あとを濁さず
うちのじいちゃんはかなりの綺麗好きだった。いや、整理整頓魔といった方がいいかもしれない。
昨日までたしかにこの部屋に住んでいたはずなのに、生活感なんてものはひとつもありはしない。
ぴちっと揃えて並べられた蔵書の中には、「ドイツ式 片付けの秘訣」なんて本があった。
ってことは、この生活感のなさは、じいさんのたゆまぬ努力によって作られたものなのだろうか。
なんて思いを馳せてみたところで、今の私には正解はわからない。ねぇ、じいちゃん、教えておくれよ。なんて空を見上げてみたところで、結局無意味だしな
整然としすぎた遺品たちを一つずつ箱にしまい、そのたびに、そこへの「何も残っていなさ」に泣けてくる。
思えばばあちゃんが亡くなってから三年間、あのひとは死に方を探していたのかもしれない。
いつそちらに行ってもいいように。残されたひとたちに、できるだけ影響を与えないように。
なぁ、じいちゃん。最期の三年間、幸せだったかい。
もっと会いに来ればよかった。
それで、もっともっと楽しいことを、たくさん一緒にやればよかった。
ばあちゃんとのツーショット写真を箱におさめた時、ぽろりと涙が一粒だけこぼれた。
顎の先から伝ったそれは、使い込まれた絨毯に吸い込まれて、まるでそんなもの最初からなかったかのように、すっと、跡形もなく消えていった。
(お題:ドイツ式のジジィ 制限時間:15分)
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