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野球におけるイップスについて

スポーツにおいて不安や緊張といったものは欠かせないものであり、その中でもイップス (心因性運動機能障害) は精神的な原因などによりスポーツの動作に支障をきたし、突然自分の思い通りのプレーや意識が出来なくなる症状のことである。イップスと類似したものとしてスランプやアガリというものがあるが、スランプは高度な技術を習得しようと意識するあまりに陥る症状であり、アガリは試合の肝心な場面で生じるものであるためここでは区別していきたい。

先行研究を参考にし、この文において「心理社会的要因が引き金となって、(心因性)
投球・送球において上下左右に暴投してしまい(運動機能)
その状態が一ヶ月以上続く状態」と定義する。
ここで一ヶ月以上と定義させていただいたのは精神障害による診断基準が一ヶ月以上と定義されているからである。

◆イップスの原因とされているもの

医学書院「運動機能学」によると
指導者、先輩、チームメイトなど周囲からの評価や反応により投球動作が不自然となってしまいイップスに陥ってしまうもの
練習中に暴投気味の投球をしてしまい投げることへの恐怖が強くなってしまい、また周囲からの指摘により強く意識してしまい不安が大きくなってしまうもの
また一度ミスをすると再びミスをしたらどうしようといった予期不安から陥ってしまうものなどが挙げられている。

実際イップスに陥ったとされるプロ野球選手の経験として桑原将志選手(DeNAベイスターズ)は「プロに入ってサードとショートしか守ったことがない状態でセカンドになった時に距離が近くなりそこから感覚がわからなくなり10mぐらいの距離が投げられなくなった」とコメントしている。また投手としては竹下浩二(元横浜大洋ホエールズ)は巨人での打撃投手初日に中畑清、原辰徳、ウォーレン・クロマティに投げることになったが最初の打者・中畑への初球で手首に死球を与えた。中畑が翌日に手を包帯でグルグル巻きにしている姿を見て青ざめた。「縮こまってしまった。球を持っている感覚がない。空気を握っている感覚。捕手も捕れないぐらい球が散らばって。右打者に当てないように考えたらひっかけて。どうしていいか分からなかった」それ以後ブルペンで投球をしてもキャッチボールさえできない状況になったのである。
このようにリリース感覚がわからない、近い距離が投げられないといった「投げる」という身体のコントロールが難しくなり誰でもできるようなプレーが出来なくなってしまうのである。

これらを踏まえてイップスを構成する要因は「予期不安」「緊張」「他者評価」「距離」「イメージ」などが考えられ、また被験者には「投手」「一塁手」「外野手」が多いという。確かにイップスを患った選手の多くは田口壮二軍監督、内川聖一選手、桑原将志選手と後に外野手にコンバートされた選手が多くまた一塁手に関しても同様の理由であると考えられる。

◆考察

イップスの発症原因やきっかけであると考えられる「予期不安」。過去に暴投をしたときに指導者や先輩、チームメイトから評価が悪くなってしまいそのイメージが払拭できずに野球を続けていくうちに暴投への不安が高まっていく。過度の不安が選手のパフォーマンスに影響を及ぼしていると考えられる。通常通りの動作が一連の流れで行えずギクシャクしてしまうのではないだろうか。とりわけ野球という競技は「間」の多いスポーツであり、本来であれば自分のベストパフォーマンスをするためにそのようなプレーをイメージするはずであるがイップス傾向にある選手は自分が失敗したらどうしようといった「予期不安」でいっぱいになる。このような予期不安によるパフォーマンス低下を防ぐためにも自分のいい動作もしくはプレーをイメージできるようにすることが大切である。またイップス傾向にある選手は周囲の指導者、先輩、チームメイトからのアドバイスや指導が多い。これは単純にイップス傾向にある選手はうまく投げられないことから単純に指導が多いということ。また周囲の人々からの指導を過剰に気にしてしまうということである。イップスに陥った選手は周囲からの声を気にしすぎてしまう傾向にあり、それがあまりにも多くの情報だと本人は処理しきれず悪循環になってしまう。自分が思い通りに投げることが出来ないのに他の人は思い通りにに投げている。そのことによってますます投げることに対して悪循環に陥ってしまう。また先述した竹下打撃投手はイップスが治ったきっかけとして同じ指導者であった明るい言葉かけ、打ち解けやすいように他指導者間からの工夫があったことなどをあげている。
このようにイップスに陥ってしまった選手には投げることに対して自信を持つことが出来るような指導や言葉かけが大事であると考える。

◆終わりに
イップスを克服する方法も書籍や記事などで様々なものが挙げられています。ただこうしたら100%全員が治るという治療法は無い非常にやっかいなものですが「イップスの選手を治す」ことよりも「イップスの選手を作らない」ことが大事なことです。今後そんな指導者が増えるといいですね。

#イップス #心因性運動機能障害 #投手 #内野手 #外野手


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