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現代は「新しい戦前」か

 ちょっと普段と趣を変えて、冷戦が終結して30年経ってみたらどうして「新しい戦前」と形容されるような状況に陥ってしまったのか考えてみよう。
 もちろん自分は専門の研究者でもなんでもないネットやテレビでニュースを見ながらあーだこーだいってるお茶の間評論家のひとりでしかないので、ちゃんとした研究者にとっては百も承知のことかもしれないし、まったくの的外れかもしれない。
 あくまでひとつの思考実験としてとらえていただきたい。あえて整理せず思いつくまま記してゆく。でははじめよう。

 第二次大戦の原因はもちろん単純ではないが、そのひとつが戦前のブロック経済体制にあったことは否めない。列強が自国を中心とする排他的な経済ブロックを形成し、拡大を求めた結果それぞれのブロック間の衝突が生じた。日本の大陸進出は顕著な例と言えるだろう。
 戦後、その反省もあって自由貿易体制が整備された。少なくとも理念の上では対等で自由な貿易によって相互に依存することで衝突を回避しようとした。いわば世界全体をひとつの経済ブロックにしようとしたのだ。

 ところが冷戦下にあってこの自由貿易体制から排除されたのがソ連や中国だった。自由貿易体制の恩恵に与れないこうした権威主義国は独自のブロックを作ろうとした。
 またこうした国々では第二次大戦の原因をファシズムに求めた。ファシズムと民主主義の闘争という構図に対立関係を押し込み、ブロック経済体制の危うさは忘れられた。

 冷戦が終結すると西側諸国は東側諸国を自由貿易体制に組み込もうとした。自由貿易による相互依存が衝突の可能性を下げるという共通認識があったからだ。しかしそうした考え方は旧東側の権威主義国では定着していなかった。
 西側諸国は権威主義国から資源を移入し製品を出荷するという相互依存を進めた。しかし権威主義国はこれを嫌った。はじめのうちは国内産業基盤の弱さもありそうした立場を受け入れざるを得なかったが、西側諸国から技術の移入を続けながら自立をはかった。少なくとも中国はこの30年でそれにある程度成功した。

 相互依存による緊張緩和という概念に乏しい権威主義国、特に中国は、他国は自国に依存するが自国は他国に依存しないという一方的な依存関係の構築を目指している。こうした極端な自国第一主義は国際協調と相互依存を基盤とする西側諸国の価値観と相容れない、新たな経済ブロックの構築を目指すものとも言える。
 冷戦期と異なり中国の経済力は格段に大きくなり無視できないものとなっている。その中国が経済ブロックを目指すならば、西側諸国も対抗する必要が生まれる。近年議論がされている経済安全保障はその表れのひとつだろう。

 中国はアジアやアフリカ、太平洋地域などの第三世界諸国に経済支援を梃子に影響力を強めている。西側も対抗しようとしているがこうした発展途上国の政治体制は権威主義的体制と親和性が高く西側諸国は不利な争いを強いられている。こうした争いは第二次大戦前のブロック間の勢力争いと共通の構造をもつ。
 いまは世界共通の自由貿易体制を維持するのか、それとも新たなブロック経済体制が成立するかの過渡期にある。しかし中国側に自由貿易体制を許容する姿勢が見られない以上、事態は楽観できない。いちどブロック経済体制が成立してしまえば、限りある資源の争奪戦となり緊張激化は避けられない。

 第二次大戦前のブロック経済体制、冷戦期の東西ブロック。いずれも解消されるためには大きな痛みを伴った。いままさに生まれようとしている新たなブロック経済体制が最終的に解消されるにはやはり大きな痛みを伴うことだろう。それが軍事力の行使となるのか、政治経済の範疇にとどまるのかは計りがたい。けれど今後こうした争いが避けられない状況に近づきつつあるとするならば、いまはある意味(タモリの意図と合致しているかどうかはともかく)「新しい戦前」と捉えることもできるだろう。

 ただし過去の戦前と「新しい戦前」では日本の立場はまったく異なる。かつての日本はブロック化を維持し強化しようとする立場だったが、いまはそれに抗する立場にある。その違いに目をつぶって単に「大軍拡反対」などと言い募るのは無責任であろう。

 中国の考え方を外部から変えるのは難しい。深刻な衝突を回避するために手段を尽くすことは当然だが、日本を含む西欧諸国と中国の目指している方向性はまったく違うというのは認識しておくべきだろう。
 日本にとってアメリカも中国もどちらも大事というのは無論なのだが、強いてどちらかを選ばなければならないという状況に陥ったとき、アメリカを選ぶしかないというのは自明だろう。そしてそうした状況を作りつつあるのが中国自身なのである。

 こうした状況認識に立つと日本など西欧諸国は当面、中国によるブロック形成を阻止するよう動くべきだが、それでも遅らせるのが精一杯で完全に阻止することは難しいだろう。早晩、中国が西欧諸国から自立した経済圏を作り上げてしまうという前提で戦略を練る必要がある。後知恵になってしまうが「かかわることで相手を変える」という考え方はあまりに楽観的で、単に時間を稼がれただけだったのだ。


 思考の連鎖はまだまだとまらないが、ひとまず一区切りとしよう。具体的にどうすればよいのか、特効薬はない。

 ではもし機会がありましたらまたお会いしましょう。

(カバー写真は中国人民解放軍海軍の空母遼寧)

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