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大学の偏差値の仕組みと限界

多くの高校生・受験生、学生をサポートする方が大学選びの際に調べるであろう「偏差値」ですが、どのように算出されているか、またどのように捉えればよいのか詳しく分からないという方も多いかと思います。
そこで初回のこの記事では改めて大学進学における「偏差値」について、仕組みと現状について解説します。
「偏差値」にこだわりすぎて自身のキャリアの選択を誤らないように、しっかりと「偏差値」について理解しましょう。


偏差値とは

まず初めに偏差値に考え方をおさらいしましょう。

偏差値とは、一言で言えば、母集団の中での位置づけをわかりやすく示すもので、テストを受けた集団の中で自分がどれくらいの位置にいるかを表す数値です。
平均点を偏差値50になるように変換し、その基準からどれくらい高い、または低い点数だったかを表します。
これにより、自分の実力を相対的に把握できるようになるわけです。

スタディサプリ進路 https://shingakunet.com/journal/exam/20170327209633/

上記のようにある母集団の中での位置づけという数値です。
あるテストで何点とれたかでは、母集団の中で良い成績だったか、どの程度の順位だったのか分かりませんので偏差値を用いることで相対的に自身の実力を測れるようになります。

大学の入試の指標としての偏差値

しかし、前述の偏差値の解説ではあくまでも「偏差値」という数値の解説となります。大学入試において「偏差値」というと大学の難易度、レベルを示す指標のようであると感じている方も多いのではないでしょうか。
あるA大学では経済学部の入試偏差値が45、一方のB大学では入試偏差値が55となっている場合、B大学の方が優秀な大学であり、学力が高い大学と捉える方も多いと思います。
では大学のレベルを示す「偏差値」とはどのような仕組みで算出されるのでしょうか。
まず、大学の偏差値として用いられる数値には大きく分けて2つの種類があります。

  • 河合塾の模試を用いて算出する偏差値
    多くの進学メディアや予備校が指標として掲載しているものは、こちらの河合塾の模試を用いて算出される偏差値です。河合塾の模試を過去に受験した学生に対して、受験後に各大学の受験結果をヒアリングし、過去の模試の偏差値がどれくらいの学生が当該大学のどの入試で合格したかによって算出するものです。
    算出の方法が違うため、後述のベネッセの模試を用いた偏差値と比べ、低く算出される傾向にあります。

  • ベネッセの模試を用いて算出する偏差値
    ベネッセの模試「進研模試」を用いて算出する偏差値です。高校などで一斉に受験する方も多い模試で全国で広く活用されている模試です。
    基本的な算出方法は上記の河合塾のものと同じになりますが、基準とする合格率の違いなどがあります。

上記2つの偏差値でも数値が異なります。
例えば、明治大学 法学部 法律学科でも以下のように異なります。
※リンク先の情報は定期的に更新されますのでご注意ください。

【河合塾】
2023年第3回全統共テ・記述模試 全学部統一 62.5

【ベネッセ】
2024年1月1日掲載  全学部統一 72

このように自身がどちらの偏差値を見て大学・入試を比較しているか意識する必要がありますので、さまざまな大学情報メディアでどちらの偏差値が掲載されているか注意しましょう。
ちなみに旺文社のパスナビは河合塾の偏差値情報を掲載しているため、大学関係者も多く閲覧しています。
高校教員や予備校、大学関係者の多くは河合塾の偏差値を基準に話すことが多いため、主に河合塾の偏差値を基準とすると良いでしょう。

大学入試における偏差値の仕組み

では、前述の説明を読むと「どちらの模試で算出されたか」の違いはあれど、大学のレベルを示すことには違いがないと感じる方もいるかと思います。純粋に数値を比較するとそうなのですが、大学入試担当者の視点から見ると偏差値の数値だけでは大学の実態のレベルを表していないと言えます。

偏差値の仕組みを理解している入試担当がいれば、大学の序列を決める「偏差値」を高くしようと施策を打つことができます。
シンプルに考えれば、一般入試で、河合塾の模試で高偏差値をつけた受験生でも簡単に合格できない入試であれば偏差値が上がるという性質があります。その際に以下の3点を押さえ、入試制度を設計することで大学全体・特定の学部の偏差値を高くすることができます。

  1. 多くの志願者が受験する入試にする
    入試ごとの定員に対して、単純に受験する人数が多ければ不合格が多く出ます。そうすると、倍率が上がり高偏差値の受験生も不合格となるため、偏差値が高くつきます。その数値が次年度の模試判定に持ち越されるので偏差値が高くつきます。
    大学入試を調べている人であれば「併願し放題で検定料xxx¥」「1学科分の検定料で3学科まで併願可能」といった施策をみることがあるかと思います。18歳人口が減る中で実数の受験生を増やすことは難しいですが、1つの大学内で併願を増やすことで高偏差値の受験生にいくつも出願してもらう方法です。

  2. レベルの高い受験生に受けてもらう
    上記の通り母数を増やすことが難しい場合、効率的に高偏差値の受験生に出願してもらう方法として奨学金入試のような方法がとられます。また、入試日程の設計としてよく、併願される他大学の入試日程とずらして日程を設計することで、併願層に効率的に受験してもらう方法があります。

  3. 入試を細分化し、定員を小さくする
    偏差値というのは大学ごと、学科ごと、入試区分ごとに算出されますが、高校・予備校に掲示されているような「偏差値ランキング」などの表は各学科の"一番募集人員が多い入試"で記載されることが多いです。そのため、入試を細分化し一番募集人員が多い入試のサイズを小さくすることで倍率をつけ偏差値を担保する方法がとられる場合があります。

もちろん、上記の方法で単純に単年度レベルがあがるわけではなく複合的な要因があり、偏差値が上下するのですが、上記のポイントを押さえていると大学ごとの入試制度の狙いや、どの入試で入学者を確保しているかが見えてきますのでぜひチェックしてみてください。

コロナ以降の偏差値について

今の受験生の保護者の方の世代は、大学受験というと一般入試・センター試験入試がメインであるというイメージを持っている方は多いかと思います。
実際に平成12年には65.8%の入学者が一般入試で入学しましたが、平成31年には53.0%と減少しています。
出展:文部科学省「平成31年度入学者選抜における受験者数等

さらにコロナ禍以降の2022年度入試では私立大学の入学者のうち、一般選抜での入学者が4割程度と推移しています。

そうすると単純に、私立大学における一般選抜の偏差値は入学者の約4割の実力を表したものということができます。
さらに「大学入試における偏差値の仕組み」で解説したように、各大学は偏差値をキープするようにさまざまな施策を行っているため、正しく偏差値という指標を理解しないと自分にあった大学選択ができないといえるでしょう。
18歳人口が減少を続け、コロナの影響で一般入試バブルが弾けた今、各大学は指定校推薦やAO入試といった年内入試で「入学者を確保」し、一般選抜では偏差値キープのために倍率を高くするといった大きな流れがあります。
多くの大学では指定校推薦や総合型選抜などの年内入試を「専願(合格した場合は入学することを条件)」とすることが多く、大学側からすると早い時期で入学者の確保ができるため、志願者が減少する一般選抜での確保すべき入学者数を小さくすることができる≒入試難易度を上げることができ偏差値コントロールが可能といった戦略を取ることができます。

まとめ

記事で解説したように多くの受験生・保護者が気にかける「偏差値」という指標は機械的な指標であり、大学の序列・教育を正しく示しているかというと一概には言えないものです。
もちろん、大学選びの際に大学名や偏差値なども重要な要因となりますが、18歳人口が減少を続けるなかで指標が示すものも形を変えてきています。
指標を正しく理解することで、教育力のある大学、合格に近づきやすい入試を選ぶことができます。
また、大学関係者は現時点で偏差値が高い大学・学部だから大丈夫と安心しない方が良いでしょう。改革の早い大学は入試制度といったテクニックを用いて短期的な募集を成功させ、教育改革・国内外の大学間連携といった長期的な施策を並行して準備しています。厳しいマーケットでは時流を読み間違えると容易にゲームチェンジが起こりうるでしょう。


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