいであるような気がしてきます。
小早川雫香はただ悪意なく鈍感なので、あんな煮え切らない態度で逃げ回っていては「仲がよろしいお友達ですのね」されても仕方ありません。
もっと正気を捨てた全力のアピールが必要だったのです。

このように、ルート分岐によって観点が変わりキャラクターの見え方が変わってくるのが、この手のゲームの妙といえますね。

さて、ここでもう一度PC版のパッケージイラストを見てみましょう。

https://www.suruga-ya.jp/product/detail/145003317 より

中央に、まるでラスボスのように小早川雫香の姿が描かれています。
そう、この作品は小早川雫香という魔王を巡る物語

物語の面白さとは、「問い」の設定にあるのだと私は考えます。
久美子ルートで暴れ回り、「どうやって倒すんだ?」「本当に倒せるのか?」とプレイヤーを畏怖させ、幼女ルートでその「答え」を示す。
「小学五年生の幼女を恋愛対象にしていいのか……?」という強烈な「問い」に向き合う形で、です。

『夏色セレブレーション』、本当に素晴らしい作品です。
実はまだ未攻略のヒロインを二人残しているのですが、果たして……。
もしかしたら同等以上の強烈なストーリーをまた見せてくれるのかもしれません。

本稿はひとまず、小早川雫香を倒すことができたということで筆を置きたいと思います。

【完】

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