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次亜塩素酸水についてkが思うこと

はじめに

コロナ禍3年目の冬がやってきます。また北海道から冬の波が始まっていることが示す通り、やはり換気の難しくなる夏と冬に波が来やすいようです。

換気が難しい場合、空気清浄機を併用することも考慮すべきで、そういう動きも活発になっています。それ自体は良いことで歓待していますが、そうなるとまた空間除菌勢が勢いづきそうだなと危惧しています。

再三申しております通り、大前提として、「現時点」では、一般人が「空間除菌でコロナを撃退!安心の空間作り」は、どんな化学物質を噴霧しようが、厳しいです。そして、イベント会場に入る前の除菌ゲートは愚の骨頂であることも、既に述べたとおりです。


除菌ゲートではウイルスの伝播を防げません。

だから空気をきれいにするなら換気が一番です。

\換気を喚起/

真冬や真夏は換気が難しいので、換気と空調のバランスを見るためにCO2モニターを使うのも有用なのですが、なかなか取り入れる施設は少ないのが現状です。

こういう店👇が増えると良いのですが。

俺たちのサイゼ(平塚店)

幸いなことに、消費者庁も本腰を入れてくれて、大幸薬品のクレベリンにもメスを入れてくれましたし、あれのおかげで基本的には空間除菌勢の勢いは削がれ、置いている施設もずいぶん減りました。

ただ、次亜塩素酸水勢から、アレと一緒にすんなというご意見もあり、実際問題、そのお気持ちと理屈は理解しているので、今回は将来展望も含めて、空間除菌と次亜塩素酸水の細かい話に踏み込みます。

オゾンと二酸化塩素 vs 次亜塩素酸水

空間除菌にオゾンと二酸化塩素を使うのは、どちらも非常に強い酸化剤ですから、気道上皮に毒性が高いので厳しいです。安全域がない、あるいは仮にあっても狭すぎます。そして、空気は意外と混ざらないので、部屋の空気の中の濃度を厳密に管理するのも難しいです。よって、現実問題、オゾンと二酸化塩素での空間除菌は不可能と考えておいて良いです。しかも、オゾンや二酸化塩素は空気より重いので、赤ちゃんや小さい子が吸う空気で濃くなってしまうのも怖いところです。

Wikipedia「二酸化塩素」の危険性について
流石に吸って良いものとは・・・
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8C%E9%85%B8%E5%8C%96%E5%A1%A9%E7%B4%A0

対する次亜塩素酸水は、先の2つとは毛色が異なります。気道上皮細胞への毒性はin vitroで証明されているものの、かなり高濃度でのお話です。厚労省も「コロナにエビデンスがあるレベルで使うには、ジャバジャバと大量に使ってくれ」と周知しているくらいで、基本的にマイルド。なので、オゾンや二酸化塩素とは逆に、効かなくて偽りの安心になることが危惧されるから、これに頼るのはかなり厳しいという考えです。

要は、オゾンと二酸化塩素は危ないからNG、次亜塩素酸水は効果が望みにくいからNG、が軸足です。

そもそも次亜塩素酸水は「本当は安いプール用消毒剤であることを隠して、魔法の白い粉として末端価格を100倍くらいの値段にし、コロナ不安につけ込んで、テキトーな名前をつけて売っている輩」が群がっている上に、そうして作った次亜塩素酸水を噴霧して偽りの安心に包まれた施設でコロナのクラスターも生じていることから、医師としては全力で警戒しないといけなかったわけです。

で。
此処から先は新しい話。

次亜塩素酸水には、ヒトでも、もしかすると吸っても大丈夫な安全域があるかもしれない、でもやっぱり、リアルワールドで空間除菌として運用するのは難しい、という件を説明していきます。

まず基礎知識として、次亜塩素酸水は液性によってその性質が大きく異なり、アルカリ性になると次亜塩素酸ナトリウムの形になってしまい、細胞傷害性が増えてしまうということを押さえます。


厚生労働省
次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムの同類性 に関する資料より
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/08/dl/s0819-8k.pdf

その原因として考えられている仮説として、次亜塩素酸ナトリウムのような次亜塩素酸(イオン型)だと脂質二重膜である細胞膜を通過できず表面を傷害してしまうのに対し、弱酸性領域の次亜塩素酸水次亜塩素酸(非イオン型)なので細胞膜を通過して、中で酸化作用をきたすのではないか、といわれています。

仮にこれが正しいなら、短時間曝露であれば、表面積/体積比が小さい細胞ほど細胞内の次亜塩素酸水濃度が低くなるはずです。一般的に病原体のほうが人の細胞より直径が小さいので、表面積/体積比は(分子は二乗、分母は三乗に比例するので)大きくなり、死滅ないし不活性化につながりやすい。逆に、人の細胞内は体積が大きいので、この比が小さくなるから、人の培養細胞では病原体より耐性があるのでは?と考えています。

さらに、前にも書きましたが、生物学の知識として、膜損傷修復機能がウイルスにはなく真核生物にはあり、ダメージは共通でもその後の耐性が多少違う可能性もあります(ここだけはオゾンと二酸化塩素にも同じことが言えます)。

あと、in vitroの実験で、培養細胞より培養組織だと耐性が高くなるというのもあり、これは曝露面積と体積の比が耐性に影響している傍証だと考えています(もはやkの妄想レベルですが)。

ただ、肺胞上皮は表面積を増やすために思いっきり平ぺったい構造をしているので、気管支上皮とは耐性が異なる可能性があるのは注意が必要と考えています。

ちなみに、マウスの実験では次亜塩素酸水吸入の長期間の気道上皮の安全性が証明されているのですが、マウスは人間に比べて気道が細く、吸入実験に関しては、気相ならともかくエアロゾルでは粒子が奥まで入らないため、マウスで安全=人で安全、にはなりません。

ということで、in vitroやマウスの実験なのでエビデンスとしては弱いものの、理屈から考えても、次亜塩素酸水であれば安全域がある可能性もあり、空間除菌として使える可能性は、細い道としては残っています。

で、kの考えている、細い道が成立する条件として(and条件)

●電気分解を用いて生成(副産物の安全性まで証明するのは大変)
●「液性」と「濃度」を厳密に管理
●作りたて、ないしは紫外線がほとんどない状況(有効濃度が保たれている)
●できれば湿度80%以上がNGの精密機器がない空間(錆が心配)
●高い位置からミストを落とす形で利用(最低限、目鼻口の高さにミストが届かないと無意味)
●必ずマスクやディスタンスなどの他の個人対策と併用
●換気できるなら換気優先
●次亜塩素酸ナトリウムと間違える人が生じない
●悪徳業者の参入を阻止できる

液性はかなり厳密な管理が必要で、強酸性領域がNGなのは言うまでもないですが、pH <6だと時間経過で自然に分解して比較的安定な中程度の酸に変化してpH3台まで行くことが知られてますし、アルカリ性領域では先にも述べたように次亜塩素酸ナトリウムになります。

濃度に関しても、当然ながら、次亜塩素酸水は完全に安全無害!ってわけでもなく、高濃度では、in vitroで細胞傷害性が見られています。

空間除菌を勧める超党派の集会では、各テーブルに噴霧器を置いてましたが、胸元までしかミストが吹き上がっておらず、目鼻口の高さには届いていませんでした。これではほとんど意味がないでしょう。

さらにYouTubeにあがっていた動画を見ると、彼らは屋内なのにノーマスクでスピーチしたり、代表も長時間にわたって鼻マスクで、ウレタンマスクの人すらいました。仮にも政治家や企業の社長なので教養はあるほうだと思うのですが、それでも噴霧してれば大丈夫という偽りの安心に身を任せていたのがよく分かる動画となってしまっています。

で、さらに、最後の2つの条件がとても難しいです。

現実問題として、トランプ元大統領が「消毒薬を飲めば良いんだろ?」と言った話は有名ですし、実際に日本でも次亜塩素酸ナトリウムを飲んでしまって健康被害を生じた人も出ています。「次亜塩素酸水ってハイターで良いんでしょ?」というTweetもしょっちゅう目にしますし(血涙)。

また、某通販サイトでは海外業者が「次亜塩素酸水生成器と称した次亜塩素酸ナトリウム生成器」を1-2万円で売っていて(購入した化学ガチ勢が生成物の成分を検証している)、レビューを見ると(レビューが本当なら)健康被害も生じています。本当に酷い・・・。

空気清浄機であれば、悪徳業者が作ったときに「効果がない」だけなのでまだ良いです。でも次亜塩素酸水を撒くことを励行した場合に、まあ大抵、悪い業者が入ってきて、健康被害が生じるのは容易に想像できますし、既に生じているようです。そして海外業者は日本の法律では取締りが困難です。売り逃げされちゃいます、というか現にされてます。

というわけで、「きちんとした業者」が「防疫の知識がある集団」に対して、次亜塩素酸水を用いた空間噴霧を用いる方向性は残されているものの、一般人を対象として展開するのは難易度が高いと思うんですよね。

別にkは次亜塩素酸水が嫌いなのではなく、コロナ不安に乗じてエビデンスの無いものや偽りの安心を売りつける悪徳業者が嫌いなだけです。

そして何度も言ってますが、次亜塩素酸水は使い方次第で、現状でも、とても有用なものです。表面除菌や消臭スプレーとして使うのは問題ないと考えていますので、そこは強調したいところです。

いずれにしても、空気をきれいにするのは換気が手っ取り早いですし、換気が難しくても、まずは空気清浄機を使うほうが本筋と考えています。換気の次点としては「オーバースペック気味の空気清浄機を使いつつ、サーキュレーターも回すなどしてしっかりと風の流れを作る。さらに風下感染を防ぐために風邪の向きは一定にならないようにする」がおすすめです。空気清浄機は、エビデンスがあるHEPAフィルター式が安心ですが、準HEPAクラスでも大量に空気を通せば効果は望めるでしょうし、機械の中で次亜塩素酸水やUVを使う形式の空気清浄機もアリだと思います。加湿も有効なので、超音波加湿器を高めの位置に置いてミストを落とすように撒くとよいでしょう。まあいずれにしても、それだけに頼らず、マスクや距離との併用が前提です。

ということで、将来の展望としてなら、きちんとした業者が、知識のある人に対してというシチュエーションで、次亜塩素酸水の噴霧が感染対策の補助になる可能性は否定しません。でも現状では、期待できる防疫効果より危惧されるデメリットのほうが大きいので、医師が一般の人に励行できる状況にはないことをご理解いただければと存じます。

最後に

「危ないのは次亜塩素酸ナトリウムです。次亜塩素酸水であれば安全で無害です」は悪徳業者の常套句ですが、次亜塩素酸水でも高濃度では細胞傷害性があることはin vitroで示されています。また、プールはその白い粉で消毒してますが、裸眼で目を開ければ、白目が赤くなって痛くなりますよね。このことからも、少なくとも角膜に対して、プールの水の濃度のものを大量に暴露すると無害ではなさそうなのが、実感できると思います。

とにかく、使い方次第で良いものであるはずの次亜塩素酸水が、悪徳業者のせいで非科学的で怪しいもののように受け取られているのは不憫に思います。農業・畜産用には便利なのは存じてますし、消臭効果も高いわけでね。

ちうことで、業界は悪徳業者を駆逐していただいて、正しい使い方を推奨しておくれ、それならkも応援するよ、というお話でした。

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