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「TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー」ホラー的な怖さよりも、主人公・ミアの内面に慄く映画。

どうも、安部スナヲです。

全米でA24ホラー史上最大のヒットと言われればそりゃ気になりますが、監督はオーストラリアの人気ユーチューバーで、長編映画は本作が初というので、ますます謎でした。

ウワサによると、このダニー&マイケル・フィリッポウという双子のユーチューバーが運営する『RackaRacka』というチャンネルでは、『スター・ウォーズ』のジェダイ騎士と『ハリー・ポッター』の魔法使いが異種格闘技戦を繰り広げたりするらしく、それはそれでちょっとおもろそうやんと思うのですが、何よりA24が前のめりに配給権を欲しがったシロート映画という点が気になり、観て来ました。

結論、全然シロートちゃうやん。

【あらましのあらすじ】

17歳の女子高生ミア(ソフィー・ワイルド)は、最愛の母を亡くした心の傷が癒えずに塞ぎがちで、父親にさえ心を閉ざしてる。

そんなミアが唯一親しくしているのは同じ学校のジェイド(アレクサンドラ・ジェンセン)とその家族=弟ライリー(ジョー・バード)と母スー(ミランダ・オットー)。

ある日ミアは、学校の仲間たちから誘われたジェイドに着いて行く格好でパーティーに参加する。

そこでは〈90秒憑依チャレンジ〉という、怪しげなゲームが行われる。

このゲームは石膏のようなもので固められた手を握って「talk to me」と呼びかけると目の前に死者があらわれる。さらに「let you in」と言うと死者は被験者に憑依する。但し90秒以内に憑依を解かなければ霊が居着いてしまうので、そのキワキワのスリルを味わいながら憑依体験を愉しむというもの。

出典:映画.com

正直、仲間うちからは嫌われているミアは、彼らの気を引いてご機嫌をうかがいたいという思いもあり、積極的にこのゲームに参加する。

出典:映画.com
出典:映画.com

ワァキャアはしゃぎながらひとしきり盛り上がり、その日のパーティーはひとまず何ごともなく終わったのだが、やめときゃいいのにまた別の日に、今度はジェイドの自宅に仲間を招いて、またあのゲームを行う。

そこでまだ年少のライリーが憑依チャレンジしたことで、取り返しのつかない惨事となる。。。

出典:映画.com

【感想】

ホラー映画という建て付けではあるが、心霊やオカルトを触媒にしながら、テーマは完全に主人公・ミアの心の闇にある。

というかこれ、フツウにアカデミー賞案件ちゃう?というくらい人間描写の深い映画だった。

予告編と概要を見れば、まごうことなきホラーだし、それを期待して観に行くのだが、実際に得られるものは〈怖がりたい欲〉由来のカタルシスではなく、いわゆる〈考えさせられる系〉に近い。

このようにちゃんと誘導してちゃんと裏切る、ちゃんとしたミスリードは、作り手のサービス精神が感じられ、好感が持てる。

とにかく、ホラー的な怖さよりもミアのマグマのような内面に慄く映画だ。

ミアは母を失ったことで心が壊れた。その壊れた心のまま愛情を渇望しているから始末が悪い。

彼女の葛藤、その心中を想像するだに胸がヒリヒリする。

ミアを演じるソフィー・ワイルドは既にスター女優の風格がある。

若い頃のハル・ベリーを思わせる、エキゾコケティッシュというか(何じゃそら)、とにかくパッと見はめちゃくちゃ垢抜けているのだけど、ミアの表情からは常に卑屈さが滲み出ている。

それは第一印象から半歩でも踏み込めば、言葉を交わすまでもなくわかる。

素敵な娘なのに、見てると何故か神経を逆撫でされる。

実際、彼女が仲が良いのはジェイドとその家族だけで、他の仲間たちからは嫌われてるし、何ならジェイドファミリーからも(特にスー)微妙に一線引かれてる気配。

そんなミアのそこはかとない〈感じ悪さ〉は、序盤のライリーを乗せて車を運転している時に遭遇した瀕死状態のカンガルーをやり過ごすシーンで既に仄めかされている。

この時の「次に通った人が何とかするよ」といった彼女を思い出すと、「なるほど、そういうところか」と腑に落ちてしまう。

要は自己チューなのだ。

さらに自分の元カレで今はジェイドのカレシであるダニエルへの無遠慮さはドン引きする。

出典:映画.com

一応、元カレと割り切ってるからこそサバけてますよ〜という体裁をつくろうとしてるが「ブランド物の下着をダニエルに見せようかしら」はいくらなんでも笑えん。私のようなオッサンでもギョッとのけぞった。

極めつけは、物語のフックとなる、ライリーが憑依チャレンジを行うくだり。

あれは自己チューでは済まされない。

ネタバレに配慮し、詳しくは伏せるが、ミアという娘は自分の安寧のためなら可愛がってた〈筈の〉ライリーの犠牲も厭わないのだ。あれはあかん。

結局、他者への思いやりとか愛情というのは、こういう時にはかられる。

平時であれば誰にでも優しくできるし愛を振り撒くこともきる。

あのシーンは映画のなかでもっとも残酷だった。

そしてクライマックス、ミアは完全に正気を失って、現実とアッチの世界と己の内面の境界がなくなるなかで、母・リアに会うため、あるいは自分のせいでああなってしまったライリーを救うため、自らが生き霊のようになって奔走する。

凄まじいスピード感と畝りを経てのあのラスト。

ミアといっしょに闇の向こうに「let me in」と叫びたい気持ちになりました。





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