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細く吐いた息は呪詛だった

 したためているのは恨みつらみの類ではない。
 淡々と並んでいるのは事実だけ。
 手紙という体裁をとってはいるものの、箇条書きにした方がよほどわかりが良さそうな内容だった。
 ○月○日○時○分、5発殴られる。顔に痣。みたいな。
 新聞記事か、レポートか。
 それともこれは訴状だろうか。
 私のことをねぶり続けた奴の顔を思い浮かべながら、あいつが断罪される瞬間を見ることができないことだけを心残りに思う。

 みじめで、しみったれた、鼻クソみたいな人生だった。
 本当に死にたい時に頭をよぎるのって、「私が死んだら誰か泣いてくれるかな」とか、そんな甘っちょろいことじゃない。
 私が死んだことで、どんだけあいつが迷惑被って頭かきむしんだろうなって、ただそれだけ。
 できるだけ苦しんで、できれば死ね。
 そんなことを思っている私が落ちる先は間違いなく地獄だろう。げ、そしたらあっちでもあいつと一緒かな。勘弁だよ。

「優奈、ご飯よー!」

 猫撫で声で私の名前を呼ぶんじゃねぇ。
 私は書きかけの便箋と封筒を机に伏せ、ベッドに潜り込む。
 このまま返事をしなければ、キレ散らかしたあいつがやってきて、挨拶がわりに2、3発かますだろう。
 この身体に傷をつけろよ。警察が隅から隅まで調べるだろうこの身体に、てめぇの罪を刻み付けろよ。

 階段を昇る足音が聞こえる。封筒に書かれた「遺書」の二文字が、息を潜めながら私達の様子を伺っていた。

(お題:隠された声 制限時間:30分)

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