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「RRR」この映画がアカデミー受賞しないとしたら、フェアではないと思わざるを得ない。

どうも、安部スナヲです。

インド映画といえば「ムトゥ 踊るマハラジャ」と「きっと、うまくいく」くらいしか思い浮かばず、S・S・ラージャマウリという人がビガー・ザン・ハリウッドな創造神であるという噂を小耳に挟んではいたものの、諸々とっつきにくい要素もあり、ずっと未見でした。

ところが今回、アメリカでも大ヒットしているという「 RRR」の只事では無さげな評判に気圧され、観て来ました。

ひとことでいうとその「諸々とっつきにくい要素」を補ってあまりある面白さであり、映画を観て以来、いつまで経っても脳細胞がナートゥダンスを踊ることをやめずに困ってますが、結論を言いますとこの「RRR」、興奮度だけを取ると生涯ナンバーワンの映画となりました。

【あり得ないけどあり得るアクション】

ここで少しだけ、私にとってインド映画ならびにS・S・ラージャマウリ監督作品の何が「とっつきにくい要素」なのかについて触れたいと思います。

まずはインド特有の神秘性にとっつきにくいということがあります。言いあらわすのが難しいですが、例えば褐色肌の掘り深く眼光鋭い人たちがエキゾチックな極彩色を纏い、軟体動物のような動きで踊る。或いは神様は首に蛇を巻いてたり、頭が象でカラダは人かと思いきや手が四つ生えていたりする。

私から見るとあの世界観は、ラリパッパなトランス状態でしか見られない幻覚のようなイメージです。

これは苦手というより、むしろそういう世界観に憧れはあるけれども、おいそれとは近づけない、畏怖に近い感じです。

特にS ・S・ラージャマウリ監督の近作はブレイクした「バーフバリ2部作」にしても今作「 RRR」にしても、神話だったり歴史ものだったりするので、余計に魑魅魍魎なインドワールドが濃厚になります。

あとは映画的「ルック」の問題。

実際にどんな技術が駆使されているかはさて置き、私はフィルム風の画質や実写主義的な撮影こそが映画だろ!と思っているアナクロな半老害野郎なので、ラージャマウリ氏の近作(或いは最近のマーベル映画にも通じますが)のように精密なCG /VFXで作り込まれた映像や、スローモーションなどを多用することで劇的に見せるアクション編集はアニメっぽくてあまり好きではありません。(アニメそのものは嫌いではありませんが)

ところがこの映画を観て、自分の中に擦り込まれている旧態依然とした映画的な方法論では描けない、超サイコー!な表現があることを思い知らされました。

何しろこの映画のアクションと来たら、ひとつひとつが緻密に設計されており、まるでサーカスの曲芸を続け様に何百個と見せらているようなもの。

しかもそれぞれのアクションは奇想天外でありながら、物理的、力学的には理に適っているので、あり得ないけどあり得ると思わせられるのです。

【唖然!数十万人VSひとり】

この映画の主人公のモデルとなったのは、インド独立運動を扇動し、本国では英雄として敬われているA.ラーマ・ラージュとコムラム・ビーム。ともに1900年とかその辺に実在した人物です。

ラージャマウリ監督は、史実上は直接会ったことはないこの2人が、もし何らかの拍子にマブダチになり、互いに手を携えて英国の植民地支配に立ち向かったら…という想像をもとに、この映画を作りました(歴史を大胆に改変する勇気はタランティーノの「イングロリアス・バスターズ」から得たとのこと。やっぱり!)

英雄のひとり、ラーマ(ラーム・チャラン)は火の化身。

劇中、ラーマが活躍する場面ではことあるごとに火のイメージが示されます。

英国統治下のインド帝国の警察官として、インド人でありながら帝国に忠誠を捧げる(フリをした)彼は、逮捕された反英活動家の釈放を求めて猛抗議して来るインド人の大群衆にたったひとりで立ち向かいます。

いや、あれは立ち向かうというより「ダイブする」といった方が正しいかも知れません。

とにかく怒涛のように迫って来る敵陣に棍棒一本振り回しながらワケ入りワケ入り、手当たり次第ボコボコにして行きます。

如何せん数十万人VSひとりなので多勢に無勢どころの騒ぎではないのですが、もみくちゃにされて殴られようが、引っ掻かれようが、一切ひるむことなく、血を流しながらひとりひとり確実に駆逐して行き、遂に数十万人の中から目当ての首謀者を捕まえます。

本来、あり得ない戦闘ですが、この男ならできるかもと思わせられる超人ップリに唖然とするしかありません。

このラーマの登場シーンもまた、ここ数年観た映画で最も強烈なインパクトでした。

【火と水、出会うべくして】

もうひとりの英雄は水の化身、ビーム(NTR.JR)

ラーマにとっての火のように、ビームは水のイメージを伴って登場することが多いです。

ビームは森林地帯に暮らすゴーンド族の信頼あついリーダー。

森の中で凶暴な虎や狼と格闘し捕獲する(この捕獲が後にとんでもない展開を見せてくれます)彼の登場シーンもまた、ラーマに劣らず強烈です。

彼は帝国総督夫婦が強引に連れ去った妹のマッリを奪い返すべく、デリーに潜んでいました。

劇中、総督府の連中がゴーンド族の人柄について「とても優しく仲間想い。だがゴーンド族の羊飼いは子羊が奪われたなら、虎の牙を砕き、頬を切り裂いてでも取り返す」みたいなことを話していますが、これは正にビームその人を表しています。

ある日デリーにて、陸橋を走る蒸気機関車の爆発事故が起き、その下の河が炎に包まれました。

河には魚を獲る為に舟に乗った少年がいて、あわや炎に焼かれてしまうという瀬戸際、その場に居合わせたラーマとビームは、互いに橋の上と下でアイコンタクトを取り、初対面なのにもかかわらず神技的コンビネーションで少年を救出します。

火の化身であるラーマと水の化身であるビームが、火と水を動力として走る蒸気機関車(しかもこの時代における英国文明の象徴でもある)から同胞の子供を守る。

この凸凹が気持ち良くガチャッと嵌まる感じ。出来過ぎやろ。

この救出劇をきっかけに2人はマブダチとなり、見てるこっちが照れるわ!みたいなイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャの蜜月を経て、やがてお互いの「使命」の為、対立したかと思いきや、え?おー!何やと⁈うわっ!!…と物語は何回転も転がって行きます。

【ナートゥを知ってる?】

インド映画といえばダンスが白眉ですが、この映画のダンスシーンの突き抜けっぷりっもまた尋常ではないです。

実際、映画の中のダンスシーンはエンドロールで出演者とラージャマウリ監督が入り乱れるグランドフィナーレを含め2箇所だけなのですが、どちらも見たら最後。誰もがアドレナリン制御不能になるほど熱狂すると断言できます。

その至福のシーンが総督府の社交パーティにて、ラーマ&ビームが英国貴族どもにお見舞いするナートゥ・ダンスです。

総督府役人のジェイクという男は、由緒正しい英国式パーティにインド人が参加していることが気に入りません。

ジェイクはビームに対し、タンゴ、スウィング、フラメンコという白人のダンスを踊って見せ「お前らに踊れるか?や、踊れんよなあー」みたいなことを言ってマウントを取ります。

そ・こ・で!

ラーマ&ビームは彼にこう言います。

「ナートゥを知ってる?」

そうして見せた踊りがこれです。

こんな凄いものを見せられた日にゃ、もう何も言えません。

ひとしきり興奮したあと頭が空っぽになり、多幸感がだけが残るような快感。

この野生味がありつつエレガントで、さらにプログラミングされたような正確さのダンスそのものもさることながら、何より民族への差別的態度に対して、こんなに底ぬけの明るさで対抗するなんて素敵過ぎます。

このダンスシーンは今年観たスピルバーグの「ウエスト・サイド・ストーリー」のアリアナ・デボーズによる「AMERICA」とともに、歴史的名場面として後世に残ることでしょう。

(せーのっ!)知らんけど。

出典:

『RRR』世界的ヒットを機に“インド映画”への誤解を解く 言語による作風の違いとは(リアルサウンド) - Yahoo!ニュース

RRR : 作品情報 - 映画.com

映画『RRR アールアールアール』|絶賛上映中!

[蒸気機関車誕生への道] 不遇の天才トレヴィシック [Richard Trevithick] - Onlineジャーニー

映画「RRR」公式劇場パンフレット


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