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はなのように 3

自分で決める人

「必要ない、こうして電話をしてくること事態迷惑なんだけど、わからないかな。」

週に何度か、固定電話に実家から電話が入る。

珍しいことだろう。
旧家である実家は門限というものがいまだに存在していた。

こちらの都合はお構いなしである。

それでもこの先、課外活動やらで出掛けることも増える。説明したところで意味もわからないだろうから、もう携帯電話を買う資金は遣り繰りで貯めていた。支払いも、使いすぎなければなんとかなるようなので、少し、安心した。

旧家。
それなりに歴史があろうが、それを受け継ぐ人間に意識がなければただの旧い外観にすぎない。

歴史を知り、意味を知れば、誇りも取り戻せるというに、今は、見栄しかない。

見苦しい。

旧家であるという理由が、あの地域性にその独特の雰囲気をもたらすかと言えば、そうでもない。

ただ、祖母は体裁や自分の身分をこの時代においていまだに主張し、その子供(息子)は家督を次ぐものであり、嫁はその道具にすぎない。

また孫においても自由度はかなり制限されている、江戸時代ならまだしも、今は、もう戦後すら過ぎ、当時のものはほとんどない。

無いが故に、有ったものを語り継ぐのはわかるが、押し付けられたこちらはなに時代の子供として生きていたらいいのか。

同世代とのギャップが埋められず、逃げるように進学した。その進学も意に反しているから面白くないし、内容もわからないから意味のないことをして、と言われた。

2

学生2年目の夏前、学食で弁当を食べながら本を読んでいた。

会話が聞こえるのを、ラジオ代わりによくこうしている。
学食で食べるのだから、学食のものを食べればいいのだが、量が合わない。おにぎりに小鉢、程度の少食なので、弁当でも手間ではないのだ。

ラジオがやけに近付いたな、と思って顔をあげると知った顔があった。

「一人でご飯?友達と時間あわなかったの?」

同期生の男性の何人かの一人だった。彼は他に連れがいる。

「そうですが、なにか?」

「一緒に食べていい?」
私の食事はもう終わりに近いし、彼等は一人ではない、別に断ってもいいのではないかなと、「もう食べ終わるの、席がないなら使って」
と手早く片付けた。

「あー、違うんだ、ごめん、話があって、良かったら少し、時間いい?」

ならば仕方ない。
座り直して彼らの食事を見ていないといけなくなった。

「話って?」

「夏前に、近くでバーベキューでもと思って、ちらし書いたんだ、で、回ったと思ったら、君だけ空欄なんだ」

いや、それは、欠席にしたはず。

3

「予定があわなくて欠席にしたつもりだったのだけど、書く欄を間違えたかな、ごめんなさい。では、楽しんできてね。」

にこり、と笑うとそのまま席を立つ。これから携帯を選びにいくから。

愛想だけは良く、と育てられたので、抜かりはないはずだ。

「えっ、持ってないの?なら、俺もいくよ」

しまった、口が滑った。

「なに買うか決めてあるの?」

「はい、…あの私は授業ないけどあなたは…(何故付いてきてるの?」

「休講になってた、けど、携帯ないなんて、やっばりお嬢様なのかな?」

「は?い?」

なんだって、何言ってるの、その上私は貴方の名前も知らないよ。

「宇美野さんてさ、大人っぽいというか、さばさばしてる、というか、にこやかでたおやかっての?女子同士固まる訳じゃないし、まぁ、真面目すぎるというか近寄りがたいというか…」

「そのへんで結構です、印象がよくわかりました。」

やりすぎたか。
近寄りがたくはしていたが、イメージ映像がそうなっているのは予想外だ。

「あ、気分害した、ごめん、悪いイメージじゃないんだ」

「悪くはとっていませんが、イメージが膨らんでいるなと思っただけですよ、逆に浮いてると思ってましたから」

「浮いてるっていうか、遠巻きに見る…感じ。もし、馴染みにくいならなかを取り持とうか!?」

「いいえ、必要ないですよ。ありがとうございます。」

馴染みにくいのではなく馴染まないので。

そうこうしているうちに、目的地に着いてしまった。


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