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「ヘルドッグス」ヤクザ映画と一線を画す、原田流フィルム・ノワール

どうも、安部スナヲです。

「関ヶ原」「燃えよ剣」に次ぐ原田眞人&岡田准一タッグ作品は深町秋生の小説を原作とした、待ってましたのフィルム・ノワール!

原田作品でノワール系といえば「KAMIKAZE  TAXI (1994)」が思い浮かびますが、あの映画はドキュメンタリー風の画作りで地味ぃ~にリアリティを打ち出した感じですが、こちらは気前のいい実力派キャストがド派手に本格アクションを繰り広げる超エンタメ作品。あれから約30年を経て、作品ごとにスケールアップを重ねて来た原田眞人は、一体どんなノワールを観せてくれたのでしょうか。

【相性98%って…】

主人公の出月(岡田准一)という元・警官の男は、ある強盗殺人事件で自分の愛する人(といってもデイトの約束をしただけのウブな間柄だが)を失ったことをキッカケに復讐魔と化し、犯行に加わったヤツらをひとりひとり殺します。

映画は、その首謀者である「マッド・ドッグ」をボコボコにした挙句に殺めるところから始まります。

殺人を犯したからには、当たり前に警察に捕われるのですが、出月を捕らえた警視庁裏捜査のエース・阿内(酒匂芳)は、彼に殺人罪を逃してやる代わりに、関東最大のヤクザ組織・東鞘会に潜入せよという任務を課します。

そうして出月は兼高と名前を変え、東鞘会に潜入する為のファースト・ミッション=東鞘会の武装部隊「ヘルドッグス」への加入に取り掛かります。

「ヘルドッグス」には室岡(坂口健太郎)という最も危ないサイコパスと言われる男がいるのですが、警察が調べたところによると、何の占いか知りませんがこの室岡と兼高の相性は98%だそうです。

というわけで兼高はとりあえず室岡に接触するべく、ヘルドッグスが滞在しているタイに向かいます。

その1年後ー。

スッカリ蜜月バディに仕上がった兼高&室岡は東鞘会の中でのし上がって行くのですが、兼高の目的が潜入捜査であることがバレる?バレない?みたいなハラハラドキドキを盛り込みつつ、物語は進んで行きます。

【暴力と愛】

冒頭からファンキーなバイオレンス、キレっキレのアクションに引きこまれ、それだけでとりあえずハナシがどうであれ、この映画は絶対面白い!と確信するほど、アクションシーンに映画そのものを引っ張る力があります。

アクションの構成、格闘振り付けは主演の岡田准一自身が担当しています。

同様に彼が振り付けを担当した前作「燃えよ剣」の殺陣も、リアルと様式美を兼ね揃えた見事なものでしたが、今作はよりケレン味に富んでいて、絶え間ない肉弾格闘&銃撃シーンだけで誰が見ても楽しめます。

中でも特に印象に残ったのが、東鞘会御用達の高級クラブで、新入りホステスと偽った刺客・ルカ(中島亜梨沙)と兼高との格闘シーンです。

ルカのある行動にピンと来た兼高が正体を暴くべくジワジワ追い詰めるところも最高ですが、開きなおったルカの反撃!!からの~「あ、女だからって容赦しないんや」的にねじ伏せて瞬殺でとどめを指すまでの一連の打投曲には身震いしました。

それとは対照的というか、とても不思議な感じがしたのが男同士(それも仲間内で)でやり合う時の妙な艶かしさです。

顕著なのは兼高と室岡のジャレ合い格闘トレーニングと、クライマックスの兼高VS十朱(MIYAVI)の、何故かアタマを狙わない愛の銃撃シーン。

この映画が「ブロマンス(ブラザーロマンスの意。男同士の汗臭い絆のような愛のようなものを指す)」を全面に打ち出しているにせよ、これらバトルシーンにおける「アニキとオレ」のむつみ合いは何だかとても独特なものを感じました。

こうなるとBLとのちがいがよくわからなくなりますね。

【男以上にアクが強い女性陣】

ブロマンスとBLのキワキワをたどる本作ですが、女性陣の存在感も強烈でむしろ男どもを凌駕します。

バイオレス映画に登場する男たち(ヤクザや警察)って性質上、どうしても何パターンかに分類されがちなので、女性の方が個性を出しやすいのかも知れませんが、ここまで強烈なキャラクターが揃った映画はそうないと思います。

前述した謎の女殺し屋・ルカは闇で蠢くクノイチみたいであり、東鞘会幹部の妻・佐代子(赤間麻里子)は横浜銀蝿バリのリーゼント&サングラスに和服という異装でSMクラブのオーナーという、こちらもかなりエキセントリック。

息子を殺した東鞘会へ復讐の執念を燃やすマッサージ師・典子(大竹しのぶ)も、見るからに感情を失った冷血感が滲み出ています(この人の場合『黒い家』や『後妻業の女』によって、もはやサイコおばはんの代名詞になってますが)

そんな妖怪じみた異彩を放つ女性陣をもろともしないスゴさを見せてくれたのが、神津組組長・土岐(北村一輝)の情婦・吉佐恵美裏を演じた松岡茉優です。

何がスゴいって、何の誇張表現もなくフツウにヤクザの情婦なんです。

土岐というキャラクターは映画の中で最も古式ゆかしい、ある種大味なオラオラ系ヤクザなんですが、恵美裏はその威光を借りつつ実は手玉に取ってるような胸糞悪ぅ~い感じを、とても自然にやってのけています。

松岡茉優の実力に今更驚くまでもないかも知れませんが、自分が知ってるどの彼女とも明らかにちがっているのに、はじめからそういう人にしか見えない上に、終盤でその正体が明らかになった時、「え?そっちかぁー」と驚きながらやっぱり「そっちもアリやん!」と納得させらる演技力は流石です。

【ジャパニーズ・フィルム・ノワール】

暗黒・犯罪モノの映画に裏社会の組織はつきものであり、それが日本だと概ねヤクザになります。

日本のヤクザ映画の歴史は長く、古くは鶴田浩二や高倉健の任侠映画から「仁義なき戦い」を筆頭とする実録モノ。

それから「極道の妻たち」あたりから派生したデフォルメチックな作風は「Vシネ」に受け継がれ、一時は大量生産されていました。

そして再びヤクザ映画のポピュラリティを再構築したのが2010年に1作目が公開された北野武の「アウトレイジシリーズ」

最近では「狐狼の血」も現代にアップデートされた由緒正しいヤクザ映画という感じがします。

しかしながら本作はヤクザのハナシでありながら、敢えてヤクザ映画の轍を踏むことを避け、いわゆる洋画のフィルム・ノワール足らんとしているところが面白いんです。

主人公・兼高を演じる岡田准一の佇まいひとつとってみても、まるで「カリートの道」のアル・パチーノみたいだし、腕や背中の刺青も唐獅子牡丹や昇り竜ではなく、何やらエキゾチックで洒落た模様です。

また、旧来のヤクザ映画では佐分利信か若山冨三郎のポジションである大親分=東鞘会会長・十朱がMIYAVIというキャスティングなどは、ちょっとファンタジックでさえあります。

そして何よりノワール感を決定づけているのはロケーションです。

廃虚や古い教会や芸術劇場などでロケが行われているのですが、これらのどこか無国籍なシチュエーションの切り取り方が絶妙で、とてもノワール映えするんです。

本作について原田監督は「今まで観て来たフィルム・ノワールに対する自分なりの答えを表現してみたかった」と語っています。

日本映画の座組みでノワールの世界観を作るため、役者の風体からロケ地、美術、セットの細部までこだわり抜き、その器の中でヤクザ映画とは一線を画す本物のジャパニーズ・ノワールを作る。

その心意気こそが他ならぬ任侠というものですな^ ^

出典:

映画『ヘルドッグス』公式劇場パンフレット

映画『ヘルドッグス』公式サイト 9/16(金)全国の映画館で公開

ヘルドッグス : 作品情報 - 映画.com

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