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《サス経》 COP27で決まらなかったこと

 いよいよ2022年も終わりです。今年は生物多様性条約はようやくCOP15が開催されGBF(生物多様性世界枠組)も採択されましたが、その前に11月に開催された気候変動枠組条約のCOP27は、昨年のCOP26に比べてあまり進展しないようにも感じました。その進展しなかった部分も含めて、重要なところを11月25日発行した「サステナブル経営通信」(vol.456)で解説しましたので、それを再録したいと思います。

COPで決まったこと、決まらなかったこと


 気候変動枠組み条約のCOP27が終りました。今回の成果として、いわゆるロス&ダメージ、つまり気候変動の影響に伴う損失と損害への支援のために国際社会が措置を講じることや、そのための基金を設置することが決まりました。もちろんとても良いことですし、ジャストトランジッション(公正な移行)のためにも必要なことですが、今回はあえてそのことではなく、COP27で決まらなかったことを取り上げたいと思います。表には見えないことにより大きな価値があるとまで言うつもりはありませんが、今回は決まらなかったことにも大切なことが多くあったからです。

 まずもっとも重要かつ残念な「決まらなかったこと」は、1.5度目標を達成する緩和計画が前進しなかったということです。現在の各国の目標を積み上げても1.5度目標を実現するのに不十分であることは、事前に分かっていました。特に排出量の多い途上国は削減対策を強化することが期待されながらも、結局は各国の立場や意見の違いが対立し、緩和計画を実質的に前進させることはできなかったのです。

 化石燃料を段階的に削減することについても、前回のCOP26より踏み込むことはできませんでした。気候変動の影響を強く受ける島嶼国や議論をリードしてきたEUはもちろん、アメリカですら対策のされていない化石燃料は段階的に廃止すべきであるとしたにも関わらず、世界的な合意は得られませんでした。

 このように緩和については実質的に失敗だったと言ってよいでしょう。適応を支援し救済するロス&ダメージが議論され、合意されたとは言え、そもそもその原因の解決は進まなかったことになります。NGOや若い世代が苛立ちを高めることは続くでしょう。

 もちろん経済的支援は実際に損害を受けている方々にとって一定の救いになることは間違いなく、これまでより大きく前進しました。けれど、今後このまま気候変動による被害が増えてしまっては、それを経済的に支援することも現実的にどんどん難しくなっていきます。やはり、まずは緩和なのです。

ZEVへの移行


 また遅くとも2040年までに世界中で新車の販売をすべてゼロエミッションの自動車(ZEV)にする、すなわちガソリン自動車からEVに移行するイニシアティブのアクセレーティング2ゼロ(A2Z)コアリーションがイギリス政府の主導でスタートしました。けれどもアメリカ、中国、日本、ドイツなどの「自動車大国」が反対したため、世界が合意するには至っていません。

 それでも、COP26の際のZEV宣言に比べると、フランス、スペイン、メキシコなど参加する国は増えていますし、自動車会社、一般の企業、そして自治体からの参加も増えています。先進国なら2035年までに、途上国でも2040年までに新車販売をZEVに全面的に切り替えることを支持する国、自治体、企業、投資家が確実に増えているということは、やはりしっかり受け止める必要があるでしょう。まだ世界合意ではないからとか、日本国内は違うからと軽く見ていると、後から痛い目にあうかもしれません。

 さらにこれも本会議で合意されたわけではありませんが、もうひとつ注目したいのが、前回のCOP26で国連が組織した「非国家アクターによるネットゼロ排出宣言に関するハイレベル専門家グループ」が、ネットゼロについての報告書INTEGRITY MATTERS: NET ZERO COMMITMENTS BY BUSINESSES, FINANCIAL INSTITUTIONS, CITIES AND REGIONSを発表したことです。


ネットゼロのグリーンウオッシュはもう許されない


 グテーレス事務総長が自ら登壇し、「私たちはネットゼロのグリーンウオッシングを許してはいけない。このレポートが、信頼でき、説明責任のあるネットゼロ誓約をガイドするものだ」と述べ、事実上、このレポートの10の提言を国連が認めるネットゼロの定義であるとしたのです。


 内容的にも厳しいものになっていますし、何より既存の自主的なイニシアティブに遅くとも来年のCOP28までにこの基準にあわせるように促していますので、大変なことです。COPの決議で決まったことではないものの、これがデファクトのスタンダードになるものと考えられます。これに従わないイニシアティブは今後はグリーンウォッシュと後ろ指をさされ、投資家からも敬遠されてしまうかもしれません。

 ということで、COP27でやはりいろいろな動きはありましたし、合意されたことだけがすべてではありません。そして、これ以外にもいろいろな動きもあったはずです。あなたが気になった出来事があれば、ぜひ教えていただければ嬉しく思います。そういう動きを追いかけることで、世の中の流れがもっと立体的に見えてくるし、気候危機の切迫感も理解できるでしょう。

 サステナブル・ブランド・プロデューサー 足立直樹


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