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テレビ広告は、安いのか?リーチするのか?分析ツールに意味はあるのか?

広告施策の中でもテレビ広告がもっと費用対効果が高いことは、洗剤やファストフード店のように毎週テレビ広告を放映している企業にとっては暗黙の常識でしたが、最近はアプリゲームやプラットフォーム系のベンチャー企業界隈でも理解されつつあるようです。一方で、多くの企業にとってテレビ広告は「お金がかかる」「効率が悪い」という漠然としたイメージもあると思います。

テレビ広告は特長と注意点について、簡単にまとめました。

テレビスポット広告の”のべ到達回数”の効率は良い

テレビ広告は買いつけの形態が2つに別れています。番組を指定して2クール(半年)単位で買いつける「テレビタイム」と、獲得したい視聴率(地方は世帯視聴率・主要地区は個人視聴率)の合計値を指定して1~2週間に手中的に放映する「テレビスポット」とに別れます。テレビスポットで”どこの番組”、”どこの番組と番組の合間”に流れるかということを「線引き」と呼びます。

できるだけ多くの人に到達(=リーチ)させる費用対効果という目的では、テレビスポット広告が効率が良いです。企業によって契約単価は異なりますが、2億円程度で全国の各地域毎に1000世帯GRP(視聴率の”のべ”合計)を確保できます。1000GRPで何人に到達するのかを計算するのは面倒(一般的には負の二項分布モデルを使います)なのですが、クラスや会社で1/3くらいの人が1週間で3回くらい接触して、何となく最近見るね、という空気になると思えば良いでしょう。(本当は1200GRPくらいある方がベターで、更に”よく見るなー”と印象に残すなら2000GRPは必要です)

ところで、日本の人口は 1億2600万人居ますから、その1/3の4200万人に1回ずつWeb動画広告で接触させようと思うと幾らかかるでしょうか?CPVが100円で運用できたとしても42億かかる計算になりますので、テレビスポット広告の費用対効果の良さの肌感覚が掴めると思います。

そもそも、1週間で42億円もWeb動画広告には配信在庫がありません。元々、リーチするだけの媒体力がWeb動画広告の在庫では足りないということです。(因みに、テレビ広告とWeb動画広告の費用配分は「テレビ広告の予算を100%として13%分の予算をWeb動画広告でプラスで買う」というのがどこの会社のシミュレーションを使っても出てくる平均的な数値です。)

ただし、テレビスポット広告は、同じ人に何回も接触している

周りを観察していれば、毎日テレビを見てバラエティもドラマもときどきアニメも見るようなヘビーユーザーから、話題についていくために特定のドラマとニュースを見る人から、アニメ番組だけを見るような目的を持った人まで、様々なタイプが居ることは想像できるでしょう。

例えば、以下の4番組にテレビスポット広告で線引きしたとして、ある人は4回接触しますが、ある人は2回、ある人は1回しか接触しません。

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全員に届けようと思うと発注額を大きくするかテレビタイムを別途買わなければならない

「とにかくできるだけ多くの人に接触させたいのだ」ということであれば、BやCの番組のように様々な人に届く人気番組で放映する必要があります。この手の視聴率の高い番組はプライムタイムと呼ばれる20-23時に集中していて、このような高視聴率番組が集まるゾーンにテレビスポット広告で線引きして貰うには、発注額が多くないと本数を多くして貰えません(通称Aタイム)。或いは、テレビスポット広告とは別に、テレビタイム広告として年間通じて何本かを買いつけておいたり、多少ランクが落ちる番組であれば、1本や1ヶ月単位でも在庫がある場合がありますので、そちらで買いつける必要があります。

こうなってくると、果たして効率が良いと言えるのか?という問題が発生してきます。上の表で言う「主要番組のみ」を見ている人に届けるためだけに、2億かけることが正解なのかどうか、本当に自社の広告上の戦略ターゲットとして潜在層にまでお金をかけて到達させる必要があるのか、という点は検討した方が良いでしょう。

商品企画段階で販売管理費の計算は必要

商品企画が終わってから、「今回の商品は利幅が少ない低価格商品だから販売管理費がかけられない」とマーケティング部に相談しているケースは少なくないのではないでしょうか。よくあるケースではあるのですが、低価格でコアターゲットが存在しないコモディティ商品であるほど販売管理費がかかってしまいます。ニーズが明確な顕在層だけを相手にした商品であればWeb広告でターゲティングできますが、潜在層にまで広くリーチが必要なコモディティ商品は、テレビ広告以外に広く認知して貰う手段がありませんし、店頭で棚取りをする費用もかかります。しかも競合は著名なタレントを複数名契約し、振り付け師を用意して面白いダンスを踊らせたりと広告制作自体にもお金をかけて更にGRPも確保してきますので、同時期にローンチしているとそのボリュームとの戦い(シェアオブボイス)になります。

商品企画時点で販売管理費も想定して収益計算が必要ということです。単純に売上の何%を販売管理費にすれば適切かという計算ではなくて、商品のターゲットに届ける手法が何なのかを知っておく必要があります。

テレビ広告の効果分析ツールで効率化できるのか?

先程の通り、テレビ広告は同じ人に何回も当たってしまう特性があり「無駄が多い」という認識があると思います。故に「好きな番組を1本から変える」というサービスや、「Web広告と掛け合わせてどのテレビ番組が良かったかを分析する」というソリューションが提供されています。例えば、効果分析ツールを使えば、無駄や非効率な構造が打破できるのでしょうか。しかし効果分析ツールは導入に1000万くらいかかったり、調査データ使用料として何十万円か毎月かかったりするものです。

なぜ、無駄が発生するのかを改めて確認すると、実際の打ち手は最初から予想できたりするものです。同じ図を再掲します。

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例えば、多くの商品にとって、子どもとオタク及び一部の若年層にしか届かないアニメ番組に線引きされても意味がありません。実は昔から「アニメ・ギャンブルNG」というテレビスポットの発注形態が存在していて分析しなくてもちゃんとした広告代理店営業やメディアプランナーがコンサルティングしてくれれば設計できることです。

或いは、「多くの人が見ているプライムタイムの番組が良い」などという分析結果が出ることもあるでしょう。先程述べた通り「良い番組はタイム枠で先にセールスされているものを買う」「良い番組に線引するにはテレビスポットの発注額を増額しAタイムの本数を確保する」ということになります。「テレビスポットと同時に好きな番組も引ける」という発注形態も最近始まっていますが、希少な枠は取り合いですし、多くの商品にとって”潜在層”という人たちは、”主要番組しか見ない人たち”になりがちですので、どこの企業でも同じような”所謂誰もが知っている人気番組が取り合いになる”と覚悟した方が良いでしょう。

テレビとWeb広告の効果を統合的に分析してモニタリングすることは大事ですが、モニタリングして状況を確認できることと、効率化して費用の削減ができることとは別なので、テレビ広告の効率化を期待すると肩透かしかもしれません。

広告クリエイティブ(セールスのシナリオ)を変える方が重要かもしれない

ハズキルーペの広告が、”直接的なメリット訴求”にシフトしたことで話題になったことは記憶に残っていると思います。買いつけ方法の改善に投資することも大事ですが、顧客のインサイトを把握することや表現でインパクトを残すことも大事です。量(リーチ)の問題と質(クリエイティブ)の問題は別々ですが、両者の掛け合わせであることは変わりありません。