広告代理店の地殻変動となりうるTVCMオンライン送稿システムについて

※これは広告代理店向けの記事です

TVCMオンライン送稿システムがローンチしそろそろ殆どの放送局で搬入可能となりつつある。広告代理店の現場社員からすると、雑誌の版下がなくなってIllustratorデータを渡すだけで入稿できるようになったり、ラジオのMOがなくなってオンライン送稿になったりと1つずつゆっくり変化してきているので気がつきにくいかもしれないが、将来このTVCMオンライン送稿システムのローンチは広告代理店業界のエポックメイキングな事件として捉えられることになるだろう。

広告代理店の利益の源泉は未だにテレビ媒体

売上高ではウェブ広告が遂に一番のメディアとなりつつあるが、各メディアエージェンシーにとってまだまだテレビタイム・テレビスポットがもたらす利益は莫大である。買い叩かれることこそあれども、運用担当者やメディアレップの人件費を払う必要もなく、自社内の営業・スタッフの稼働時間も長くないので利益貢献ではやはり一番大きい。

しかし、現場社員とくに営業部門の社員は、「いつまでもこのテレビを売り続けることができる」とア・プリオリに想定しているのではないだろうか。どうして自分たちがこの高額商品をテレビ局が直接販売ではなく代行販売させているのか、販売パートナーで居られるのか、考えたことはあるだろうか。

販売パートナー企業で居られるのは「手売りビジネスの効率化」を提供しているから

広告代理店がマスメディアというリーチ力があり費用対効果で換算するととても安い(Webではテレビのように一気に全国民に周知する手段は未だに構築されていないしまだまだ単価は割高だ)優良な媒体を直販ではなく代理販売させて貰えているのには理由がある。

マスメディアの媒体社は、アナログな商材であるが故に手売り販売しなければならない。ECサイトのように顧客がボタンクリックで購入完了とはならず、セールス用の提案資料を番組毎に用意し、「丁度欲しかったんですよ!」という顧客を探し回り、決定後は提供ロゴの受領・CM放映用テープの受領と番号による管理・放映用システムへ登録などなどを行わなければならい。そうこうしているうちに放送日を迎えると自動的に不良在庫化してしまうので、新鮮な食材と同様に直販営業部隊だけではとても在庫を埋めることができないので、卸売に出す必要がある。

顧客の課題を常にヒアリングし、「そういうことだったらTVの方が良いですね!」「TVの中でもこの番組がお勧めですね!」などと放送局の営業が張り付くことは現実的には不可能だ。(技術的にはできるがそこまでの人件費をかけるなら販売パートナーに売らせる方が良い。)

過去に手売り廃止を試したADGOGO

過去にこんな取り組みがあったことを憶えているだろうか。

新聞広告や雑誌広告といったアナログの広告枠もECサイトで買えてしまうようにしようとした取り組みだ。実際には、上手くいかずサービスは閉じてしまった。

だが、TVCMオンライン送稿システムによって、ECサイトで販売し入稿することは現実味を帯びている

重たいデータを送稿するのは広告主ではなく、ポストプロダクション

TVCMオンライン送稿システムでは、ポストプロダクションがオンライン送稿事業者に先ずデータを納品し、オンライン送稿事業者からCMDeCoに送稿し、CMDeCoから放送局に送稿する。

すると何ギガバイトもする重たいデータを自社のインターネット回線から送る必要がなくなり、指示だけすればCMの入稿ができる。

この手軽さを活用すれば、放送局も広告代理店に頼らず、人間の営業にも頼らず、広告主がECサイトから在庫検索してボタン1つで決済してしまえばGoogleが直接Web広告を売るのと同じように販売できてしまう。

1本から買えることが売りの「オンラインテレビ広告販売」だが

実際、放送局ではオンラインでTVCM枠をセールスする動きが始まっていて、その広告を見た人もいるだろう。

今は、どちらかというとオンラインで買えることよりも「1本から」「欲しい番組を選んで」買えることを強調していし、これ自体も業界的には驚きである。(注:テレビスポットは通常抱き合わせ販売で番組は選べない。)

これは既存の広告代理店との関係に配慮した巧みな建前ではあるが、営業の手を介さずにTVCM放映枠をオンラインで売ることに着々と手をつけているということであり、広告代理店の社員はこちらにもっと注目すべきだ。

番組推奨サービスと組み合わせれば、オンライン買付は容易

ノバセル、マゼランなど、TVCMの効果測定と番組効率を評価するシステムが販売されている。今はどこもまだまだ限定的なソリューションで、電通/博報堂・ADKのソリューションも含めてまだまだ過渡期ではあるが、今でもビデオリサーチの視聴率情報だけでテレビ番組もテレビスポットも売り買いしていたのだから、実は広告主側も今のデータで満足してしまえば、どの番組を買うかを自分で決めて、オンラインで買うことはできてしまうのだ。

後は放送局の経営決断だけ

この先、TVCMのオンライン販売が広がるかどうかは、優良な在庫がオンライン販売に回されるかどうかが重要となる。電通への配慮として優良在庫は広告代理店の独占にさせるのか、それともそのしがらみを断ち切ってオンラインでも販売するようになるのか、放送局の経営判断となるだろう。

広告代理店は「広告代理店から広告会社へ」という動きがあり、広告主のマーケティング課題を解決することをビジネスだと再定義した。その後、更に営業という名称をやめて「ビジネスプロデュース」等に変えるなど、コンサルティングの真似事に変化しようとしている。これは逆に言うと、広告主側への注力を強化するもので、媒体社側への対応をビジネス上軽視しているとも言える。(勿論、電通はTVCMのオンライン販売で媒体社と協力体制を構築するなど部署単位では両面を見ている。)

一方で、放送局も媒体売上が利益にならなくなりつつある。

TBSやフジテレビは不動産・通販の利益貢献が大きく、朝日新聞なども不動産収入の方が多い。

合理的な経営者であれば、お荷物になりつつあるテレビ媒体事業をもっとデジタル化し効率的な販売にしてリソースをかけずに儲ける事業に転換するべきだ、と考えるだろう。そうなったときに、広告代理店という販売パートナーとの関係維持は、どれくらい経営にインパクトのある配慮事項となるだろうか、広告代理店の若手社員にとって他人事ではない。