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能登半島豪雨~多発した土砂災害~

9月21日、輪島に記録雨の情報が出たのを見て、そんなに降っているのかあと思った束の間、能登地方に大雨特別警報が発表され、事態の深刻さを認識しました。短時間のうちに豪雨が降り、能登の中小河川はいたるところで氾濫、土石流やがけ崩れなどの土砂災害も多発し、能登半島地震から復興の道半ば、大きな打撃を与えることとなり、見ているだけの私もつらい気持ちです。
国土地理院が9/23~24に空中写真撮影を実施し、その成果が9/25に早速公開され、この豪雨災害の全貌が見えてきました。少し考えたこと、気が付いたことを整理します。


1500箇所以上の土砂流出・崩壊・堆積

国土地理院は、空中写真撮影結果より斜面崩壊・土石流・堆積分布データを作成し、GISデータを公開しています(自動抽出するプログラムがあるのでしょうが、迅速な対応ですごいなと思いました)。データの免責事項を示しておきます。

免責事項
1.この情報は、国土地理院が9月23日及び24日に撮影した空中写真(正射画像)を用いて、令和6年9月20日からの大雨によって生じたと考えられる斜面崩壊地、土石流範囲及び堆積箇所を判読したものです。
2.現地調査は実施していないことから、実際に崩壊等のあった箇所でも表示できていない箇所や、今回の大雨による崩壊地等以外の箇所を表示している場合があります。
3.斜面崩壊・土石流・堆積分布は、長さ又は幅がおおむね50m以上のものを表しています。
 令和6年9月25日13時 国土交通省国土地理院作成

https://www.gsi.go.jp/BOUSAI/R6_noto_heavyrain.html#8

これをダウンロードしてGISで表示してみました。ピンクの枠線が判読範囲、黒塗りが雲がかかっていて判読できていない箇所、赤塗りが崩壊・堆積箇所になります。崩壊・堆積のGISデータの数が1500以上あり、すなわち斜面崩壊・土石流・堆積が1500以上も発生していたということになります。
このような土砂移動が発生した箇所は、能登半島の北側に集中していることがわかります。

国土地理院 斜面崩壊・土石流・堆積分布データより作成 (https://www.gsi.go.jp/BOUSAI/R6_noto_heavyrain.html#8

短時間に降った大雨

大雨特別警報が発表されるほどの大雨ということで、大きな雨量が観測されました。気象庁によるこの災害に対する一連の降雨期間の集計で、9/20~23の4日間で輪島508mm、珠洲398.5mmと能登半島北端で大雨になっていたことがわかります。

降水量の期間合計値 期間:2024年9月20日~23日
気象庁:特定期間の降水の状況(2024年 9月20日~2024年 9月23日)より引用

期間降雨量の多さもさることながら、特筆すべきは短時間に非常に大きな雨があったことです。1時間雨量・3時間雨量の図を以下に引用してきました。1時間雨量最大値は輪島で121mm(!)、珠洲で84.5mmでした。3時間雨量も輪島で220mm、珠洲で149.5mmとなっており、これらの地域に集中して短時間豪雨があったことが特徴的です。輪島の南の観測所である門前や三井も大雨にはなっていましたが、輪島や珠洲と比較すれば特異的な降雨とまで述べるほどではなさそうです。

1時間降水量の期間最大値 期間:2024年9月20日~23日
気象庁:特定期間の降水の状況(2024年 9月20日~2024年 9月23日)より引用
3時間降水量の期間最大値 期間:2024年9月20日~23日
気象庁:特定期間の降水の状況(2024年 9月20日~2024年 9月23日)より引用

土砂移動が生じた箇所の特徴

強雨の分布が能登半島北斜面に集中していることが前項でわかりました。土砂移動が発生した箇所も能登半島北側に多くみられており、降雨分布と土砂移動発生分布が整合的です。大雨がこの土砂移動を引き起こしたことは言うまでもなく間違いないのですが、今年の元日の地震がどのように影響したか?という点が気になり、少し整理しました。

下の図は、令和6年能登半島地震の推計震度分布を示しています。輪島や珠洲は全域が震度6弱以上であり、河川の堆積物に覆われた範囲では6強であったという特徴があります。したがって、これらの市内では、震度分布に大きな差異はなかったようです。

令和6年能登半島地震 推計震度分布
推計震度分布(気象庁)より引用

一方で、地質分布と土砂移動分布を重ねてみると、少し特徴が見えてきます。能登半島を構成する岩石は堆積岩と火成岩が主で、下図の中央に火成岩(黄土色)があり、その東西は堆積岩(黄色、ペールオレンジ)となっています。地質との関係性を見ると、堆積岩地域で多く土砂移動が生じており、火成岩地域では比較的少ないように見受けられます。崩壊面積を求め、定量的な検証が必要ですが、定性的には上記の特質があるように考えています。

20万分の1シームレス地質図との重畳

山本の土石流災害

2か所ほど、気になった個別の災害事例を挙げます。
まずは凰至川沿いの山本という渓流の土石流災害です。国土地理院の土砂移動GISデータを見ると、渓流のあらゆる谷で土砂移動が生じており、土砂が流出していることがわかります。ほぼすべての谷地形のある箇所で土砂移動している渓流として、目につきました。

中央が「山本」の渓流

この渓流は土石流危険渓流として指定されており、土砂災害警戒区域が設定されていました。土石流の危険が認知されている箇所で、実際に土石流が発生した事例となります。ただ、土砂災害警戒区域(下図の黄色ハッチ)で示された範囲を超えて、土砂流出・堆積が生じていた様子が航空写真からは確認できました。この夏に発生した山形の北青沢小屋渕の土石流もそうでしたが(下の記事です)、警戒区域を超えて土砂が到達することはままあるようです。航空写真では土砂の堆積深がわかりませんが、特徴として押さえておく必要があると感じました。

石川県SABOアイより引用

この山本という渓流について、能登半島地震発生前・発生後・大雨後の3時期の航空写真を比較して示してみました。地震前は渓流内に裸地は見られませんが(図中央北側の谷筋はやや植生が薄い。これまでに記事にしてきた樹高図があればわかるのだが)、地震により斜面崩壊がしていることがわかります。そして、今回の大雨でいたるところで崩壊が発生した様子です。地震により不安定化していた土砂が、大雨により移動してしまったことが想像されます。

地理院地図より画像を取得した。

塚田川の土砂・洪水氾濫

続いては、輪島の市街地に注ぎ込む塚田川という河川です。この河川は下図に示す通り、下流部で土砂堆積が生じたことが判読されています。土砂堆積の上流端は谷が開けるところで、扇状地的な地形になっていることも特徴のひとつです。

塚田川流域の土砂移動

この下流部に着目して航空写真を観察すると、たしかに土砂に覆われている様子が確認できます。谷が開ける地点では、流木が大量に堆積していることが特徴です。これが流下してきていたら、さらに大きな家屋被害が生じていたでしょう。さらに下流部の方では、土砂が家屋に侵入していると思われる様子が見られます。このような河川下流部での土砂災害は、上流で大量の土砂移動が生じることで、下流の河道が土砂で埋まってしまうことで生じる土砂・洪水氾濫が発生していたのではないかと想像します。

地理院地図より

塚田川上流域について、山本と同様に3時期の航空写真を比較してみました。この流域の特徴は、地震により地すべりが発生していることです。画像の東側に大きく白い山肌が露出した箇所がありますが、土塊の上に樹木が残存している様子が見られますので、これは地すべりの土塊であると推定します。大雨後は拡大崩壊や、新たな崩壊が発生しており、これらが流下して下流部に土砂災害を引き起こしたものと想定しています。

地理院地図より画像を取得した。

おわりに

防災に関心があり、このように災害が起こるといろいろ調べてみたりしているのですが、地震と大雨のダブルパンチにどう対応していけばよいのだろうかと考えたりもします。地震も、このような記録的な大雨も、発生確率は低いもので、両者が同地域で起こる確率はもっと低いといえるでしょう。確率は低いとはいえ、この災害では亡くなった方も複数出ており、見過ごすわけにはいかないと思います。
また、今回の大雨の特徴は、短時間に猛烈な雨があったという点で、避難行動が難しかったのではないかと想像します。前日に北陸や東北で大雨になる予報はありましたが、このように線状降水帯が発生し、急激な大雨になることは予測できていなかったと思います。気候変動により短時間豪雨が増加していくと予想されている昨今、難しい課題ではありますが向き合っていかなければいけないものと思っています。

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最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


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