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テクノ・リバタリアンという、新しいアナキストたち

"テクノリバタリアン″と呼ばれる人たちのことをご存知だろうか。

テクノリバタリアンとは、技術(テクノロジー)とリバタリアニズム(自由主義)を組み合わせた言葉であるが、テクノリバタリアンをChatGPTに聞いてみると以下のような答えが返ってくる。

技術革新と個人の自由を重視し、それが社会全体における公正と発展に貢献すると信じる者

ChatGPT

おそらくこの定義に間違いはないだろう。テクノ・リバタリアンはテクノロジーの進化を推し進めることで中央集権的な管理から自由になること。そしてそれが社会全体の利益につながることを信じて疑わない、ある種の信者であり思想家なのだ。


橘玲さんの著書『テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想』を読んで、私はテクノリバタリアンの存在(言葉とその意義)を初めて知ったが、大変興味深かった。


本書で取り上げられているテクノリバタリアンは、イーロン・マスク(スペースX、テスラのCEO、X Corp.の執行会長兼CTO)や、ピーター・ティール(PayPal、OpenAI、Palantir共同創業者であり、Meta最初期の投資家)、サム・アルトマン(OpenAI社の最高経営責任者であり、Yコンビネータの元代表)や、ヴィタリック・ブテリン(プログラマーであり、暗号通貨イーサリアムの考案者)といった人たちだ。

彼らに共通している点はまず、彼らがアナキスト(無政府主義者)であることだ。

インターネットによって世界中のコンピュータが接続されると、国家・政府はもちろん、組合や企業のような中央集権的組織も不要で、完全な自由を保証された個人のネットワーク(自生的秩序)だけがあればいいとする、より純化したアナキズムが登場する。これがクリプト・アナキズム(暗号アナキズム)だ。

テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想

「クリプト・アナキズム」とは、暗号(クリプト)を使って政府や中央集権的な組織を必要としない社会を実現しようとする「陰謀」的な運動のことだが、暗号にはcypher(サイファー:平文を暗号化し、それを復号するアルゴリズム)という単語もあり、ここからサイファーパンク(cypherpunk)という言葉が生まれたと著者は言う。

そう、サイファーパンクとは、1984年にウィリアム・ギブソンの『ニューロマンサー』の登場によって打ち立てられたSFジャンル、「サイバーパンク(cyberpunk)」に引っかけて作られた言葉なのだ。




「怪しい匂いがしてきた」と感じる方もいるかもしれないが、彼らの思想の発端はきわめて素直なものだ。例えばイーサリアム(暗号通過)の創設者であるヴィタリック・ブテリンにはこんなエピソードがある。

ヴィタリック・ブテリンは1994年にロシアに生まれ、6歳のときに家族とともにカナダに移住した。小学校の頃から数学とプログラミングに強い関心を示し、13歳でMMORPG(Massively Multiplayer Online Role-Playing Game:大規模多人数同時参加型オンラインRPG)のワールド・オブ・ウォークラフトに夢中になったが、ある日、ゲーム会社がナーフ(ゲーム全体のバランスを調整するために、バッチやアップデートによってキャラクターのクラスやスキル、武器などを下方修正すること)によって、大好きなキャラだったウォーロック(魔法使い)の呪文を削除したことにショックを受け、ひと晩泣き明かした。この体験から、ブテリンは中央集権的組織への懐疑をもつようになったという。

テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想


いかにも年頃の子どもが抱きがちな猜疑心である。ブテリンの猜疑心が単なる猜疑心で終わらなかったのは、彼にはPCという道具とインターネットというテクノロジーと、それらを使いこなすプログラミングという技術があったからだ。

だからこそブテリンはさらなる自由を求めて、中央集権に縛られないイーサリアムという最高の暗号通過を作ることができたのである。


私はこのテクノ・リバタリアンという、新しいアナキストたちに大いに期待する。彼らはまだ若いが、テクノロジーという大きな力を持っている。中央集権と既得権にまみれた世界を変えられるのは、おそらく彼らしかいないと思うからだ。

テクノ・リバタリアンがやろうとしていることは、一言で言ってしまえば社会の合理化であり効率化だ。これは日本の組織などでは最も忌み嫌われる考え方だが、この流れにあらがうことはもはやナンセンスだろう。

なぜなら進化の流れを止めることは誰にもできないからだ。

他力本願かもしれないが、テクノ・リバタリアンたちが構築しようとしている未来と新しい社会を心から応援したい。



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