予想外のOPECプラスの増産決定がもたらす悪影響 原油価格は再び急落か、さらに深刻化するサウジアラビアの財政難_ 掲載日:2021-04-17

○資料リンク:https://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/fuji-kazuhiko/250.html

○記事サマリー

・米WTI原油先物価格は再び1バレル=60ドル割れとなっている。背景に、①OPECの減産規模縮小、②実需給のネガティブ要因(イラン・米国供給増加、印・中の需要減少)が挙げられる。

・原油価格の下支えをしてきたOPECプラスの減産の効果が弱まれば、原油価格が再び急落するリスクが生ずる。伴い、深刻な財政難に陥っているサウジアラビアの財政難は拍車がかかるのではないか。

①詳細:減産規模縮小の背景

・OPECとロシアなどの大産油国で構成される「OPECプラス」が4月1日、市場の予想を覆す決定を行った。OPECプラスは、協調減産の規模を5月と6月はそれぞれ日量35万バレル、7月は同44万バレル縮小することを表明した。

・独自の追加減産(日量100万バレル)を実施していたサウジアラビアもその規模を5月に25万バレル、6月に35万バレル、7月に40万バレルと縮小する方針である。

・これにより7月までに日量200万バレル以上の原油が増産されることになるが、その規模は世界の原油供給量の2%以上に相当する。

・筆者は、サウジが協調減産に応じた背景に、イエメン内戦への支援を基にした米国からの働きかけによる影響ではないかと考えているとのこと。

・サウジアラビアのイエメン内戦への介入は7年目に入ったが、戦果を挙げられず逆に反撃を喰らっている。例えば、連日のようにサウジアラビアの空港や石油施設などに無人機(ドローン)やミサイル攻撃など。

・サウジアラビア側は「攻撃を未然に防いだ」との大本営発表を繰り返しているが、同国軍のパトリオットミサイルなどの操作能力は低く、米軍が戦争指導を行っているのは周知の事実。

・自国の安全保障環境をこれ以上悪化させないためには、「用心棒」である米国からの増産要請をサウジアラビアは無下にすることはできないため、協調減産に応じたとの見立て。

②詳細:実需給におけるネガティブ要因

供給(増加傾向)

・供給サイドの動きだが、ロイターによれば、3月のOPECの原油生産量は前月比18万バレル増の日量2507万バレルだった。増産に最も寄与したのはイランであり、原油生産量は前月比21万バレル増の日量230万バレルとなった。
(中国が日量約100万バレルのイラン産原油を購入したことが主な要因とされている(3月31日付OILPRICE))。

・世界最大の原油生産国となった米国の生産量は、コロナ禍でピークと比べ日量約200万バレル減少した状態が続いていたが、このところ石油掘削装置(リグ)稼働数が順調に増加しており、今後上昇基調になるとの観測が強まっている。

需要(減少傾向)

・世界最大の原油需要国である米国の需要が節目の日量2000万バレルを超えたが、世界第3位の需要国となったインドでは新型コロナウイルスの感染再拡大により今後需要が減少する懸念が生じている。

・コロナ禍における世界の原油需要を牽引してきた中国の需要に、コロナによる油価下落時に備蓄含め買い漁っていた影響と国外の石油製品の需要減で、原油在庫の消化が遅れている。

・世界の原油在庫が昨年半ばから減少しているのに対し、中国の原油在庫はコロナ前に比べて約7億バレル増加したとの見方がある(4月6日付日本経済新聞)。中国の在庫が余剰になれば世界の原油市場にとって大きな不安要素となる。


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