《サス経》 海の生物多様性保護のための重要な一歩

歴史的な合意:公海協定の成立


 先週末の土曜日(4日)、ニューヨークで海の生物多様性を守るために大変画期的な合意がなされました。どこの国にも所属しない海、いわゆる公海における生物多様性の保全と持続可能な利用のための新しい国際協定である「公海協定(High Seas Treaty)」に世界が合意したのです。これにより、生物多様性への悪影響が懸念される活動、例えば鉱物資源の開発や無秩序な漁獲などが制限できる目処ができたのです。

 これまでも公海の利用については、国連海洋法条約(UNCLOS)の中で規定されていました。しかし、これはむしろ公海を自由に使うことを保証するためのものでした。たとえば公海を航行する自由、上空を飛行する自由、漁獲の自由、パイプラインや電線を敷設する自由、海洋科学調査の自由などです。

これまでのルールでは不十分


 自由に航行したり、海底に電線を自由に敷設できることはたしかに必要なことですが、皆が自由に使えることができるとしていると、皆が共有の資源を乱獲することにより、資源の枯渇を招いてしまうことがしばしば発生します。いわゆる「コモンズ(共有地)の悲劇」です。そうなってしまっては皆が困るので、誰しもそうならないようにしなくてはいけないことは分かっているのですが、それでも管理者がいなければ、自分の利益を優先させてしまう。なので結局、資源は枯渇してしまうのです。なんとも悲しい人間の性です。

 もちろん国連海洋法条約でも資源保存のための義務もいくつか規定しているのですが、それだけでは不十分だったので、今回の公海協定が作られたのです。これにより海の生物多様性を守るための保護区を公海の中に作ることができるようになり、専門家からは歴史的な合意と評価されています。

 実はこの協定は2004年から議論が始まったのですが、20年近い議論を経て、今回ようやく合意に達しました。海洋遺伝資源の利用によって生じる利益をどう共有するかについての議論で難航したそうですが、最終的にはその一部をこれから作る基金に組み込み、それを海洋保全に取り組む発展途上国の支援に使うことに決まりました。

30 by 30 が加速


 ご存知の方も多いと思いますが、昨年12月の生物多様性条約COP15で合意された生物多様性世界枠組(GBF)では、2030年までに地球上の陸地及び海洋の双方でその30%を保護することが目標に定められました。いわゆる30 by 30(30% by 2030)です。しかし地球上の海洋の95%を占める公悔は、前述のようにこれまでは保護されていませんでした。各国が領海や排他的経済水域の中で保護策を進めることはもちろん重要なのですが、面積的にみればそれは誤差の大きさで、公海の保護なしに海洋の生物多様性の保護はありえないのです。なので今回の合意は、30by30の達成を現実のものにするためにも大変強力な武器となります。

 ちなみに陸上の保護区について言えば、企業緑地等も含めて自然を保全することに貢献する土地、いわゆるOECM(Other Effective area-based Conservation Measures)、環境省が「自然共生サイト」と呼ぶ場所が注目されています。現在日本では陸域の保全地域は20.5%となっており、自然共生サイトを認めることで30%はかなり現実的な目標になってきました。一方、海域で保全された場所は13.3%しかありません。しかも現在「保全地域」に含まれている部分も、基準がかなり緩いのではとの指摘もあります。

 ということで、国内でも(つまり領海でも)保全地域を増やすことはさらに頑張る必要があるのですが、公海の方は今回の協定が本当に大きな推進力です。(なお、日本がこの協定に参加するかどうかは、今後政府が受け入れの可否を検討し、国会で承認する必要があります。)

地球最後のフロンティアを守るために



 広く、そして深い海は、地球の最後のフロンティアとも言われます。私たちが知らないこともたくさんありますし、水産資源だけでなく、CO2の吸収源としても海洋は重要な役割を果たしています。だからこそSDGsでもわざわざ14番目の目標として海洋の生物多様性の保全が挙げられているのです。

 今回、公海協定ができたことで、日本でも世界でも、海洋の保護策が一気に進むことを期待したいと思います。

 サステナブル・ブランド・プロデューサー 足立直樹

株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)463(2023年3月8日発行)からの転載です。

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