広告の基本戦術は、せいぜい4つ

マーケティング業界は毎年バズワードが生まれる。しかし、ベースとなる基本戦術の数はそう多くない。マーケティング業界の中の広告業界で使うのはせいぜい4つだ。

単純接触効果

全ての広告活動の基本。何度も接触しているとそれが無意識のことであろうと悪い印象であろうと回数が増えると好感度が上がるという実験がある。

1968年や1980年のザイアンスという社会心理学者の実験や論文に端を発し、その後も似たような研究がされている。

https://psycnet.apa.org/doiLanding?doi=10.1037%2Fh0025848

https://psycnet.apa.org/doiLanding?doi=10.1037%2F0003-066X.35.2.151

ただし、何回接触させればOKなのか?という議論は正解がない。というのも、「大学講義の教室にサクラが紛れ込んでいて、直接の会話がなくても顔を見ていた回数が多いと好感度が上がった」といった無意識下の接触もカウントされるので、計測が難しいのだ。

もちろん接触回数の影響を測定しようとする研究もあるようだし、

https://www.jcss.gr.jp/meetings/JCSS2012/proceedings/pdf/JCSS2012_P2-3.pdf

広告業界では、”3ヒットルール"といって「1週間に3回当てればまぁだいたい商品名くらいは憶えている」とフリークエンシーキャップをかけることが何となくの定説になっている。

リーチの確率分布

仮に3回接触させるとして、どれくら広告の量を投下するのか?という計算手法も確立されている。一般的に採用されているのはベータ・二項分布モデルだ。

そこそこ大きな広告代理店ならモデルが搭載されたプランニングツールを持っているので、自分で細かくモデリングする必要はない。

この2つのサイトの解説が丁寧だ。

広告効果測定の誘惑は強いようで、マーケティングコンサルやリサーチ会社あるいはITツールベンダーが広告効果測定ソリューションを提供している。色んなデータをつっこんで状態空間モデルで各特徴の貢献度(重み)を探るというアプローチが可能だ。

だが、どの施策が寄与したか?効率が良かったか?がわかったところで、「もうこれ以上、予算消化できません満稿です」というオチであったり「結局、みんなが見ている人気コンテンツ(プライムタイムの番組)が良い」とか「良いDSP枠は入札単価が高い」といった、現実が待っているので、効果測定に膨大な費用と時間をかけるよりは、自分たちのターゲットが集るところはどこだろうか?と探ったり、そもそもどんなシナリオが有効か?という戦術より戦略を練ったり、クリエイティブの注目率を上げる方法にリソースを割くべきだろう。

当てこすり/(最適複雑性モデル)

同じ広告素材を何度も使っていると人は飽きてしまうのでときどき素材を変える必要がある。業界ではこれを”当てこすり”と呼んでいるのだが、最近、音楽系の脳神経科学の分野では、逆U字モデル・最適複雑性モデルなどの名称で研究されていることを知った。

脳が記憶をするにあたって、ある程度、新奇性のある情報に強く反応する、という傾向があるため、単純すぎる情報は徐々に飽きてくるということだ。

https://www.jstor.org/stable/1179240?seq=1

なのでときどき広告は素材は変更しないといけない。勿論、ガラッと変える必要はなくちょっとずつ変化が分かるように変えるということだ。

バンドワゴン効果

”世間の評判が良い商品は売れるようになる”、身も蓋もない話だが、一度、事実上の業界デファクトスタンダードになったりカテゴリ純粋想起1位になるブランドは強い。

例えば、新しくマーケティングオートメーションのツールを入れるとして、勿論自社の要件にあったところを選びはするものの、実績数が多いことも判断基準にするものではないだろうか?そういった勝ち馬に乗る状態をバンドワゴン効果と呼ぶ。

ただし、これは理論なのか?というと疑わしい。心理学や神経科学でまだ裏付けがなく、数理モデルも存在しない。

似たようなもので、第三者の評価が効果的だというウィンザー効果というものもあるのだが、こちらに至っては小説があるだけだ。

デファクトスタンダードになるまでの戦術は様々で、初期導入費用をゼロにしてとにかくユーザーを増やすソフトバンクがよくやる手法だったり、グーグルアナリティクスなどITサービスが行うフリーミアムモデルを使うケースもあれば、LINEやメルカリがあるとき急に大量にテレビCMをやってマインドシェアを取るといった、様々な手法がある。

インフルエンサーやブロガーに口コミをして貰うのも狙いは同じで、自分はこの手の第三者に評価して貰う手法を「ジャスティン・ビーバーにイイねと言ってもらう戦略」と言っている。IT関係の人が勉強会で仲良くなった仲間に自著を献本してレビューを書いてもらうようお願いするのも本質的には同じだ。

その他

もっと細かいレベルの戦術(?)もある。

ユーザーが関与した方が愛着が湧くイケア効果だとか、一つ良い特徴があれば後光がさすというハロー効果だとか、値段を提示したらそれをベースに検討セざるを得ないアンカリング効果、顕示欲求のヴェブレン効果(逆にみんなが良いと思うものは良いバンドワゴン効果)、口コミのネットワークではハブに辺りさえすれば平均6回知人の知人に届けると狙いたい相手に届く六次の隔たり、といった「~効果」類や、ターゲットをアーリーアダプター~ラガードと分類して新しいもの好きから先ずアプローチしようというイノベーター理論など、他にも数多くあるが、実際の施策でそうしょっちょう使うものでもないし、理論というよりまだ個別の事例の寄せ集めを誰かが「~効果」と名付けポジショントークしている怪しいものもある。

基本の戦術は、上にあげた4つ程度を把握していればもう背景は充分で、その左記は、同じコンセプトの作戦違いだ。

例えば、B2Bマーケティングでセミナーやメルマガでリードを取って営業する手法もあるが、マス広告で単純接触効果をする代わりにターゲティングメディアやセミナーなどターゲットの職種の人が効率的に集る場所で単純接触効果を実施しているということになる。コンテンツマーケティングや記事タイアップにしても~の分野を調べるといつも~社の情報だな、という単純接触効果とバンドワゴン効果を狙っている。

或いは、Tik TokやFacebookは、最初にデファクトスタンダードになるために大学を1校ずつ行脚してその校内でナンバー1SNSになる、という戦術を数回繰り返して「若者はみんな使っている」状態まで持っていったことは有名だろう。

そういった応用ケーススタディを知りたい人は、例えば以下の3冊を読めばだいたいのB2B、B2Cの手法はイメージできると思う。