知られざる発達障害者の性のハナシ
今回は、アンケートの結果、皆さんの関心がいちばん高かった「発達障害と性」について書いてみようと思います。
自分自身も発達特性故の性の悩みもありましたし、周りの発達障害の方をみていても色んな性の悩みを抱えているようでした。
しかし、性に関することについては、日本ではタブー視されることも多く、他人のSEXについてはいわばベールに包まれたパンドラの箱。
特に、発達障害の性は周りに理解されにくく、一人で悩みを抱えがちかと思います。
今回は、発達障害者が性に対して前向きになれるような展開を意識しました。
このnoteが、性に悩む発達障害者、またはその家族・支援者にとって、何かの参考になれば幸いです。
なお、内容については、一個人の見解ととらえて下さい。
①発達障害者を取り巻く性の問題
発達障害を抱える人は、被害者にも加害者にもなり得ます。
特に深刻なのが、幼いこどもの性被害。
人の言葉の裏を読むことが苦手な発達障害児は、悪意ある大人の性被害にあいやすいのです。
警戒心のなさが、ケダモノのような大人につけいるスキを与えてしまうのです。
法務省が実施した下記の調査が、発達障害者への性暴力の実態を浮きぼりにしています。
https://www.moj.go.jp/content/001310438.pdf
要約すると、発達障害者は男女問わず、性被害に遭う確率が健常者よりも数倍高く、とくに女性でその傾向が顕著であるようです。
しかも、これは日本特有の問題ではなく、世界的にも問題視されている事実のようです。
一方加害行為については、発達障害者と健常者では差はないようですが、共通しているのは、加害行為の背景には「認知の歪み」が存在しているという点です。
そして、この認知の歪みをひきおこす原因として、発達障害やパーソナリティ障害があるとのことでした。
認知の歪みとは簡単にいってしまうと、客観的事実を自分の都合のいいように解釈してしまう認知パターンです。
詳しくは、同じく法務省が公表している、こちらの文献をご参照下さい。
https://www.moj.go.jp/content/001362700.pdf
要するに、発達障害者は、被害者にも加害者にもなりやすい性質を持っているのです。
性犯罪は、時として一生消えない深い傷を心に刻みます。
最悪の場合は、自ら命を断ってしまうことにも繋がりかねません。
僕自身がそうだったように。
②ケーススタディ
ここからは事例をまじえて、発達障害者が抱える問題の本質を覗いてみましょう。
個人が特定されないように、それぞれのケースについては、架空の人物を設定して話をすすめたいと思います。
(1)自他の境界があいまいなAさん(男性)
Aさんは小さいころから親に容姿をけなされることが多かったことで、自分の容姿にコンプレックスを抱いていました。
あるとき、見た目がとてもタイプの女性と接する機会があり、普段は奥手なAさんにしては驚くような積極的アプローチをしかけました。
結果、その女性と恋仲になったAさんは、付き合いが始まるやいなややや強引に男女の関係を持ったのでした。
Aさんは自分に欠けていた"理想の容姿"を、彼女と肌を重ねているときだけ手に入れたような錯覚に陥るようになりました。
友達にも彼女を自慢し、友達が羨ましがる様子を見ていると、それまで抱いてきた容姿のコンプレックスを忘れられたのです。
体の関係を持ったときには、彼女と自分の境界線がなくなり、あたかも一人の人間として完成されていくような気分にひたるようになりました。
やがて、彼女が自分の意思に反する言動をするようになると、自我が崩壊するような恐怖感を抱くようになり、怒り狂うようになったのです。
その尋常でない様子をみて、女性はやがて恐怖心を抱くようになり、Aさんと距離を置くようになりました。
「もっと肌を重ねたい…」と思うAさんの心の叫びも虚しく、やがて2人は破局を迎えました。
このケースを端的に表すピッタリな曲があります。
B'zの『Love Phantom』です。
”ふたりでひとつになれちゃうことを気持ちいいと思う内に、少しのズレも許せないせこい人間になってたよ"
発達障害特有の「自他境界の曖昧さ」が招いた悲劇と言えます。
(2)ADHDの衝動性と生きづらさからの逃避願望によって性依存になったBさん(女性)
Bさんには年のはなれた妹がいました。
小さな頃から長女としての親からの期待を一身に背負っていたBさんは、なかなか親の期待にこたえられずに苦しんでいました。
特に父親からの期待は凄まじく、ADHD故の衝動性によって、奔放な振る舞いをしていたBさんはたびたび父親と衝突していました。
やがて妹がその秀才ぶりを発揮しはじめると、両親はもはやBさんには見向きもしなくなり、Bさんの妹を可愛がりはじめました。
そのころから、Bさんは不特定多数の男性と関係を持ち始め、ますます親からは眉をひそめられるようになります。
親から得られなかった愛情を男性に求めるようになり、だれかれかまわず体の関係を持ち、沢山の男性に良いように遊ばれては捨てられるのをくりかえすようになってしまいました。
Bさんは自分の体を、男性を繋ぎ止めることに利用するようになり、妹からおくれること5年やっと結婚した男性にも不倫や浮気をくりかえされるようになりました。
あるとき親を見限ったように、夫にもみくだり半をつきつけて離婚をするに至りました。
その後、Bさんは誰とも心から結ばれることなく、ついには新興宗教に救いを求めて、どっぷりとのめり込むようになってしまいました。
このケースでは、問題の本質は、発達障害特有の衝動性と自己肯定感の低さです。
もっと早くに、適切な性教育と自分を大切にする教えがあったなら、Bさんは男性たちに遊ばれることなく幸せな結婚生活を送れていたかもしれません。
Bさんが幼かったころには、まだ発達障害の概念すら知られていなかったのが残念でなりません。
(3)相手の心が読めず性加害者になってしまったCさん(男性)
Cさんは幼いころから、他者とのコミュニケーションに困難さを抱えていました。
幼児のときの発達検査では「自閉症」の可能性を指摘されていました。
中学校になるころには、「クラスのみんなが僕のかげ口を言っている」と大人に訴えるようになり、徐々に不登校気味になってしまいました。
周囲の反応を被害的に受け取る一方で、他者の何気ない言動を「自分への好意」ととらえてしまうこともありました。
高校に進学してからは、まわりと距離を置きながらも毎日学校に通うようになりました。
あるとき、筆記用具を忘れてしまったCさんがあたふたしていると、となりの席の女子がペンを貸してくれました。
『こんな僕のためにペンを貸してくれた。きっと彼女は僕に気があるにちがいない』
親しい人のいなかったCさんは、徐々にその女子が気になるようになりました。
何とか仲良くなりたい一心で、帰り道、その女子の後をつけるようになりました。
Cさんに対して特別な思いや警戒心を持っていなかった彼女は、帰りに道にCさんをみとめるとにこやかにほほえみかけました。
その笑顔をみたとたんにCさんは感情をおさえられなくなり、彼女に抱きつくやいなや近くの公園の茂みに彼女を連れ込み体中をまさぐるという行為に及んでしまったのでした。
『やめて!やめて!』という叫び声を聞いてかけつけた大人たちに取り押さえられたCさんは、後日その噂を聞きつけたクラスメートたちの白い目に耐えきれず、高校を中退してしまったのです。
このケースでは、前述したような「認知の歪み」が問題となっています。
そもそも、幼いころから、周りがCさんを受容するような態度を示していたならば、Cさんは周囲と適切に関われていたかも知れません。
認知の歪みに関しては、脳機能の問題だけとは言い切れず、生い立ちや後天的に備わった性格の影響も大きいと言われています。
③性とどう向き合っていくべきか
「性」は動物的な意味合いで言うと、種の保存に直結する行為であり、理性の及ばぬ領域です。
しかし、人間は動物とは違い、社会を形成して生きる生き物です。
そんな人間にとっては、性は生殖行為以上の意味を持っています。
理性で性欲をコントロールしていく為には、適切な教育と、衝動をコントロールする術の学習が必須になります。
自分自身の話にはなりますが、僕自身も、ケーススタディに出てきた人々と似たような失敗を過去に犯してきました。
幸いにも犯罪行為に至る前に、良識ある優しい方々の関わりによって救われました。
そして、僕は今、性的逸脱行為を犯すことなく、結婚生活を送れています。
僕は、自分と同じく発達障害を抱える人たちが、被害者にも加害者にもなることなく、性を楽しまれることを心から願っています。
誰も傷ついて欲しくない一心です。
そのためには、性の持つもうひとつの意味、すなわち性は「人と人とをつなぐ情緒的なコミュニケーション」でもあるということを知ってもらいたいのです。
僕には、幸いにも、それを色んなところで学ぶ機会がありました。
実体験もそうですし、本で学んだ知識もあります。
(※僕が女友達に教えてもらったこちらの本からは学ぶことが多かったです)
何よりも大事なことは、自分が性的欲求を抱く対象は、自分と同じく心を持った一人の人間であることを知ることなんです。
発達障害者は特にその点を見落としやすいと思うので、しっかりと周りが伝えていくべきと考えます。
「性」は人間にとって欠くことのできない大切な行為です。
それをあらためて知ることで、一人でも多くの人が、被害者や加害者にならなくてもよくなることを心から願っています。
イルハン
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