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「リスペクト」顔は似てないけど、アレサ以上にアレサでした。

どうも、安部スナヲです。

世に伝記ドラマは数あれど、当該人物本人が役者を指名するというハナシを聞いたのは、随分昔のNHK朝ドラ「春よ来い」くらいです。

あのドラマは橋田壽賀子の自伝で、「若い時の自分に似てる」という希望的観測甚だしい理由で安田成美を指名したそうですが、「精神的負担」から途中で降板しました。真相は定かではありませんが、何らかのプレッシャーを感じていたようです。

…喩えが良くないですね。スンマセン(⌒-⌒; )

さておき、この映画で主演をつとめたジェニファー・ハドソンも相当のプレッシャーを感じたことは想像に難くありません。

何しろあの「クィーン・オブ・ソウル」アレサ・フランクリンから生前、直々に「あなたに私を演じて欲しい」とオファーされたんですから。


【アレサ度120%!ジェニファー・ハドソン】


この小見出しを見て「そんなワケあるか!」と思われる方もいるでしょう。

しかし、私は何ら誇張しているつもりはありません。

この映画でアレサを演じるジェニファー・ハドソンを見て、「こりゃアレサ以上にアレサだ」と素直にそう感じたんです。

それも、最も要である歌でそう感じました。

音楽伝記映画における歌唱シーンは、基本、演じ手である役者が実際に歌うケースと、本人の歌に差し替えるケースがあって、はたまた「ボヘミアン・ラプソディ」などは「役者」「本人」「本人に似た声の人」を適材適所あてがうギミックを駆使していたりもしますが、この映画では、すべてジェニファー自身が歌っています。

劇中で歌う彼女は、声質がアレサに似ているというのともちょっとちがって、例えばニュアンスやビブラートや声量が、それこそ周波数やデシベル単位でアレサの声にチューニングされているかのような精度を感じるのです。

今回、ジェニファーはアレサの歌声に近づける為、アレサの声と彼女自身の声を楽器に見たて、音が出る仕組みのちがいを比較・分析した上で、トレーニングを行なったといいます。

ジェニファーがメチャクチャ歌がウマいことは言うまでもありませんが、それ以上にこのような肉体改造にちかい感覚で「アレサの喉」を形成していく様は、役者というより職人根性だなと思いました。

そんなふうにアレサの歌唱をとことんロジカルに追求し、体得した彼女が歌う歌を「アレサ以上にアレサ」と感じるのは、むしろ当然かも知れません。

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【父からゴスペルを】


ここから、音楽家としてのアレサを形成したといえる、3人の男たちを紹介したいと思います。

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まずはアレサの父、C.Lフランクリン師(フォレスト・ウィテカー)

プロテスタントの牧師で公民権運動活動家という、少々語弊があるかも知れませんが当時の黒人社会の中では正義のヒーローみたいな人でしょう。

72年のゴスペルライブを記録した映画「アメイジング・グレイス」ではご本人が登場し、ゴリゴリの雄弁を振るっていました。

アレサはまだ幼い頃からこの父に駆り出され、ホームパーティーや礼拝の場でゴスペルなどを歌っていました。

温かみのある反面、父権主義的な性質が強く、アレサを抑圧しますが、人間としても歌手としても、アレサのアイデンティティの礎がこの父にあることはまちがいありません。

この映画ではフォレスト・ウィテカーが、愛嬌と威圧感のバランスが絶妙な名演を見せてくれます。


【クズ夫からブルースを】

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テッド・ホワイト(マーロン・ウェイアンズ)

アレサの夫でありマネージャー。モラハラでDV、その癖、異常なヤキモチ焼き。実際のホワイト氏がどんな人物だったかは知りませんが、この映画を観る限り、ろくでもないクズ野郎です。

劇中、アレサがこの男と出会い、恋に落ちる場面では「その男はあかんて~」と、矢も盾もたまらずヤキモキしましたし、別れた時には本気でホッとしました。それくらいコヤツはヤな感じです。しかも悔しいけどイイ男なんで惹かれる気持ちも、ちょっとわかったりするんです。それがまた余計に腹立たしい。

しかしながら、アレサの歌う「I Never Loved a Man (The Way I Love You)」や「Respect」「Think」などは、概ねコヤツのクズっぷりにほとほと呆れつつも本心では愛してる?…的な意味の歌詞だったりするので、何だか複雑な気持ちになります。

結局、あかん男に不幸な目に遭わされるほど歌に妙味が出る…何だか演歌チックでヤですが、コヤツとの波瀾の関係が、アレサのブルージーな側面に反映されていることは否めなさそうです。

ひとつ言えるのは、ここまでヤな気持ちにさせるマーロン・ウェイアンズは天晴れサイコー!ということです。


【そしてR&B】


父のC.l.フランクリンも夫のテッド・ホワイトも、アレサを歌手として売り出すことについては真剣でした。

しかし、最初に契約したコロンビアレコードからは、いつまで経ってもヒットに恵まれません。

この頃アレサが歌っていた(歌わされていた)のは、ジャズスタンダード寄りのポップスで、彼女の強みをあまり活かせなかったようです。

彼女が本来の資質や才能を開花させるのは、66年、アトランティックレコードに移籍してからです。

そのレーベルのプロデューサーがこのおじさん。

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ジェリー・ウェクスラー(マーク・マロン)

私は、アレサに限らず自分の好きなソウルミュージックを作りあげてくれたのはこの人だと思っています。

彼はマッスルショールズの「フェイムスタジオ」にアレサを招き、ハウスバンドである白人のミュージシャンたち(マッスルショールズリズムセクション、後のスワンパーズ)とセッションをさせます。

そこで化学反応が起きます。

アレサの中に根付いてるゴスペルとバンドが持つアーシーで泥臭いフィーリングが見事にハマって、アレサの音楽は、あのサザンソウルに系統されるR&Bになったのです。

ちなみにそれまで「Race music(人種音楽)」と呼ばれていた黒人ポピュラー音楽に「R&B」という呼称を与えたのも、音楽誌ビルボードで仕事をしていた頃の彼です。

これについては、noteにて興味深い記事を見つけたので、こちらも是非読んでみてください。

また、劇中にてウェクスラーを演じたマーク・マロンの度量を感じさせる男っぷりもサイコーです。

彼は自分が良いと思った音楽を表舞台に引っ張り出す為に、海千山千の音楽業界で強かに奮闘します。

ホンマ、音楽ファンとしていちばんリスペクトすべきはこの人やわ。

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出典:Getty images


出典:

映画「リスペクト」公式パンフレット


映画『リスペクト』公式サイト


リスペクト : 作品情報 - 映画.com

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