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「マトリックス レザレクションズ」今さらの「レザレクション」に心底感動した理由。

どうも、安部スナヲです。

「メタフィクション」という言葉をご存知ですか?

フィクションの中の登場人物が、作者やオーディエンスを意識していたり、もっと広義では作者自身の状況や感情が物語に反映されていたり。

作者への思い入れの深さにもよるのですが、私なんかはそーゆーの、ちょっとウザいわ!って思ってしまう方なんですよね。

例をあげるなら、昨年公開された「シン・エヴァンゲリオン劇場版」なんかはモロにそれが濃厚で、映画そのものは、とても面白かったんですけど、長年続けたシリーズを完結させるまでの文脈に、庵野秀明自身のことが乗っかり過ぎてて、その部分に関してはちょっと「ゲップ出そう」と思ってしまいました。

で、今回約20年振りに続編が公開された「マトリックス」の新作を観たワケなんですけど、この映画に関しては自分でも意外なほど、メタフィクションとしてのスジの通し方に惚れてしまったんです。

【ネオ=監督の自虐メタ(笑)】

機械との戦争に敗れ、特殊な容器の中で「仮想現実」を見せられながら、機械の動力源として培養されてしまった人類。その事実に気づいた一部の人間たちが機械と戦う…「マトリックス」の内容をザックリ説明するとそんな感じでしょうか。

映画は1999年の1作目から2003年の「リローデッド」「レボリューションズ」の3部作を経て、スったモんだの末に機械と人間が一応和解し、戦いの殿(しんがり)をつとめた「救世主」ネオ(キアヌ・リーブス)とトリニティ(キャリー=アン・モス)は死んだ…?というところで完結しました。

今作は、この死んだ…?筈の2人が紆余曲折あって復活(レザレクション)します。

まず序盤でネオ=トーマス・アンダーソンは、かつて「マトリックス」という3部作の大ヒットゲームを作ったゲームデザイナーとして登場します。

つまり、まんま映画の作り手であるウォシャウスキー監督の化身となっているワケです。

その上で劇中、親会社であるワーナー・ブラザーズから4作目の制作を強いられているとか…

所属するゲーム会社のスタッフたちから発せられる「1作目は哲学的過ぎてよくわからなかった」「マトリックスのせいで落第した」という台詞とか…

かつて社会現象にもなったマトリックス映画シリーズの、しがらみとも言える側面を自虐的に示す場面が次々と出て来て、思わず笑ってしまいます。

【なりたい自分になる】

マトリックス過去3部作の監督はラリー&アンディ・ウォシャウスキーという「兄弟」でしたが、今は「姉妹」になっています。

元々トランスジェンダーだった2人は、どちらも性適合手術を受け、兄(姉)のラリーはラナに、弟(妹)のアンディはリリーと改名し、名実とも女性になりました。

今作の監督を担ったのはラナ(写真右)の方だけですが、姉妹はかつて、「マトリックス」にはトランスジェンダーとしての自分たちの経験や考え方も反映されていると語っていました。

それは「既成概念や偏見に負けず、なりたい自分になる」というメッセージなのですが、今作で、あらためてそれを効果的に訴えるため、トリニティの役割りに変化を齎せています。

今作でのトリニティは、夫と2人の子供を持つ平凡な主婦「ティファニー」として登場します。

しかもトーマスとのファーストコンタクトは、行きつけのカフェでよく見かける「エロいママ」に、トーマスの同僚が気を利かせて声をかけるという、なんちゅうユルい出会い(笑)

1作目での、それこそ人類の存亡を賭けた運命的な出会いとは180度ちがいます。

何より過去作では強くヒロイックで、性別的にはボーダーレスな存在だったトリニティを、敢えて象徴的な女性像に置いたことも、旧来のファンを欺くための「仕掛け」であることが、この映画を観ればわかります。

余談ですが、ティファニーの夫の「チャド」は、かつてのマトリックス3部作でキアヌ・リーブスのスタントを担当し、後に映画監督として、キアヌのもうひとつの代表作である「ジョン・ウィック」シリーズを手がけた、あのチャド・スタエルスキです。

このあたりの起用も洒落がきいてます。

【「赤いピル」問題】

「マトリックス」の世界には青いピルを飲むと仮想現実にとどまり、赤いピルを飲むと仮想現実から脱して現実を生きるという、極めて重要な選択があります。

この概念が社会に与えた影響は大きく、しばしば「現実を見よ」という意味合いで「赤いピルを飲め」という台詞が引用されるようなりました。

2020年5月、これに纏わる由々しき「事件」が起きました。

テスラ社の創業者イーロン・マスク氏による「赤いピルを飲もう」というツィートに、ドナルド・トランプの娘で当時大統領補佐官だったイヴァンカ・トランプが「飲んだよ!」と応じ、このやりとりを見たウォシャウスキーの妹・リリーが「2人ともファ◯ク!」と怒りのコメントをぶつけたのです。

イーロン氏の発言の真意はわかりませんが、リリーにとっては自分たちが作品の中に込めた想いから成るメッセージが不本意な形で引用されたことが我慢ならなかったのでしょう。

もっと忌まわしいのは、「陰謀論」を信じるアメリカ極右思想の人たちも2018年あたりから、「赤いピルを飲め」という言葉を使いはじめていたこと。

ドナルド・トランプを「救世主」に見たてる彼らの中で暴徒化した人たちが、あの連邦議会議事堂襲撃事件を起こしたことは、記憶に新しいです

本来、映画を観てそのメッセージをどのように受け取るかは観る側の問題であり、作り手には何の責任もないことですが、この映画では、陰謀論信奉者に限らず、ネットでの情報に踊らされ、考える力を失っている人たちへの戒めと取れるメタファーがわかりやすく示されています。

それは今の時代に、あらためて映画に込めたメッセージへの誤解や曲解をただし、本当に伝えたかったことを再提示しなければいけないというウォシャウスキーズの使命感のようでもあります。

20年を経た4作目は、赤いピルの「副作用」を抑えるために作られた映画なのかも知れませんね。


出典:

『マトリックスレザレクジョンズ』公式パンフレット特別編

『マトリックス レザレクションズ』公式サイト|大ヒット上映中!


マトリックス レザレクションズ : 作品情報 - 映画.com


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